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血染めの月光軌  作者: 如月 蒼
第一章 創造祭編
24/61

第21話 月華

 今回も意味不明と感じられてしまう点が多々あると思います……(ノдT)

 申し訳ないですorz


「《堕天使(だてんし)》が堕ちた……だと?」

 ルイサが信じられないような瞳で眼鏡のレンズ越しに此方を見た。

 レゼルは上に向けていた視線を()ろして、彼女のそれを真っ正面から受け止める。

「馬鹿な……結界師は何をしている!? 《堕天使》が現れる半日前には感知出来ている筈だろう!」

 ヴーッヴーッ、と警報が五月蝿く鳴り響く中、ルイサは叫ぶ。

 混乱――はしているかもしれないが、情けなく狼狽えている訳ではない。

 ただ彼女は理解しているだけだ。

 ――今の状況が、どれだけ危機(ピンチ)なのかを。

 通常、《堕天使》との戦争は敵が堕ちて来る時刻を結界師が感知し、それから戦闘部隊の編成を開始する。

 数の少ない創造術師(クリエイター)を、ずっと一つの戦闘区域に縛り続けておく訳にはいかないし、大体《堕天使》が街にある戦闘区域に堕ちて来るのは一年に一回程なのだから、そんな時間も人力も無駄になるような事は出来ない。

 故に、《堕天使》が堕ちて来る事を事前に察知出来ていなかった――出来ていればレゼル達は戦闘区域に入れなかっただろうし、学院にも報告が行く筈だ――今回は、完全に後手に回った事になる。部隊の編成が全く出来ていない今では、《堕天使》に殺られるだけだ。

「……《堕天使》が堕ちて来た事は事実ですよ。取り敢えず今は、現状の確認がしたいですね。司令室に行きましょう」

 ノイエラや晴牙は勿論、《堕天使》との交戦経験のあるミーファやルイサまでもが顔の色を蒼白にさせる中、レゼルとセレンだけは酷く落ち着いていた。

「……どうして」

 掠れた声で呟くように言ったのはノイエラだった。

「……どうしてそんなにも、冷静でいられるのですか?」

 その問いに、レゼルは答えない。

「《堕天使》と交戦経験があるのか? 君は」

 流石大人というところだろうか、黙り込むレゼルに幾分落ち着きを取り戻したルイサが真剣そのものの表情で訊ねた。

 はぁ、と短い息を吐く。何時かはバレると覚悟していたが、まさかこんなに早いなんて。

「……ありますよ」

 静かに答えた彼の言葉に、セレン以外の者が息を呑んだ。

「一応俺も傭兵であったレミ姉の弟ですしね。交戦経験は何度かあります」

「で、でもよ……お前、何処の戦闘区域で? 《雲》じゃあ、何処の戦闘区域も受け入れてはくれないだろ」

 困惑しながらも、晴牙はごもっともな質問をしてくる。

 こんな危機的状況でも判断力をきちんと保っている「親友」に、レゼルは内心で微笑んだ。

「俺が創造術を使うと銀髪碧眼になるのをもう忘れたか?」

 本当はレゼルの《堕天使》との交戦はNLFの戦場である国境・街境付近が殆どだ。前回のように街の戦闘区域で戦うなんて事は本当に稀だし、そういう時も必ずNLFが干渉してレゼルが《雲》だとバレないようにする。

 だから、先程のレゼルの言葉とこれから言う言葉はただの出任せだ。

「銀髪碧眼になれば、《雲》だってバレないだろ?」

「――無理よ」

 ピシャリ、と一言で否定したのはミーファだった。

「《堕天使》との戦争に出るには正規創造術師(プロ)資格(ライセンス)が要るわ。資格は学院を卒業しなければ取得試験だって受けられない」

「ミーファだって、資格を持っていないのに《堕天使》と交戦経験があると言っていたじゃないか」

「それは、私が《暦星座(トュウェルブ)》だからよ。――それに、《堕天使》と戦った後は《暦星座》も普通のプロの人達も問わずにエナジーが尽きる筈だわ。戦闘後も銀髪碧眼を維持する為に創造術を使い続ける事が出来るとは思えない」

