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あなたの優しさは、暴力でした  作者: 熊猫ぱんだ


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9/15

静かに消される。

 あの日から、彼は変わった。

 ──優しくなった。

 前よりも、もっと。

 朝は必ずキスをしてくる。


 「ちゃんと寝れた?」


 仕事の合間にも電話をくれる。


 「今日も無理すんなよ」


 まるで、何もなかったみたいに。

 いや。


 『何も無かったことにする』ために、優しい。

 私は、それに気づいている。

 でも。

 気づいていないふりをする。


 あの日、私は謝った。

 彼も謝った。

 それで終わったことになっている。

 でも、私の中では終わっていない。


 夜。

 彼がシャワーを浴びている間。

 私はダイニングテーブルに置かれたスマホを見る。

 前より堂々と置かれている。

 伏せていない。

 でも通知はほとんど来ない。

 来ても、仕事関係ばかり。


 あの“さやか♡”は、いない。

 消えた。


 トーク履歴も。

 検索しても出てこない。

 綺麗に。

 何もなかったみたいに。


 私は画面を閉じる。

 やっぱり。

 続いている。

 ただ、痕跡を消しているだけ。

 背中に冷たい汗が流れる。

 彼は学んだ。

 バレない方法を。

 私が見ることを前提に、対策を始めた。

 その事実が、じわじわと胸を締め付ける。


 「何してるの?」


 後ろから声。

 私は飛び上がる。

 振り返ると、彼が立っている。

 タオルを首にかけたまま。


 「べ、別に」


 咄嗟にスマホを置く。

 彼はそれを見て、少し笑う。


 「まだ疑ってんの?」


 柔らかい声。

 でも目は笑っていない。


 「疑ってない」


 即答してしまう。

 本当は、疑ってる。

 でも言えない。

 言ったら、また『俺傷ついた』が始まる。


 彼はスマホを手に取る。

 画面を軽く確認する。

 そしてポケットへ。


 「俺、ちゃんとしてるよ?」


 ちゃんと?

 何を基準に?


 「結婚控えてるんだぞ」


 そう言って、私の顎を軽く持ち上げる。

 キス。

 優しい。

 でもどこか、確認みたいなキス。

 『まだ俺のものだよな』って。


 その夜。

 彼は珍しく、早く寝た。

 寝息は安定している。

 私は目を閉じたまま、呼吸を整える。


 数分。

 十分。

 彼が完全に眠ったのを確認して、そっと起き上がる。


 ベッドの横。

 彼のズボン。

ポケット。

 心臓が暴れる。

 だめ。

 でも。

 確かめたい。


 ゆっくりと、スマホを取り出す。

 画面をつける。

 ロック解除。

 LINEを開く。

 一覧は綺麗。


 本当に何もない。

 でも。

 私は前回、スクロールの奥で見た。


 『非表示リスト』


 設定を開く。

 指が震える。

 非表示アカウント。

 一件。

 名前は、ただの“さ”。

 ハートは消えている。

 私はそれを解除する。

 トークが戻る。

 最新メッセージは今日の昼。


 ——今日は無理?

 ——あいつ最近うるさい

 ——でもちゃんとフォローしてるから平気


 血の気が引く。

 『フォロー』

 私への優しさは、フォロー。

 スクロール。


 ——削除しとくね笑

 ——さすが♡


 目の前が暗くなる。

 今も続いている。

 しかも。

 私が見たあとで、やり取りしてる。

 私が泣いて謝ったあとで。

 彼は、何も止めていない。

 ただ、隠す技術が上がっただけ。


 ベッドが軋む音。

 私は反射的にスマホを戻す。

 横になる。

 目を閉じる。

 彼が寝返りを打つ。

 腕が伸びてきて、私を抱き寄せる。


 「……好きだよ」


 寝言みたいな声。

 涙が溢れる。

 好き。

 その言葉を、何人に言ってるの?

 でも私は、彼の腕を振りほどけない。

 あたたかい。

 安心してしまう。


 壊れているのは、彼だけじゃない。

 私もだ。

 でも。

 胸の奥に、今までとは違う感情が芽を出す。

 悲しみじゃない。

 絶望でもない。

 もっと静かで、冷たいもの。


 ──証拠。


 次は消させない。

 私は、目を開けたまま、天井を見つめる。

 もう、泣くだけじゃ終わらない。

続きが気になったらブクマ、コメントお待ちしております

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