4 奴への制裁
本日、呪術師ジュジュの呪術屋にやって来た客は、またしても呪いに関する相談が目的のようである。
「あたし、弓使いのリッカっていうの。よろしく」
「ええ、よろしくお願いします。それで、本日のご用件というのは?」
サラにそう尋ねられたリッカは、重いため息をつきながらその要件を語りだした。
「最近、うちのパーティーの子の様子がなんか変なのよ」
「それはどんな感じですか?」
「えっと、うちの神官の子なんだけどね、なんかこそこそと戦士の兜をどこかに持っていこうとしてたから、ちょっと気になって後をつけてみたんだけど、あの子戦士の兜を捨てようとしてたのよ」
それが誰と誰のことなのか、ジュジュとサラは九割九分予想がついていた。
「でもその子、結局兜捨てられなくて戻って来たんだけど、その後も何度も兜捨てに行こうとして、でもやっぱり捨てられなくて…を繰り返してるのよ。真面目なあの子があんな奇行を冒すとは思えないし、きっと何かに呪われてると思うのよ」
これは九割九分九厘予想通りの人物だろうということで、ジュジュは最後の確認としてリッカに一つ質問した。
「パーティーって、勇者パーティー?」
「そうだけど、何でわかったの?」
もうめんどくさいので、ジュジュとサラはこれまでの経緯を全てリッカに話した。
その結果……
「ゴードンのせいかぁぁぁっ! あのド変態戦士がぁぁぁっ!」
リッカはぶちキレた。
「そもそもあいつのほうが諸悪の根源だったか。でも言われてみれば、最近あいつ気持ち悪い顔してること多かったっけ」
「まあ一番の大本が何かといえば、アルトさんの必殺技名を爆乳派にしたことなんですけどね」
そんなサラの言葉を耳にすると、リッカは思いっきり真顔になって詰め寄ってきた。
「えっ?えっ?ええっ? あれ爆竜波の聞き間違いじゃなかったの?」
「爆乳派ですよ。技名を叫ぶときの恥ずかしさを糧に必殺技を放つ呪いの力ですから」
「ちょっと、あの純情勇者に何してくれてんの? アルトがあのド変態戦士と同じになっちゃったらどうすんのよ!」
リッカはアルトの必殺技の名前が爆乳派であることにかなり不満なようで、思いっきりサラのことをにらみつけている。
そこでそんなリッカを落ち着かせるために、ジュジュからひと言。
「あれで強力な技が出せてるうちは大丈夫だよ」
「何でよ!」
「あんな技名を恥ずかしげもなく叫べるようなド変態には、あの呪いの力は無意味だからだよ」
そしてゴードンがまさにそれである。
「ま、アルトがまだけがれてないってんなら、今日のところは大目に見てあげる。一応、あれでちょっとは勇者らしい戦い方もできるようになったしね」
そんなセリフを語っているリッカの態度は、どう見てもツンデレである。
「うまくいくといいですね、アルトさんと」
「なっ…なななっ…何のことよっ! あたしは勇者パーティーの一員として、勇者がけがれないか心配しているだけなんだからねっ!」
リッカの態度はあまりにも分かりやすかった。
「隠す気あるの?」
「ジュジュさん、本人は隠しているつもりみたいなので、そっとしておいてあげましょう」
「あんたこそ、わかった風な口きくなぁぁっ!」
サラはリッカから思いっきり怒鳴られた。
「ふぅっ、はぁっ…。あなたと話してると無駄に疲れるわね」
「それはリッカさんが勝手に大声出してるからじゃないですか?」
「その態度があたしに大声出させてんのよ」
どうやらリッカはサラとあまり相性が良くないようである。
サラのほうは、むしろリッカの反応を楽しんでいる節があるが。
まあ何はともあれ、ひとまずリッカも一応はおとなしくなったようなので、ここでジュジュがリッカにゴードンの件をどうするかについて尋ねた。
「それであの兜の呪いはどうする? 神官の人にも言ったけど、うちは解呪は金貨百枚からだから、あまりお勧めは出来ない…」
「別に必要ないわよ。アリアが捨てられないんなら、あたしが捨ててくればいいだけだし」
「まあ、それもそうだね」
ものすごくあっさり解決した。
「じゃあ、今日の用はこれでおしまい?」
ジュジュにそう尋ねられて、リッカは少し考える。
「そうねえ、せっかく来たんだから、あたしも何か呪いの力とやらをいただこうかしら」
そんなリッカの言葉を聞いて、サラはピンときた。
「呪いは別の言い方をすればまじない…。つまり恋のおまじないですね」
「あんたちょっと黙ってなさい!」
というわけで、ここからしばらくサラはしゃべるの禁止である。
「あたしが欲しいのは……そう、ゴードンに制裁を加える呪いよ! 何かちょうどいいのある?」
「まあ、そういうのは呪いの専門分野だけど、あの人は何でもポジティブに受け入れちゃいそうだから、ちょっと判断に困るかな」
