幼馴染二人より、波乱万丈な人生をお届けします
青年、ロイズ・アプリコットには、とても変わった幼馴染が二人いる。
「……あいつらとはもう、縁きってやる。ほんとやだ、なんでこう」
目を皿にして、振り返る。後方からけたたましいサイレンとともに、地元警察のパトカー数台と恐ろしく真黒な数台の車がドンパチしながら追いかけてくるのが見えて、更に目が細くなる。ぎゅるぎゅるっとバイクのアクセルを強く回す。
「なんでこんなことに巻き込まれるんだろう」
人生とは、人との縁ですべてが変わる。
小さい頃のこと。近所の公園で寝泊まりしては野良犬と近くの農園から野菜強奪で争っていた青年がぽつりとロイズに漏らした言葉だ。「俺はな、いろーんな奴に巻き込まれ、ここまで人生一回転して変わっちまったのさ。お前も気をつけろよ」と諭すように言っていたが、一回転したら戻ってるんじゃないのと言いたいのを堪えて頷いたことを思い出す。
まさに、今、ロイズも人との縁でこんなやばい人生の瀬戸際に立たされている。というより、追われている。
『幼馴染二人より、波乱万丈な人生をお届けします』
幼馴染の一人は、とてつもなく我儘というか、猪のように真っ直ぐ突き進む男だった。
アルフレッド・L・フォックス。
小さい頃、宇宙一のモテモテアイドルを目指すとか言ってた俺様気質な彼は、今じゃ宇宙一悪が集まる監獄で、ヘッドをやってくださいお願いしますと言われる程慕われる、別の意味でのアイドルになった。ちなみに現在は脱獄中のため「俺がなりたいのは歌って踊れるアイドルなんだちくしょー!」と叫ぶ声がよく、衛星中継で聞こえてくる。指名手配の顔は何故か別の顔だったから、アイツのことだ、うまくやったのだろう。
そして、もう一人の幼馴染、紅一点のリリス・アンダーソン。
小さい頃、皆を助ける正義のヒーローになると言っていた彼女は、今じゃ助けを待つ方へ転換。片隅でひっそり生きて、もう誰の目にもとまりたくない、誰よりなによりこの状況の私を助けてほしいと嘆く引きこもりになった。どっかの小さな惑星で、ひっそりこっそりと暮らすんだって言ってたけれど残念、獄中アイドルの幼馴染が年中ラブコールを送るため、平穏はそうそう保てないようだ。
そんな謎だらけの波乱万丈な人生送る幼馴染二人とは対照的に、ロイズ・アプリコットは地味にひっそり生きている。
はずだったのだが、現在ちっさな地元警察と危ない集団から絶賛ラブコール、追われてるこの事態。
ロイズは心の中で泣いた。
なんだって、こんなことになったのだろう。
「それは貴方が、ぐずぐずと完全に縁を切らないからなのでは?」
心の声がただ漏れだったらしい。
バイクの後ろに乗った、小柄な少年がヘルメット越しにぽつりと漏らす。その言葉にロイズは「あぁ?!」とメンチ切るように振り返ったものの、バイク運転中である。思いっきり寄れたのに慌てて前と向き直す。
そう、先程から一人で逃走中かと思われただろうが、ちゃんともう一人同乗者がいたのである。名前は、ロロ。体調悪いのかと思うくらい真白な肌の、肩上まである淡い栗色の髪をした少年である。
この少年は突然、ロイズの目の前に現れた、といより幼馴染二人からの嬉しくない贈り物と共にやってきたのである。
正しくはまず、リリスが少年を見つけて可愛がり、それに嫉妬したアルフレッドが俺が面倒見てやるとばかりに攫って「お前が見てくれ、やっぱ俺には無理だ。こいつ、こわい」と怯えながらロイズの元へ送ってきたというのが経緯だったりする。
どこぞの惑星の名産だという、凄まじい匂いを発するリリスからの果物と、アレックスからの錆びれた銃を持って来た少年は、ぼろぼろだった。追剥にでもあったのかとおもうほど、ぼろぼろな姿で現れたのである。無表情な顔で「貴方がロイズ?」と聞かれた時には「どうしよう、おまわりさん!」と心臓がばくばくしてしかたなかった。
だって仕方ない、ロイズは勇敢に人助けができる人間ではない。
正義感溢れた人にはなれず、ちょっとねじ曲がった臆病な青年へと成長したのである。
そして、なんとなくした嫌な予感的中、物騒な連中が来て、警察まで来ての事態。
「おまえが、こなきゃ! こんなことにはなってねぇーよ!」
「……でも、受け入れたでしょう。ほら、縁を切れない」
「あのなぁ」
ロロの言葉に再び振り向きそうになると「危ないから、前を見てください」と淡々と言われてぐっとこらえる。
ここらでは見ない、古びた若草色の衣を一枚、ずるずると引きずるように羽織って、大きすぎる黒のブーツをかっぽかっぽ言わせて歩いている姿に、仕方なく昔、弟が履いていた靴から合うサイズを履かせた。けれど、衣だけはがんとして脱がないと譲らなかったため、仕方ないかと思った時だった。
「……その衣にある紋章」
「ああ、気づいたのですか? これ、半年前に海賊の手によって滅んだ惑星ラティアタの」
「……ラティアタの?」
「治めていた王家のもので、海賊が盗んでいったものを更に盗んでやりました」
「なんで?!」
「だって、ずるいでしょう。あの人たちの者じゃないのに、全部持って行くなんて。それに、これはあの人たちにはふさわしくない」
