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姫と魔王と守護の龍  作者: ジルコ
第2章 魔人と踊る

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第6話 呼び出し

 去っていく職人たちの後ろ姿を防壁の上に座って眺めていたレジーナが、ふぅ、と大きく息を吐いて視線を空に向ける。


「これでやっと気が抜けるのぅ。まあだいぶ慣れて楽にはなってきておったが」

「そうだな」


 くるりと振り返ったレジーナはそのまま立ち上がり、後ろに立っていたウィルに笑みを向ける。

 ウィルは彫像のように全く動かないが、それはいつものことだ。返事をしてくれただけマシだろう。


 ぐぐっと背を伸ばし、うーんと声を漏らしながらレジーナは砦とそこから続く防壁を眺める。

 1年間建築を続けたおかげでその長さは10キロメートル近くに及んでいる。反対側にもだいたい同じ長さ延びているため合計20キロメートルの防壁が築かれたということになる。


 防壁の端に座るレジーナから見た砦はもう小さな豆粒ほどの大きさしかなく、そこに人がいるかどうかすらわからない。

 これからもその距離を伸ばしていけば人に見られる頻度はさらに下がる。そうすれば精密な操作をせずに建築を進めればよくなるのだ。

 それはレジーナにかかる負担が大きく減ることを意味していた。


「まあこれでちょっとはウィルと……」

「誰かが来るな」

「なんじゃ、いいところじゃったのに。んっ、この魔力はランディじゃな」


 騎乗して近寄ってくる小さな人影をウィルが見つけ、それを探ったレジーナが人を特定する。

 ランディは一直線にこちらに向かってきているため、2人に用があるのは明白だった。


「なんじゃろうな?」

「さあ」


 どちらからともなく2人は顔を見合わせたが、どちらにも心当たりはない。

 とは言えせっかくランディがやってくるのだ。

 2人は迷うことなく防壁から飛び降り、しばしの自由落下の後にレジーナの魔法によって静かに地上に降り立った。

 しばらく後、やってきたランディはひらりと馬から降り、その体を軽く叩いてねぎらった後2人に近づく。


「やあ、2人とも調子はどう?」

「どう、と言われてものぅ」

「いつもどおりだな」


 気軽に声をかけてくるランディを2人は迎えたが、その表情はいぶかしげだった。

 この1年、何度も2人に会いにランディはやってきていたが、部下を連れての視察を除けば非番の日に私服で来るのが普通だったからだ。

 しかし今、ランディは1人ではあるがかっちりとした騎士の正装を身に着けている。それが示すのは、ランディが2人の友人としてではなく、チルンの筆頭守護騎士として会いに来ているということだ。


「で、用はなんじゃ。職人たちなら既に帰ったがのぅ」

「うーん、何と言ったらいいか。まあ単刀直入に言うとね、この防壁の建設責任者を連れてくるようにって命令が出たんだ」

「領主の許可があったはずだが?」


 少し言いにくそうにするランディにウィルが問い返す。

 建材を積んでいるだけ、という無理筋から始まった防壁の建築だったが、ランディの計らいにより領主には話が通っていた。

 国を憂う民が自主的に始めたことであり、チルンの領主として許可はするものの援助などはしないという形で、帝国中央も許可を出しており、召喚されるようないわれはなかったはずなのだが……


