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あなたの優しさは、暴力でした  作者: 熊猫ぱんだ


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12/15

慣れ

 最初は、あの日だけだと思った。

 壁を叩いたことも。

 腕を強く掴んだことも。


 たまたま

 私がしつこかったから


 そう思おうとした。

 彼はその後、また優しかったから。



 二週間後。

 私は彼の帰りを待っていた。


 23時。

 連絡は「仕事長引く」。

 既読はついている。

 帰ってきたのは、0時半。

 少しだけ酒の匂い。


 「おかえり」


 笑顔を作る。

 彼は靴を脱ぎながら言う。


 「なんで起きてんの?」


 声が、冷たい。


 「心配で…」


 その一言で、空気が変わる。


 「は?」


 低い声。


 「監視?」


 違う。

 でも言葉が詰まる。

 彼はゆっくり近づく。

 酔っているのか、目が少し赤い。


 「お前さ、俺のこと信用してないよな?」


 またその話。

 私は首を振る。


 「してる」


 「嘘つけ」


 その瞬間。

 肩を強く押される。

 よろける。

 今度は、はっきり押された。


 テーブルにぶつかる。

 鈍い痛み。

 彼は一瞬、息を荒くする。

 でも止まらない。


 「重いんだよ」


 初めて言われた言葉。

 はっきりと。

 重い。

 胸が、ぐしゃっと潰れる。


 「俺がどこで何してようが、お前に関係ある?」


 関係あるよ。

 婚約者だよ。

 でも言えない。


 「黙って信じとけよ」


 また肩を掴まれる。

 今度は両腕。

 壁に押し付けられる。

 背中が冷たい。

 顔が近い。

 目が怖い。

 あの優しい彼じゃない。


 「俺から離れられないくせに」


 その言葉が、刃みたいに刺さる。

 否定できない。

 本当に、離れられる自信がない。

 彼は数秒睨みつけて、ぱっと手を離す。

 私は崩れ落ちる。


 息がうまくできない。


 彼は頭をかく。


 「……くそ」


 それから、急にしゃがむ。


 「ごめん」


 また。

 同じ流れ。

 でも、今回は痛みがはっきり残っている。


 「俺、最近余裕なくてさ」


 言い訳。

 仕事。

 ストレス。

 私。

 全部混ざる。


 「でもお前もさ、ちょっと俺追い詰めすぎ」


 追い詰めた?

 私が?

 混乱する。

 彼は私の顔を覗き込む。


 「泣くなよ」


 優しい声に戻る。


 「俺だって辛い」


 私の涙が止まる。

 辛い?

 あなたが?

 頭がぐちゃぐちゃになる。



 その夜。

 ベッドの中。

 腕が痛む。

 背中も。

 でも彼は優しく抱きしめてくる。


 「愛してる」


 その言葉に、胸が震える。

 怖いのに。

 まだ、好き。


 これが一番、恐ろしい。



 数日後。

 私は化粧で痣を隠す。

 友達からのLINEを未読のまま消す。

 彼は外では完璧だ。


 優しい。

 気が利く。

 私を大事にしているように見える。

 誰も信じない。

 もし言っても。


 「そんな人に見えない」


 そう言われるのが、わかる。



 ある夜。

 彼がふと笑って言う。


 「最近さ、俺怒るとお前静かになるよな」


 冗談みたいに。

 でも目が楽しそう。

 その瞬間。

 ぞくっとする。


 ああ。

 慣れてきてる。

 私が。

 彼の怒りに。

 痛みに。

 恐怖に。

 慣れてきている。


 それが一番、怖い。


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