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血染めの月光軌  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
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第26話 黒幕の影

 今回から、《堕天使》とかの《》を外すことにしました。読みづらいかな、と感じたので。……べ、別に、面倒になったとか、そんな理由じゃないんだからねっ!

 ……マジで申し訳ないです。(謝るくらいならやんなきゃ良いのにと自分でも思うけど結局やっちゃうんですよね)

「おいコラちょっと待て」

「うわっ!?」

 ルチアーヌ・セヴェリウムは、フェンスを越えて逃走しようとする男の襟をむんずと掴んだ。

 場所はフェンスの上だ。男は地面に降り立つことが叶わず、ルチアに首根っこを掴まれてぷらーんと垂れている。

 男は頬が()けるほどに痩せていたが、女性の細腕で男性の身体を支えられる訳がない。勿論、ルチアは能力創造を行使している。

「なっ、なんなんだよお前っ」

 じたばたと暴れながら、男が喚く。

「放せっ」

「悪いけど、なんなんだよは此方(コッチ)の台詞だよ? ――ロナウド・コバード君?」

「え? 何で俺の名前……知って……」

 男が、濁った目でルチアを見上げた。彼女の顔と水色の髪を捉え、やがて彼は目を見開く。

「あ、貴女は……い、石屋のっ……」

 にっこり、とルチアはロナウドに向かって微笑み掛けた。

「君、退学になったんだって? 残念だったねぇ?」

「なっ……! そ、それ何でっ……」

 愕然としたように顔を歪めるロナウド。

「まぁそりゃ、《融合結晶》を使ってたらいつか学院にはバレちゃうでしょ? あそこには《天才》がいるからね?」

「て、天才?」

「学院長のことだね? そんなことよりも君に聞きたいことがあるんだけど?」

「そんなことって……アンタが言ったんじゃねぇか……」

「うっさい。黙って訊ねられたことに答えろ」

 急に変わった口調に、ロナウドはびくりと身体を震わせた。

 ルチアはかなりの童顔の上に小柄な、見た目だけはただの可愛い『女の子』――まかり間違っても『女性』ではない――なので、睨まれてもあまり怖くない。――と、思っているのはレゼルだけである。実際には、彼女の眼力には殺意に近いものが籠っていてとても怖かったりする。

 ルチアはフェンスの縁に左手を掛け、右手でロナウドの襟首を掴んだまま、彼に幾つかの質問を始めた。

「君、何でこんな所にいるの?」

「……」

「はい黙秘ー。言っとくけど、黙秘すればするほど自分の立場悪くなること忘れんなよー。じゃ、次の質問ね」

 すぅ、とルチアの瞳が細められる。

「……君、どうやって結界師が創造する《誘導結界》の堕天使感知を無効化したの?」

 さぁっ、とロナウドの顔が青褪めた。

 それを冷めた瞳でルチアが眺める。

 一つ目の質問を黙秘した時点で大体は予想が付いていたが、ビンゴだったらしい。

 今回の堕天使戦争は、結界師による事前感知が無かった。裏に何かあるとは考えていた。勿論、レゼルも同じだろう。

 ――しかし。

 結界師の堕天使感知を妨害あるいは無効化するなんて大それたこと、こんな三流以下の創造術師に出来るのだろうか。実際、レゼルがいなければリレイズの街は壊滅していただろう。

 しかも、堕天使感知の妨害や無効化なんてことは過去に例が無い。

「……せ」

「え、何? よく聞こえな――」

「放せっつってんだよ、このクソアマ!」

 ロナウドはいきなり怒鳴り散らし、フェンスを踵でガシャガシャと蹴り始めた。

「あんな学院、あって良い訳ねぇだろがっ! ふざけんな、俺はロナウド・コバードだぞ!? コバード家の長男だぞっ!? なのにこの俺が退学? ざけんなっ! あんな学院、潰してやるんだよッ」

