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姫と魔王と守護の龍  作者: ジルコ
第2章 魔人と踊る

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第10話 襲撃の予兆

 同時刻、サデト砦において合同訓練の打ち合わせをしていたランディは、その異常すぎる魔力の揺らぎを察知し、和やかだった表情を一変させる。


「ベン、すぐに街に戻って緊急事態が起きたと領主様に伝えろ」

「わかりました」


 その打ち合わせに参加していたのは、セイナット帝国においても上位の実力者ばかりであり、突然のランディの命令にも誰一人口を挟むことはなかった。

 いや、もうすでに第三方面軍の面々は1人を残して席から立ち上がって部屋を出ていこうとしているため、そんな暇はなかったということなのかもしれないが。

 打ち合わせに参加していた9名のうち6名が去り、会議室に静寂が訪れる。


「事態を確認しに行かなくてよろしいのですか?」

「そうだな。では先に行っていてくれ。少し確認したいことがある」

「わかりました」


 残っていた副官に情報収集を任せたランディは、会議室に残る最後の1人に視線を向ける。

 自らの感情を沈めるように、深く息を吐いたジェシカの2つの視線とランディの視線が交錯した。


「なにが起きているのか知っているようですね?」

「ああ、知っているさ。あの時の屈辱を忘れたことなど1日としてない。あの笑い声が今も耳に残っている」

「ヘイシアのことですね」

「やはり知っていたか」


 ジェシカの断片的な情報を聞いただけで、ランディはその言葉が指す出来事を当ててみせた。

 そのことに対してジェシカは驚かない。この男なら当然知っているだろうという確信があったからだ。


 セイナット帝国において南部の国境沿いにあったヘイシアが滅んだのは3年前のことだ。

 国境沿いに建っていた街ということもあり、ヘイシアの防壁はまるで城塞のように強固であり、そこを守る騎士たちも精強と名高かった。

 だがヘイシアはモンスターの侵攻を受け、わずか10日で陥落した。第三方面軍が駆けつけたころには街は崩壊しており、そこに居たはずの大勢の住民たちは物言わぬ躯となっていた。


 隣国が滅び、次の標的になるのはヘイシアであろうと第三方面軍も想定していた。

 だからこそある程度の戦力を常駐させ、万が一に備えて最速で向かうことができるように連絡体制も敷いた。

 ヘイシアには十分な食料と資源があり、その戦力を防衛に注げば1か月はもつとジェシカは想定していた。だがその予想は大きく外れてしまったのだ。


 ランディも隣接する街であるヘイシアのことはよく知っていた。

 第三方面軍を含めた合同演習で何度も顔を合わせたことがあり、その実力も十分にわかっている。

 ランディには及ばないものの粒ぞろいの騎士たち、そしてその命令をそつなく実行してみせる兵士たち。


 そんな彼らがいたのに、これほど短期にヘイシアが陥落したのには必ず理由がある。

 そう予想したランディは、ヘイシアから逃げてきた何人もの住民たちに聞き取りをしていった。

 しかし生き延びた住人のほとんどは最初期に街から出ることを選んだ者ばかりで、モンスターの大群が現れたため逃げるように勧告が出た、ということ以上を知る者はほとんどいなかった。


 だが地道な調査の末、ランディは1つの証言を得た。

 それはヘイシア周辺の森で働く木こりだった男のものであり、幸運にもモンスターの侵攻の難を逃れた彼が見たのは……


「モンスターの大群がヘイシアに襲い掛かろうと進む中に、笑いながら歩く女がいた。あいつの笑い声がまだ耳に残ってるんだ。なんなんだ、あいつは。なんなんだよ」


 路地裏で浮浪者同然の姿になり、やせ細った体を震わせながら男はそう言った。

 目は血走り、錯乱状態にも見える男の言葉を周囲の誰も信じていなかった。

 故郷と家族を失い、壊れてしまったのだろうと人々は考え、わずかな同情はあれどそれ以上手を差し伸べることはしなかった。


 男のことを報告で知ったランディは、その真偽を確かめるべく直接会いに行ったが男は既に衰弱しきっており、うつろな目をしながらうわごとのようにその言葉を繰り返すだけだった。

 そしてその声は次第に小さくなっていき、ランディに看取られ男はこの世から旅立った。


 元は筋肉質であっただろうぼろぼろの体を持ち上げ、ランディは共同墓地へと向かいながら考えた。それが何を意味するのかを。

 そして想定したいくつかの可能性の1つをなぞるように、ジェシカが言葉を紡いでいく。


「ヘイシアはモンスターの侵攻に耐え切れずに滅んだ。それが帝国としての見解だ。それは確かに間違ってはいない。ヘイシアを滅ぼしたのはモンスターだ。ただ、兵士のように統率された奴らだったがな」