「んんんーっ、んん、んーんーん、んんんんんー」
黙ってろと言われていたサラは、口を閉じたまま無理やり会話に加わろうとしている。
「あいつがちゃんと反省するくらい、苦痛を与えられるものがいいんだけど…」
「でもあの人、女の子から何かされるのなら、苦痛すら喜びそうじゃない?」
「あー、なんか容易に想像できそうでやだなー。とりあえず、あたしがやったって分からないもののほうがいいわよね」
「んんー、んんんん、んーんん、んんんんー」
サラはまた口を閉じたまま会話に加わろうとしている。
「かえって鬱陶しいから、もう普通に口開きなさいよ」
「ぷはーっ……」
しゃべるの解禁。
「ではわたしから一つ提案を…。好感度を上げる呪いとかいかがでしょう」
「はぁ? 何でそんなので制裁になるのよ」
「この好感度を上げる呪いの代償を利用するんですよ。この呪いをかけると、特定の人物から見たリッカさんの魅力が上昇しますが、その代償として、同じコミュニティーに属する他の異性から見たリッカさんの魅力は減少します。ちなみにリッカさん、勇者パーティーは男女それぞれ何名ですか?」
「男三、女二だけど」
「それなら問題ないですよね、ジュジュさん」
サラにそう聞かれて、ジュジュは一瞬何の問題がないのかが分からず首をかしげるが、少し考えてサラの意図に気づき、肯定の返事をした。
「……あっ、そういうことか。大丈夫だよ、一人くらいなら除外対象に設定できる」
「なら問題ないですね」
そしてサラはこの呪いをどう使うのかを語る。
「つまりですね、まずリッカさんにアルトさんからの好感度を上げる呪いをかけます」
「えっ、ええっ?」
「するとアルトさんにはリッカさんがとても魅力的に見えてきますが、その半分ほど、他の二名の男性から見たリッカさんの魅力が下がることになります。ですがここで、ゴードンさんではないもう一人の方を呪いの代償の除外対象に設定することで、呪いの代償がゴードンさん一人に集中するわけです」
「それはつまり、ゴードンから見たあたしの魅力がかなり下がるってこと?」
「はい。そしてアリアさんにもこれと同じ呪いをかけます。アリアさんの場合は、そのもう一人の男性からの好感度を上げ、アルトさんを代償の除外対象に設定する感じですね」
するとどうなるのか。
ゴードンからは、パーティーメンバーの女性が二人とも魅力的に見えなくなるということである。
「おっぱい好きなゴードンさんにとって、最も身近にいる女性二人に全然魅力を感じないというのは、地味に結構残念な感じになると思うんですよ」
絵面を想像すると、確かにものすごく地味な制裁である。
「でもまあ、確かにこういう地味なののほうが効くかもね。あの人、直接的なのだと何されても喜びそうだし」
「ですよね、ジュジュさん」
……と、二人はこれでいけそうだと思っているようだ。
ただし、これを仕掛けるには一つ確認しておかなければならないことがあるため、サラはそれをリッカに尋ねた。
「リッカさん、アリアさんともう一人の男性の関係はどんな感じですか? お二人の仲があまりよくないのであれば、この方法はちょっと難しいんですけど…」
「まあ、それは問題ないと思うわ。アリアはよくレヴィルの世話を焼いてるから嫌いじゃないだろうし、レヴィルのほうもかっこつけてアリアをはねのけようとしてるけど、どう見ても照れ隠しでやってるようにしか見えないもの」
そんなリッカの言葉を聞いてジュジュとサラは真顔になった。
「勇者パーティーってツンデレ二人なの?」
「まるで目の前の誰かさんを見てるみたいですね」
「おい、こらぁっ!」
ともかく、これでこの制裁方法には特に問題がないことが分かった。
「でもよかったですね、リッカさん。これで地味ですけどゴードンさんに制裁を加えられるうえに、アルトさんともうまくいく可能性がアップするんですから」
「えっ? ちょっとあんた、何言ってんのよ!」
「だって、これはそういう呪いですよ。うまくいったら、ぜひともお話を聞かせてくださいね、リッカさん」
「うっ、あっ…」
そう、これは本来ゴードンから見た魅力を下げるためのものではなく、アルトからの好感度を上げる呪いだという事実を突きつけられ、リッカは顔が真っ赤になった。
その結果…
「あたしはこんな呪いなんて、いらないんだからぁっ! ばかぁぁぁっ!」
「あっ……」
リッカは逃走した。
「リッカさん行っちゃいました。一石二鳥のいい案だと思ったのに、どうして?」
「サラちゃんが乙女心を分かってないからじゃない?」
「年下のジュジュさんにそれ言われるの、ちょっと心外ですよぉ……」
ゴードン、ひとまず制裁は免れたようだ。
だが兜は普通に捨てられた。