「いや、問題があったわけじゃないんだ。この前話したとおり、もうすぐ本格的に砦に第三方面軍が入るんだけど、そこの騎士団長から連れてくるように依頼があってね」

「ふむ、お褒めの言葉でもいただけるということかのぅ?」

「私もその可能性が高いとは思ってる。でもちょっと気にかかる部分があってね。レジーナとウィルにも同行してもらえないかなって」

「気にかかることとはなんじゃ?」

「うーん、うまく言えないんだけど、しいて言えば勘かな。ほらっ、確か前に視界から外れると操作が甘くなるって言ってたでしょ」

「それは確かにそうじゃが」


 ランディ自身もなにか確証があるというわけではないという話を聞き、レジーナはしばし考えに耽る。

 正式な手続きを取っている以上、面倒ごとが起きるとは普通考えにくい。なぜなら防壁の作成はセイナット帝国に利となりはすれど、不利にはならないからだ。


 それはランディもわかっているはず。それなのに何かが気にかかる。

 杞憂だと笑い飛ばすこともできるだろう。だが、勘とは長年の経験からくる最善の選択肢への道しるべだ。

 そして何人もの人生を経験しているランディのそれを無視するなど、レジーナには考えられなかった。


「わかったのじゃ。責任者としてジフン、建材の作り手としてトール、その弟子として我、護衛としてウィルを出す。それでよいかのぅ?」

「ごめんね。これが終わればしばらくゆっくりできると思うから」

「願わくばそうであってほしいがのぅ」


 自らの心の内が騒めくのを感じながら、レジーナはそう返す。

 おそらく自分の言葉が叶わないであろうことをなんとなく感じながら。





 筆頭守護騎士の役目としての呼び出しを受けた翌日、いつもの作業着姿のドワーフのジフン、そして恰幅が良く一見すると商人のようにも見える魔法使いのトールを連れ、レジーナはチルンの領主の館に向かっていた。

 わざわざ防壁まで迎えに来た4頭の馬でひく箱馬車のふかふかなソファーの感触を楽しみながら、レジーナは通り過ぎていく街並みを眺めていた。


「なんとなく民に元気がないように見えるのぅ」

「そうか?」


 ぽつりと呟いたレジーナの言葉に、ウィルも外を眺めたが特に変わりがあるようには見えなかった。

 もちろんレジーナとて確証があるわけではない。そもそも基本的に防壁造りに精を出していたレジーナがチルンの街を訪れたのは両手の指で数えられるほどの回数しかないのだから。


「それなりの服を着てきてよかったかもしれんのぅ」


 こげ茶に金の意匠の入ったワンピースタイプの自身の服をレジーナが見つめる。

 ウィルはいつもどおりの黒に近い紫の全身鎧を身に着けているが、レジーナとトールについては、昨日ランディと会った後にレジーナがデリク王国の街まで出向いて超特急で仕立ててもらった新品の服を着ていた。

 師と弟子の関係を示すように、こげ茶に金の意匠のローブを身に着けたトールは、緊張を緩めるためか深呼吸を繰り返している。

 もちろんこの演技もレジーナの指示であるわけだが。


「あいつは良かったのか?」

「ドワーフは頭が固いじゃろ。イングリットのことを思い出してみよ」

「そうか。そうだな」


 かつて魔王を倒す旅の中まで会ったドワーフのイングリットのことを思い出し、ウィルが目を細める。

 彼女も誰に会う時であれ、自らの格好を変えるなどということはしなかった。その相手が例え一国の王であろうとも。


 その理論で言えば、今回の相手はただの騎士団長、ドワーフにとってはもはや一般人と変わりない。

 下手をすれば工事を止めやがって馬鹿野郎が、と説教の1つでも落としかねない状況であるとも考えられる。


 ドワーフについてそれなりに知っているレジーナは、今回の呼び出しにジフンを行かせないという選択肢も考えはした。

 だがそれは問題の先延ばしに過ぎず、因縁をつけられ面倒なことになる可能性もあるため服は変えずに行くことを選択したのだ。


「さて、何がおこるかのぅ?」


 領主の館を守る外壁を抜け、馬車はゆっくりと領主の屋敷に向かって進んでいく。

 レンガ造りの堅牢そうなそこは、もしかすると屋敷よりは砦に近いかもしれない。

 振動をほとんど感じさせず馬車が止まり、そして馬車の扉が待機していた労執事によって開かれる。


「ようこそお越しくださいました、皆さま。チルン領主エドワード様と第三方面軍騎士団長ジェシカ様がお待ちです。こちらへどうぞ」


 うやうやしい礼と歓迎の言葉を受けた後、先導する執事のピンと伸びた背中を眺めながらレジーナたちは屋敷の奥に進んでいったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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