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姫と魔王と守護の龍  作者: ジルコ
第2章 魔人と踊る

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第15話 反撃の狼煙

 パチパチと何かが弾ける音と共に、鉄と硫黄が混ざったような独特な臭いが辺りには漂っている。

 防壁の上の兵士たちは、下に落とされた松明の火で照らされるゴブリンたちの死体とそのすぐそばで休息をとるゴブリンたちを油断することなく眺めていた。

 彼らの顔にそこまでの疲労は見えない。まだ侵攻の初日であり、余裕をもって防衛できているため十分な休息をとれているからだ。


 昼間はまるで波のように次々と襲い掛かってきたゴブリンたちだったが、日が落ちるにしたがってその統率に乱れが見え始め、完全に日が落ちたころには各々が休息に入ってしまった。

 第三方面軍はそれが罠なのではないかと疑いはしたが、無駄に神経を張り巡らせていては体がもたないため交代で休息をとっていた。


 めっきりと人が少なくなった防壁の兵たちから離れた場所に腰掛け、足をぷらぷらと揺らしながらレジーナは戦場を見つめる。

 なるべく遠方で敵を倒し、防壁近くに溜まったゴブリンの死体は第三方面軍の魔法使いによって定期的に散らされているため、積み重なったゴブリンの死体の高さはそこまでではない。

 だが残りのゴブリンたちの数や現存する物資、継続的な戦闘の疲労による兵の戦力の低下などを考えれば防衛できる確率は五分五分といったところだろうとレジーナは推測していた。


「楽しそうだな」

「そう見えるかのぅ?」


 倒れこむようにして後ろを見たレジーナが、腕組みをして仁王立ちしているウィルを見上げる。


「そういうウィルも嬉しそうに見えるのじゃが?」

「そうか? そうかもしれんな。ランディは最近意図的に俺たちを頼らないようにしている。後々のことを考えればそれが最善なのかもしれないが、友人が困っているのに手を貸さないというのは少しな」