 彼女の言葉にレゼルを責めるような色は無い。ただ純粋に、知りたいだけなのだろう。

 それは恐らく、レゼルの事を「友達」と認めてくれているから。――ミーファから見ればレゼルの存在は友達以上なのだが、彼には知る由も無い事である。

 だからレゼルは、話せない事は沢山あるけれど、出来るだけ正直に答えようと思った。

「……資格の偽造は流石に無理だからな。シュネイルの街の戦闘区域に知り合いがいて、そこで何度か戦わせて貰っているんだよ」

 シュネイルの街はディブレイク王国の南東にある辺境の街だ。

 街は実際にある街だがこれは嘘、口から出ただけの出任せである。レゼルにはシュネイルに知り合いなどいない。

「知り合い……? でも、シュネイルの戦闘区域の人全員がレゼル君の知り合いで、《雲》である君の存在を許容している訳じゃないでしょ?」

 ミーファの的確な質問に、レゼルは頷いた。

「勿論俺はシュネイルでも《雲》だという事を隠して戦っていた。……戦闘後も銀髪碧眼を維持して、な」

「……だからそれは無理だって、さっきミーファが言ったじゃねぇか。戦闘後は力尽きて創造術を行使する余力なんか残る訳がないって」

 晴牙の訝しげな声に、レゼルは微苦笑を浮かべた。

「確かに、普通の創造術ならそうなるな。《堕天使》と戦った後に、満足なエナジーは残らないだろう」

「……普通の創造術、なら?」

 ノイエラが首を傾げる。

「レゼルは《雲》です。普通の創造術を使える訳が無いでしょう?」

 言ったのは、《雲》の少年に寄り添うように立つ緋色の髪の少女――セレンだった。

 ルイサが高ぶる感情を抑えるように、震えた声で聞いてくる。

「……では、君の創造術は私達の創造術とは違うものなのか?」

「そうですね。普通の創造術と俺の創造術は根本的に違います。術の工程(プロセス)――想像し構築(コントラクション)消失(バニッシュ)させられる事自体に変わりはありませんが」