 ヒステリックに叫び、口から唾を飛ばす。

「……ふぅん、それが動機?」

 そんなことはどうでも良いが、取り敢えず唾を飛ばすなら前方に顔を向けて欲しい。汚ねぇんだよ。

「ま、退学は自業自得っしょ。あたしから《融合結晶》買って優秀なフリしてたんだし?」

「うるせぇなっ! 黙れ黙れ黙れッ、黙れよッ」

 コイツが今回の堕天使襲撃戦争で結界師の堕天使感知を妨害または無効化したのは間違いなさそうだ。――図星を突かれただけでここまでパニックになる人間も珍しいが。

「君、どうやって結界師の妨害したの? アンタの後ろ(バック)には何がいるの?」

 ロナウドの首根っこをガッシリと掴みながら、ルチアはやや早口で訊ねた。

「うるせぇっ! 黙れっつってんだろッ!!」

 ヒクッ、とルチアの蟀谷(こめかみ)が震えた。

「いいから答えろっ、ここから投げるぞ!?」

 ルチアが足を掛けているこのフェンスは、戦闘区域をぐるりと囲むものだ。素材もただの金網ではなく強化合金材であり、当たり前だが高さがある。飛行する堕天使もいるのだから、ある程度の高さが必要なのだ。

 優に30メートルは超えた高さである。

 人間が落ちて確実に死ぬ高さは10メートル程度と言われている。優秀な創造術師なら、こんな高さは物ともしないだろうが、ロナウドではそうはいかないだろう。実際、ルチアに捕まる前に彼は、ちゃんとフェンスに足を掛けて降りようとしていた。(これを軽いジャンプ一つで飛び越えたレゼルはやはり色々と例外的である。)

 ロナウドも一応は創造術師の端くれだ。今ルチアに手を放され落ちたところで死にゃしないだろうが、彼女の強化した腕力で更に高空に身体を放り投げられたら分からない。いや、確実に人生がエンディングを迎えてしまうだろう。

「……ま、エンディングは近いけどね」

 自分の頼りない足下を見て、ロナウドはぶるりと身体を震わせた。恐怖からか、ルチアの呟きは耳に入らなかったようだ。

「早く答えろ、時間が無いの」

 襟を掴んだ腕を右に左に揺らす。ルチアも大概いい性格をしていた。

「うわああぁぁぁぁぁっ、止めっ、止めろ、落とさないでくれえぇぇぇ」

「落とさないから早くして。時間が、もう――」

「嫌だ、死にたくない、落とさないで、頼むからっ……」

「落とさないって言ってるでしょ! あのねぇ、時間がないのはあたしじゃなくて君なの!」

 ピタリ、とロナウドの動きが止まった。涙と鼻水に濡れた皺だらけの顔で見上げてくる。

「……それ、どういう意味だよ……?」

 ルチアは泣き笑いのような歪んだ表情をしたロナウドに、殊更薄情な瞳を向けた。

「……君から微かに刺激臭がする。これは青酸系かな。もしかしたら青酸カリかも。君、何時だか知らないけど、一服盛られてるよ」

「……何だよ……それ……どういうこと……」

「青酸系にしては効果が出るのが遅いから、多分薬物は創造術で創った創造物。……食べ物や飲み物に盛られたんじゃなくて、体内に直接創造されたのかもね。でも、体内に直接なんて、そんなことが出来るのかな。体内のエナジーと、薬物になる前の融合体は他人同士のものだからかなり反発する筈……」

「ふざけんなッ!!」

 思考の世界に没入してしまっていたルチアの意識を浮上させたのは、ロナウドの怒声だった。

 絶望と激怒に染まった顔で、彼はボロボロと涙を流す。

「……ふざけるな……あの野郎……騙しやがったなっ……」

「――あの野郎? やっぱり、君のバックには誰かがいるの? 誰? それとも組織? 国家?」

 ルチアが矢継ぎ早に訊ねるが、ロナウドはパニックになっていて全く聞いていない。

「嘘だ……死ぬなんて、そんなこと……」

 首をだらんと垂らし、彼は顔を上げようとしない。

 やがて不気味な嗤い声を漏らし始めた。

「は、ははははは……ふふふふふっ……ははっ、あはははははっ……」

「……」

「ははははは……ゴフッ」

 ボタボタ、とロナウドの口から血の塊が零れ落ちた。

「……吐血。死んだか」

 ルチアは白目を剥いた男の死体から手を放した。死体は重力に従って落ちていき、みるみる小さくなっていった。

 手に力を込め、フェンスの上に身体を持ち上げる。約10センチしかないところに立ち、数秒間だけ下を眺めた後、ルチアはフェンスの縁を蹴って戦闘区域の外側に飛び降りた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ。落とした」