「ウィルらしいのじゃ」


 ニヤリと笑ったレジーナは、再び体を起こして防壁の外に目を向ける。

 その視線が向かうのは、魔人のいる堀のそばの陣だ。

 星明りのみが照らす暗闇の中でも、遠視の魔法によってレジーナの瞳には地竜の上で眠りにつく魔人の女の姿がくっきりと見えていた。


 その周囲は集められたモンスターの中でも強力な者たちで固められており、さらには夜目の効く蝙蝠型やフクロウ型のモンスターたちが警戒を続けている。

 世闇に紛れて近づこうとしたとしても、あの警戒網を突破することは難しいだろう。


「自らを囮として敵をおびき寄せようとしているようにも見えるが、そこまで考えておらんじゃろうなぁ」


 すやすやと眠りにつく魔人の姿を眺めてそんなことを呟くレジーナの髪を、戦場の生ぬるい風が揺らしていく。

 もしここからレジーナが本気で魔法を放てば、魔人になにもさせることなく殺すことができるだろう。

 だがレジーナはそれをしない。それではつまらないし、なによりそれをランディは望んでいないから。


 ランディがレジーナに頼んできたのは、別にレジーナでなかったとしてもできることでしかない。

 もちろんこんな状況下でできるのはレジーナしかいないが、第三方面軍に所属する魔法使いでも時間をかければ同じことはできるだろう。

 だからこそランディはそれをレジーナにお願いすることを決めたとも言えるのだが。


 レジーナが空に並ぶ星を見上げる。

 季節と場所、そして星の位置から今のおおよその時間を計算したレジーナは、足をぷらぷらと揺らして暇を潰す。

 その姿は年相応の子供のように見えた。


「あと4時間ってところじゃな。ウィル、準備はいいかのぅ?」

「この程度の相手に準備が必要だと思うか?」

「それもそうじゃな。しかし我はどうするかのぅ。やるべき仕事はもうほとんど終わってしまったしのぅ」


 生死のかかった戦いとは思えない2人の会話は、幸いなことに防壁を守る兵士たちには聞こえなかった。

 ぽつり、ぽつりと交わされる2人の会話と共に星は空を巡り、そして黒一色で染まっていたキャンパスにわずかな色が差し込まれる。

 地平線にわずかに顔を出した日の光に気づいたレジーナは、その口の端を上げて笑みを浮かべると、眼下で眠りについたままのゴブリンに向けて手を向けた。


「ほれっ、目覚ましにはこれぐらいがちょうど良いじゃろう」


 レジーナの手のひらから放たれた火球が防壁の目の前で眠りについていたゴブリンたちの中心に打ち込まれ大爆発を引き起こす。

 地鳴りがするほどの威力の一撃を受けた周囲のゴブリンたちは跡形もなく消え去り、その余波を受けた者も大やけどを負ってのたうち回っている。

 だがそれでもその数は全体からすれば微々たるものだ。その穴はすぐに他のゴブリンたちに寄って埋め尽くされるだろう。

 なにもしなければ。


「ほれっ、舞台は整ったのじゃ。頑張るのじゃぞ、ウィル」

「言われなくても、そうさせてもらおう」


 気楽そうに手を振るレジーナの応援を背中に受けながら走ったウィルは、防壁を蹴り上げて宙に躍り出る。

 そして少しの浮遊感の後に、ウィルはレジーナが火球で作り上げた地面に足をつけると、そのまま1回転して勢いを殺し、何事もなかったかのように立ち上がった。


 寝ているところを爆発音によって強制的に起こされ、混乱するゴブリンたちを見回したウィルはその腰からすらりと剣を抜き放つ。

 そしてその漆黒の剣を頭上に掲げると、それを振り下ろしてゴブリンたちに向けた。


「自らの命の終わりの時と知るがいい。哀れな操り人形たちよ」


 その挑発に反応したかのように、混乱から立ち直りウィルに向けて襲い掛かろうとしたゴブリンたちの目に映ったのは、防壁の上から自らに向けて飛んでくる魔法や矢の嵐だった。





 徐々に明るくなる周囲の気配にうつらうつらとしていた魔人、レイレはいきなり聞こえた爆音にがばっと身を起こす。


「何!?」


 即座に臨戦態勢に入ったレイレだったが、周囲を固める主力のモンスターたちに動きがないことに気づき警戒を緩める。

 そして断続的に続く音のする方に顔を向けたレイレは、防壁の上から放たれる大量の矢や魔法を眺め首を傾げた。


「ゴブリンたちの死骸で階段を造らせないように一気に殲滅することにしたのかしら。朝から迷惑な話よねぇ」


 少し首をもたげた地竜の背中をポンポンと叩き、レイレはのんびりとした口調で呟く。

 防壁の上からの攻撃のせいで、ゴブリンたちはどんどん数を減らしている。だがそれでも全体からすれば数%でしかない。


「まあこのままでいいわね。こちらの駒が尽きるのが先か、あちらの備蓄が尽きるのが先か。ふふっ、どこまで抵抗してくれるのかしら」


 ゴブリンの緑の血で染まっていく大地を眺めながら、レイレは自らの腰に提げたマジックバッグから取り出した薄切りのパンをかじる。

 このまま戦い続ければ、防壁に用意されている備蓄の量、そして人員についてある程度の推測がつく。

 今回攻略に失敗したとしても次はもっと多くのモンスターを用意すればいい。それでもダメならもっと多くを。人も資源も有限である限り、それを繰り返せば攻略できないものなどないのだから。


 レイレにとってこの侵攻はゲームなのだ。難しければ難しいほど面白く、そしてそれを達成したときには爽快感が得られる。

 そのためにどれだけの命が敵味方共に失われようとも、レイレの心にはわずかにも響かない。


「そうだわ。せっかくだから飛行系のモンスターで邪魔しようかしら。これが有効だったら次は飛行系のモンスターを多く連れて来ればいいわけだし」


 ぱん、と両手を合わせてさも良いことを思いついたとでも言わんばかりの顔をしたレイレが、周囲にいた飛行系のモンスターを操り防壁の攻略に加える。

 その翼を羽ばたかせ、高く飛び上がったモンスターたちはまるで渡り鳥のように編隊飛行で防壁に向かうと、攻撃を続けていた兵士たちへ強襲を始めた。

 ゴブリンのみに向かっていた矢や魔法が上空に向かって放たれ始め、侵攻を止められていたゴブリンたちが再び前に進み始める。


「これはいいわね。あらっ、なにかしら?」


 魔法などの弾幕が薄くなったことで、ゴブリンたちが進む先にいる存在にレイレが気づく。

 そこにいたのは黒に近い紫の全身鎧を着たウィルだった。彼は群がるゴブリンたちを薙ぎ払い、叩き潰し、その命を軽々と奪っていく。

 まるで大人と赤子のような圧倒的な実力差を感じさせるその姿に、レイレはしばし見入り、そして面白いおもちゃを見つけたようにその口の端を上げた。


「一人で何万ものゴブリンを相手にするなんて死にたがりなのかしら。でもとっても強いわ。強い子は好きよ。そんな強い子が弱者の群れにやられるのも一興だけど……」


 人差し指を唇に当ててしばし考えたレイレは、その指をウィルに向けて指し示す。

 その合図とともにレイレの周囲にいた4体のブラッディベアがその身を起こし、うなり声をあげながら防壁に向けて駆け出した。


「ふふっ、ゴブリンたちに汚される前にちゃんと綺麗な顔のまま確保しないと。あぁ、兜の下はどんな顔をしているのかしら。あれほど強い子があっさりと殺される姿を見たら、人間たちはどう反応するのかしら。楽しみだわ」

「残念ながらそれは無理だと思うよ。ウィルが負けるはずがないし、それにそれまで君は生き残れないから」

「なっ!?」


 堀から飛び出してきた1人の騎士の登場にレイレは目を見開く。

 そのそばにいたモンスターたちの首をあっさりとはねて殺して見せたのは、その顔に皮肉気な笑みを浮かべたランディだった。

お読みいただきありがとうございます。

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