 ミーファ・リレイズが、

 聖箆院晴牙が、

 ノイエラ・レーヴェンスが、

 ルイサ・エネディスが、

 皆一様に静まり、目の前にいる顔を隠した少年を見詰める。

「俺の創造術は――」

 少年は思い出す。

 あの日――姉が、自分の所為で(・・・・・・)死んだ日。

 涙でぼやけた視界で、確かに彼は見た。

 雲が空を覆う中、それでも地上に光を投げ掛ける、月を。


「星光ではなく、月光で(・・・)成り立っている」


 レゼルとセレンを除く四人はその時、時間が止まったようにさえ感じられた。

 月の光。

 星、ではない、月。

 硬直状態から逸早く脱出したのは、ミーファだった。

「……それは、新しい創造術の技術形態を確立したという事?」

 彼の言葉が本当なら――いや、彼の言っている事は本当だろう。実際に彼は《雲》でありながら創造術が使えるのだから。

 レゼルの言葉は、世界に革命にも近い変化を巻き起こすものだ。何故ならそれは、《雲》に創造術という可能性を与えるものなのだから。

 だが――

「……いや、俺の創造術は技術ではない」

 彼は、首を横に振った。

「技術とは、ある程度の人数の人間に普及してこそ『技術』だ。月光を使う俺の創造術は、『技術』ではなく『異能』。俺しか使えないものだ」

「……自分しか使えないと、そう言える根拠は?」

 ルイサが自身の教え子となったレゼルから視線を一瞬も外さずに、問う。

 そんな彼女に精一杯の誠意を見せる為、レゼルは深く頭を下げた。

「すみません、話せません。……それに、俺以外に月光の創造術は使わせたくありません。これは独占欲などではなく、ちゃんとした理由がありますが、これも話せません」

「……そうか」

 ルイサはそれだけ呟くと、追求を止めてくれた。

 その事に対しての感謝の意を視線で彼女に示してから、レゼルは話を続ける。

「これは誰でも分かると思いますが、月と星、光量が多いのはどちらだと思いますか?」

「そりゃ、月に決まってんだろ」

 晴牙が迷う素振りも無く即答した。レゼルは頷いて、やや困惑しながら此方を見る四人を順に眺める。

「また突然で悪いが、俺はエナジー量に恵まれた人間だ。因みに、《雲》でもエナジーの量に《雲》じゃない人間との違いは無い」

「えっ、そうなんですか……?」

 ノイエラが縁無し眼鏡の奥で小さく目を丸くした。

「ああ。《雲》が創造術を使えない理由はエナジーの量には関係しないからな。――で、俺はエナジー量に恵まれた訳だが」

「待て」

「何ですかエネディス先生?」

 ルイサは神妙な顔をして口を開いた。

「レゼル君……君はもしかして、《雲》が創造術を使えない理由を知っているのか?」

「……それはまぁ、一先ず置いておいて」

「――おい?」

「時間が無いんですよ」

 静かに一言だけを突き付けると、ルイサはむすっと不機嫌な表情になって黙り込んだ。外見と子供っぽい仕草のギャップは、計算してやっているのだろうか。まぁ、可愛いから別に良いのだが。

「……月の光は星のそれよりも圧倒的に多く、俺はエナジー量に恵まれた。俺の使う月光の創造術は、その膨大な光量と膨大なエナジーによって、構築速度(コントラクション・スピード)や長時間創造のし易さを星光の創造術より向上させている。それが俺の創造術。普通の創造術師より創造術を長い時間使い続けていられるし、だから俺は《堕天使》と戦った後でも銀髪碧眼でいられる、とそういう事だ」

「……つまり、かなりタフ、って事か?」

「ああ、それで合ってるよハルキ」

 レゼルは晴牙の解釈に苦笑いを含んだ表情で答えた。

「それで、ハルキ、お前なら知っていると思うんだが……」

「ん? 何だ?」

「極東の日本国では創造術の事を『星詠(ほしよみ)』とも言うよな」

「ああ、まぁな。因みに創造術師の事は日本では『星詠師』とも言う。それがどうしたんだ?」

「ただのネーミングだよ。紛らわしいからな」

 苦笑いの成分が彼の表情にまた追加された。

「星光の創造術と、月光の創造術。『星詠』と――」

 レゼルはそこで一瞬だけ言葉を切った。だが、すぐに続ける。


「――『月詠(つくよみ)』。俺の創造術は、異端なんだよ、果てしなくな」


 レゼルの声が少しだけぶっきら棒なものになった。恐らく全員気付いただろうが、そこに突っ込む者はいなかった。

「……星光の創造術ではなく月光の創造術、か。何だか、レゼル君の強さが分かった気がするわ。君、編入してきたばかりにしては強過ぎるもの」

 ミーファが何だかすっきりしたような、得心のいった表情で微笑する。

「だよなー、レゼルって何かこう、色々裏技繰り出してくるというか。お前の戦闘は見ていて楽しい」

「……それは誉め言葉なのか、ハルキ?」

「誉め言葉だって。でも、まだ(にわか)には信じられねぇな。……《堕天使》と戦ってまだ余力を残しているなんてよ。《暦星座》だってヘトヘトになんのに」

 晴牙はミーファとルイサを交互に見て言った。彼はレゼルが嘘をついていると思っている訳ではない。すぐに信じられないのは仕方無い事であり、当然の事だ。

 だが、彼の言葉には間違いがあった。というか、レゼルが話していなかっただけだ。レゼルは訂正するように説明を追加した。

「ハルキ、俺は《堕天使》との戦闘後に余力を残していると言っても、それは力をセーブして戦った時だ。全力で戦ったら俺も《暦星座》と同じくヘトヘトだよ」

「え、そうなのか?」

「ああ。《暦星座》は全力で戦えるけど、戦闘後も創造術――いや、月詠を維持しなければならない俺は全力では戦えないよ。月詠が途切れたら、一緒に戦った戦友の創造術師達に《雲》だとバレてしまうからな」

 言い終えて、レゼルは自分の気分が少し沈んでいる事に気付いた。

 月光の創造術、月詠。これは確かに本当の事で、レゼルの創造術は月詠だ。星光の創造術、星詠よりも上の(わざ)だというのも、嘘ではない。

 だがその他は全て、口からの出任せだった。四人を納得させる為の、都合の良い言葉。街の戦闘区域でなんてレゼルは殆ど戦った事は無いし、彼は無茶な数でない《堕天使》となら全力で戦ってもかなりの余力を残す事が出来る。