「兵士のよう、ですか」

「ああ。駆けつけた我が軍が目にしたのは、ヘイシアを背後に陣を敷いたモンスターたちだった。奴らは中央にいた女の合図でその陣を自在に変えてみせた。悪夢のようだったよ」


 そのときのことを思い出したのか、ジェシカの顔がわずかにひきつる。

 それもそうだろう。モンスターは強靭な体を持ち、凶暴な性格をしているが、頭の出来はそこまで良くない。

 集団で生活する性質のあるゴブリンなどが仲間と協調することはあるが、基本的には人を見れば迷わず襲い掛かるというのが普通なのだ。


 それに対抗するため、人々は武器や防具を装備し、協調して戦う。

 堅牢な防壁があれば安全地帯からの攻撃はたやすく、備蓄さえ尽きなければただ向かってくるモンスターを留めることも難しくはないはずなのだ。

 だがモンスターが統率されているのであれば話は違う。それは今まであったアドバンテージが消えることを意味しているのだから。


「信じられるか。ただのモンスターが喜んで後の者の礎になるように動くんだぞ。ゴブリンごときが突き刺された剣を掴んで、次の攻撃を阻害しようとしてくる。あの戦いで我が軍にも少なくない被害が出た。一部のモンスターをけしかけられただけなのにな」


 そう言いながら、ジェシカは自身の顔に残った傷跡を手で撫でる。


「そんな我らを見てあの女は笑ったよ。そのあげくに、今倒してもつまらないからまた来ると言い残して去っていった。大量のモンスターを引き連れてな」

「それが今ということですか」

「おそらくな。ヘイシアのときも、事前に大きな魔力の揺れを検知したという報告を受けている。その報告を出した部下はもういないがな」


 ギリっと歯を鳴らし、ジェシカは拳を震わせる。

 その瞳にぐつぐつと煮え立ったどろりとした暗い感情をまとわせながら、椅子から立ち上がったジェシカがランディを見つめた。


「お前は国を守るために死兵となる覚悟はあるか?」


 その問いに、ランディはジェシカがなにをしようとしているかをすぐに察した。

 いや、ランディ自身、モンスターと共に歩いていたという女がそれらを操ることができるのであればどうすべきなのか既に考えていたのだ。


「つゆ払いが必要、ということですか?」

「ああ、少しでも戦力になる者は欲しいからな。あまり我が軍から出して、残りの殲滅ができなくては意味がない」

「私が行けば、あなたは残るということですか?」

「それはないな。私は、目の前でむざむざ仲間たちが死んでいくのを見せつけられたあの日に自らの限界を知った。私は指揮官の器ではないのだ。どこまでいっても1人の騎士に過ぎなかった。だからこそ最後は騎士として役目を果たす。後の礎になるためにな」


 そう言い切り、ジェシカはくるりと背を向けて歩き出す。

 そして振り返りもせずに付け加えた。


「たわむれに聞いただけだ。お前にはお前のやるべきことがあるだろう。騎士であるのならそれを全うしろ」


 そしてジェシカが部屋のドアに手をかけると、その手にそっとランディの手が重ねられる。

 動いた気配すらジェシカに感じさせることなく近づいてみせたランディは、自らの肉体をいじめるように鍛え上げられたことのわかる彼女の手を優しく包み込む。


「ここが落ちれば、次はチルンです。ならば勝つ可能性が少しでも高い選択をするのが、筆頭守護騎士としての役目ではありませんか?」

「可能性は低く、失敗すれば必ず死ぬぞ」

「かもしれませんね」


 ランディの目はどこまでも穏やかであり、死に向かう者には到底見えなかった。

 なぜこのような目ができるのかジェシカにはわからなかった。

 一見すると覚悟ができていないようにも思える。だがなぜかジェシカの目はランディに惹きつけられてしまった。


「まあ死ぬまでは頑張って生きましょう」

「なにを当たり前のことを」

「これまでの人生で得た教訓なんですけどね。まあ大丈夫です。あなたの生きる道を私が切り開きますから」


 そう笑ってドアを開けたランディが手を差し伸べる。

 その手をパンと打ち払いながら横を通り過ぎ、ジェシカは防壁の上を目指して歩き始めたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


突然投稿が止まってしまい申し訳ございませんでした。

ちょっと緊急で手術することになってしまい、バタバタしておりました。

命に係わる病気ではありませんので、合間を見て投稿していきますので今後ともよろしくお付き合いください。

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