僕、知ってるんです。この衣は、惑星の神々や民に認められた王家の者だけが着れる衣なんですよ。昔、あそこの王様が代々羽織っていたものなんです。そんな気品あふれる、理知的な人が纏うべき衣なんですと、僅かに眉根を寄せて答えるロロにくらりとした。
そんなボロボロになった衣で気品もなにも! と、言おうとしたところ。どこからこの衣のことが漏れたのか、警察が事情を聴きに、盗まれた海賊が怒り追ってきたというわけである。
少し、後方の音が遠のいだところで、ロイズが再び口を開ける。
「……おまえ、あのラティアタの出身なの?」
「いえ、違います。あそこで捕まってました」
「なんで?!」
「食い逃げで」
「まじで?!」
「はい、お金なくて盗みました。けっこう、盗みやすいところ見つけたんですけど、あの日は運悪く、警備のおじさんが汗飛ばしながら追っかけてきて」
泣きそうな必死の形相で追ってくるものだから、つい、止まっちゃいました。と言葉を続けたロロにロイズは開いた口がふさがらない。ふと、あれっと声をあげる。
「ん? お前、滅んだ時どうしてたんだ? あそこ、今じゃ海賊の巣窟みたいになってるだろ」
「ああ、警備のおじさんが逃がしてくれて」
「……そうか」
「えぇ、だから、その恩に報いるために王家の大事な衣を盗みました」
「報いてないだろそれ! つか、やったらだめだろ!」
「そうですか? あんな最低な奴らに渡って、お金にされたらたまったものじゃないでしょう?」
不思議そうな声で言われて、ロイズはうっと唸る。確かに、海賊の手に渡ったらろくなことにはならないだろうと思ったからだ。すると、再び「でしょう?」と言われて、頷いた。
「ま、まあ」
「ほら、だからいいんです」
「いいって、おまえな」
呆れた声のロイズに、ロロがふっと大きな息を吐いたのが分かった。
「……別に、貴方にこれ以上迷惑かけるつもりはないですよ。そろそろ、降りますから、どうぞ遠くへ行ってください」
「はっ?」
それに今度こそ、バイクを止めて振り返る。途端、よいしょといいながら、ロロが地面に降り立つ。
「貴方に、お土産を届けに来ただけなんです。まさか、そのままお世話になるつもりなんてありませんよ」
じゃあといって、ヘルメットをとって、すたすたと横を過ぎ歩いてくロロに、慌ててバイクを押して追いかける。
「まてまて! 何言ってんだよ、お前と一緒だったとこ見られてるしそんなの」
「なんとかなりますよ、暫く大人しくどこか人里離れたところでもいればいいんです。大丈夫、僕が囮になりますし」
「囮って」
「あっ、ほら。また音が聞こえてきましたよ」
「げっ」
うぃんうぃんとけたたましいサイレンに、ぶるるんと地響きをさせて大声を上げてくる二つの組織。その間でも、ドンパチが展開されているが、あの二つの目的はやはり、ロロなのだろう。争いながらもこちらへ向かってくる。
「ここの警察って、凄いですね。あんな大きな海賊相手に怯むことなくドンパチしながら僕まで追っかけてきてますよ」
「まあ、大きな事件だ! 野郎どもやってやろうぜ! なんて、叫んでたしな」
「なんていうか、平和なところですね」
「まあ、ほぼ平和だな」
「じゃあ」
再び歩き出そうとするロロの腕を慌てて掴む。すると、思いの外、強く引っ張ってしまったらしい。
ぐらりと傾いて、胸に飛び込んできた小柄な体を抱きとめる。
「あっ、わりい」
「! い、いいから、はなし」
「なんだよ、ちょっとまてって……?」
大きく開いた胸元に、微かに見える山を見てはてとロイズはそのまま首を傾げる。
わなわなとふるえるロロに、仕方なく襟元を直してやる。
そして、目を合わせると、安心させるために次の言葉を言い放った。
「……大丈夫だ、みてない」
「みてますよね、みたでしょう?!」
今度こそ、恥かしさと怒りから顔色を真っ赤にさせたロロに、ぽんと頭を撫でてやる。
「あんな小さいの、見たうちには入らない。後ろにいた時、気づかなかったくらいだし」
「……! い、いまに、今に大きくなります!」
「いや、ならなっ」
言い合ってるうちに、サイレンの音が更に近くなっていて、ロイズは舌打ちする。強引に、ロロを持ち上げるとヘルメットを被せ、バイクの後ろに搭乗させるとエンジンを勢いよくかける。
「なんで!」
「しかたないだろ、追っかけてこられたら逃げたくなる!」
「そんなこといって、まき」
「もう、巻き込まれてんだからしかたねーだろ!」
速度を加速せる。ロロがそろりと腰に手を回してきた。ああ、ほら、この手を振り落すようなことは最初からできはしなかった。
手をとって逃げた時から、離すことはできなかっただろう。
「あの二人が送ってくるものは、ろくなことねーな」
そんなことを思っても、結局縁を切ることも離すこともできない。
ロイズの人生は、こうして加速していくのである。
「ロイズ、気づいたかしら、あの子……女の子なのよね」
「お、おれは女が苦手だ!」
「私も女の子だけど」
「お前は別だ、って、なんで逃げる!」
「だって、アルやだもん」
「まて、リリス―!」