 悪質な嘘、という訳ではないが、決して真実ではない。

 全て本当の事を話せないのは仕方の無い事とはいえ、気分の良いものではなかった。

 だが、こんなところで感傷に浸っている場合でもまた、無いのだ。

「……司令室に行きましょう。現状の確認をしなければ」

 ミーファ、晴牙、ノイエラ、ルイサの四人に背を向けて、レゼルはやや速歩(はやあし)にエレベーターホールへと歩いて行った。

 その隣で緋色の髪の少女が、彼の隣にいるのが自分の役目とばかりに付いて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 半円形の司令室に三人の人間の怒号が飛ぶ。

「おい!! 創造術師協会の戦闘部隊は何時来るんだ!?」

「まだ時間が掛かります! 最低でも後二十分は……」

「何で《誘導結界》に堕天使反応が出なかったんだ! 結界師はどうした!」

「そ、それが……全員、昏倒していたようでして……」

「昏倒!? 何故だ!」

 一人は西側戦闘区域の司令官である創造術師。もう二人はその部下の創造術師だ。

 二人の部下(オペレーター)は必死極まる様子でタッチパネルに指を叩き付け、弧の形に反ったモニターを嫌々ながらも凝視している。モニターには《堕天使》迎撃区域、つまり本当の戦場である荒野が映っており、その荒野の上を――


 ――無数の《堕天使》が、蔓延(はびこ)っていた。


「……何よ、これ」

 ミーファがモニターに映った光景を見てポツリと呟いた。何時もは気高さと優しさに満ちている翠色の瞳が不安に揺れている。

 晴牙やノイエラに至っては声も無く絶句し、目の前の現状に恐怖を抱く事さえ出来ていない。

 ルイサは奥歯を噛み締め、忌々しそうに地獄絵図と化したモニターを睨み付けていた。

 一昨日にレゼルが倒した蟷螂(かまきり)に似た形の《堕天使》が一匹、迎撃区域の空域を悠々と飛び回っている。サウンドを切っているのか、モニターから蟷螂型《堕天使》の五月蝿い羽音は聞こえない。

 他には下位個体と思われる蟻に似た《堕天使》がうじゃうじゃと荒野を闊歩し、砂塵を巻き上げていた。

「下位個体の群れと上位個体一匹か」

 レゼルはモニターを冷たい瞳で眺め、何でもない事のように呟いた。隣にいるセレンにしか聞こえないその声は、まるで天気を確認する時のように平淡(へいたん)だ。

「し、司令、敵数確認出来ました!」

「何体だ!」

「上位個体が一匹、下位個体が百を超えています!」

「……百? おい、協会がリレイズに送れる創造術師の人数限度は約七十だと言っていたよな!? 確か他の街でも《堕天使》が堕ちたとかで……」

 司令官が部下に飛ばした言葉に、ミーファとルイサが反応した。

 二人は揃って青い顔を見合わせ、絶句する。

「……七十人? そんなの、圧倒的に足りないわ!」

 暫く二人は顔を突き合わせていたが、やがてミーファがモニターに視線を戻し、悲痛な声で叫んだ。

「……ミーファ、少し落ち着け」

「私、は……!」

 レゼルが彼女に冷静な言葉を掛けるが、彼女はそれを遮るように声を絞り出すと、毅然とした眼差しでモニターを――いや、正確にはモニターに映る《堕天使》を、だろう――見据える。