 ルチアが男の身体を手放すのを見て、レゼルはポツリと呟いた。

 堕天使との戦闘は既に終わっていた。――にも関わらず、彼は汗一つかいていないが。

 両手に紅の双剣は無い。これももう消失(バニッシュ)させており、堕天使は全て光の塵となって消えている。

 だが、能力創造は行使し続けたままなので、銀髪碧眼の状態だ。

 レゼルは迎撃区域を走り抜け、フェンスを軽々と飛び越えた。もう戦闘区域に用はない――というより、早く退散しなければ堕天使と戦う為に来た協会の創造術師に見つかってしまう。

「え、レー君!?」

 上から降ってきたレゼルに、ルチアは驚いたような顔を向けた。

 レゼルは雪の飛沫を巻き上げて地面に着地した。

「……どうしたの?」

「いえ。ただ、ルチアさんがその男を捕まえたのを横目で見ていたので」

 レゼルはルチアの足元を指差した。そこには口周りに血をこびりつかせた男の死体が雪に埋まっている。

 ルチアは少しだけ苦い笑みを漏らした。

「流石レー君……堕天使との戦闘中も平気で余所見出来るんだ?」

「いや、チラッとですけど。……それにしてもこの男、何処かで見た気が……」

 レゼルが眉を寄せて首を傾げる。

 ルチアは死体の襟首を掴んで雪の中から引っ張り上げ、

「ロナウド・コバードだよ、ほら、レー君の編入試験の日に依頼(たの)んだでしょ? 《融合結晶》取って来てって?」

 思い出した。レゼルは、ぽん、と手を打つ。

「ああ。あのナイフ君か」

「……ナイフ君て?」

「学院長が付けた奴の渾名ですよ。それよりも、ソイツ、NLFが独断で身柄を押さえる気ですか?」

 レゼルの質問に、ルチアは躊躇うことなく頷いた。

「彼の動機は学院への復讐……リレイズの街諸共潰そうとしたのはやり過ぎだけどね?」

「まさか……コイツが今回の堕天使襲撃の黒幕ですか?」

「黒幕とも言えない黒幕だね、強いて言えば黒幕の一枚目かな? コイツの後ろ(バック)には誰かがいる……それが個人か組織か国家かは分からないけどね?」

 ふぅ、とルチアは溜め息をついた。

「堕天使が結界師の事前感知無しに堕ちてきたのもコイツの所為っぽいけど、どうやったのかは聞けず(じま)い……コイツのバックに何がいるか分からない以上、あらゆる組織、国家、団体の均衡を保つ為にも在るNLFが介入するのは当たり前でしょ?」

「……まぁ、そうなんですが。しかし、今回のことはディブレイク王国も大きく見るでしょうし、唯一の手掛かりとも言えるロナウド・コバードの死体を無断でかっ攫うのはどうかと……」

「大丈夫、バレなきゃ問題無いよ? だからレー君、協会の創造術師が来る前にずらかるよ?」

 次はレゼルが溜め息をつく番だった。

 読んで下さりありがとうございました。

 今回はちっぽけな悪役がただ死ぬだけの話になってしまい、申し訳ありません……。


 そういえば、ルチアって水色の髪でツインテールなんですよね。「……あ、(初音)ミクだ」と気付いたのは最近です。パクってないもん。……すみません。あ、でも、私の中のルチアのイメージはミクとは全然違います。髪型と色がかぶっちゃっただけ。ミクファンの方、ごめんなさい。

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