「私は、戦う! 司令官さん、戦闘装備一式、借ります!」

 ミーファはそれだけを告げ、くるりと踵を返した。司令室のスライドドアが開く時間も惜しいのか、扉の隙間に指を捩じ込み無理矢理抉じ開ける。

 司令室から遠ざかって行く足音を聞きながら、レゼルはスライドドアには目もくれず、モニターを見詰めていた。

「ミーファ殿、感謝致します!」

 司令官が敬意を持って司令室の入り口に頭を下げた。そこにもう彼女はいないが、司令官に彼女を追い掛けている暇は無い。

「……仕方無いな。ミーファが戦うのなら、私も久し振りに戦場に立つとしようか」

 ルイサが苦笑混じりに言って部屋を出ていき、司令官がスライドドアに向かって再び頭を下げた。

 ディブレイク王国が誇る《暦星座》二人が戦ってくれる事に、司令官とその部下のオペレーターが僅かだが安堵の表情を見せる。

「……俺だって、少しくらいなら!」

 悔しそうにモニターの中の《堕天使》を睨み付けていた晴牙も、自分に言い聞かせるようにそう言うと、司令室を後にした。

 これには流石に正規創造術師(プロ)達三人が慌てた。が、制止の言葉は掛からなかった。猫の手も借りたい状況に追い込まれているという事だろう。

 だがそれは言い換えれば、レゼルにセレン、ノイエラは別段彼の行動に慌てる事も驚く事も無かった。彼なら戦うだろうと、三人は何となく感じていた。

 そしてレゼルは、漠然とだが、彼女――ノイエラも戦うのだろうと推測していた。彼女は確かに創造術の腕はあまり無い。だが彼女には支援(サポート)の役目を負う後衛(リアガード)として、類い稀なる才能がある。それをレゼルは既に見抜いていた。

「……ノイエラ」

「は、はいっ!?」

 突然、レゼルに視線と声を向けられて、ノイエラはやや裏返った返事を返した。

「モニター越しでは分かるものも分からないだろ。ミーファのところに行ってあげてくれ」

「――! あ、えっ、何で……いえ、何でもありません」

 ノイエラは縁無し眼鏡の奥で目を見張り何かを言い掛けたが、すぐに(かぶり)を振った。

「……分かりました。あの、レゼルさんは?」

「……俺は、出られないよ」

 レゼルはフードの奥で苦い表情を作り、小さく言った。

「そう、ですよね……」

 何度も言うが、レゼルは《雲》だ。たとえ「血塗れ(ブラッディ)」だろうと、まさかフードを押さえながら戦う事は出来ない。銀髪碧眼になるといっても、もう彼の顔は気味の悪い《雲》としてリレイズ中に広まってしまっているらしいし、彼が戦闘している光景がモニターに映るのは(まず)い。それは、《雲》だという事を抜きにしてもそうだ。NLFの創造術師である彼は、出来る限り街の戦闘区域での戦いを避けなければならない。

 ――と、ノイエラはそんなに深い理由まで理解した訳ではなかっただろうが、《雲》だから戦争には出れないというニュアンスは伝わったのだろう。

 じゃあ私、行きますね――彼女はそう言うと、ミーファ達の後を追って司令室を出ていった。

「……レゼル」

 右下から緋色の髪を持つ少女が見上げてくる。

「……本当に戦わないのですか?」

「ああ。……俺は戦わない。命令も来ていないし」

 二人は小声で言葉を交わす。

「そうですね。命令が来るなら伝える為にルチアさんも来る筈ですし」

 何だか彼女――ルチアーヌが指令の伝達役みたいになっているが、彼女も(れっき)としたNLFの創造術師であり《暦星座》の一人でもある。 因みに、前回の指令についてNLFの総司令官とセレンを通して連絡を取ったが、あれは此方からの一方通行だ。彼方(あちら)からセレンの無線連絡機能(・・・・・・)にアクセスするには機器のスペックが距離的な理由で圧倒的に足りない。そして、前にルチアや榎倉と通信した時のように通信機(インカム)を創造する手段も駄目だ。あれは周波数が分かっていなければ使えない為、通信一回一回に周波数を変えて通信を行うNLFとは事前に周波数を教えて貰わねば無線回線を開くことは出来ない。

「……それに」

 レゼルはセレンから視線を外し、再びモニターに向けた。

 そこでは空から――あるいは天から――堕ちて来た存在の《堕天使》が、変わらず我が物顔で荒野を街に向かって進軍、いや侵軍している。

「俺が戦わなくても、充分勝てる戦力があるよ。この街にいる創造術師を考えると、《堕天使》の強さも数もそれ程脅威じゃないしな」

 半円形を描く司令室の隅に移動して、必死に《堕天使》との戦闘準備を整えるプロの創造術師三人とモニターを見ながら言ったレゼルの言葉に、セレンは何も言い返さなかった。


 謎が解けた! と思って貰えれば良いのですが、どうでしたでしょうか?

 まだまだ謎はあるんですが、主人公の創造術にはこういう裏があったということで。タイトルからしてバレバレですけどねアハ


 読んで下さりありがとうございました。


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