第31話 正しい竜の使い方
ウインドドラゴンのナムヴァがピアの従魔となった1か月後、設備が整った無人の村であったそこは大きく様変わりしていた。
最も大きな変化は、その村に住むようになった新たな住人達、ウインドドラゴンのナムヴァを始めとした4匹のドラゴンたちだ。
ファイヤードラゴンのウェムヴァ、ウォータードラゴンのケレヴァ、グランドドラゴンのマニヴァというドラゴンが仲間になっており、彼らのおかげで村の様子は一変していた。
元々この村はレジーナが暇つぶしで作ったものだ。
その多くはモンスターの侵攻によって滅んだ国の周辺や、紛争などが多く荒れた地域など、国としての管理がほとんどされていない場所を狙って建てられていた。
暇つぶしついでに盗賊が釣れて、嗜好品を買うための資金が手に入ればもうけもの程度であったため街道への接続など考えられていない。
いちおう難民などが見つけて一時的に住み着く可能性もあるため、その村単体で生活できるように生活インフラは整えてある。
家や畑の整備は言うに及ばず、食料確保につながる小麦などの種や水の確保のための井戸、百年程度使うには十分な量の岩塩が採掘できるように用意してあるため、生活基盤を整えるには十分すぎるくらいだ。
だが、ある程度の期間住むのには十分であるが、そこに住み続け拡張を続けようとすれば難しい村、というのが正直なところであった。
レジーナが用意した資源には限りがある。レジーナの魔法で作られた道具はそれなりに頑丈ではあるが、使い続ければ摩耗し、いずれ壊れる。
たまたまそれを修復や新たに作成できる職人がいればなんとかなるかもしれないが、村の近くに鉱床を用意することまではしていないので、いずれはじり貧になるのだ。
村として生き続けるためには、それらを手に入れる手段が必要になる。
以前のレジーナが住んでいた山奥の村が存続できていたのも、外界から来る行商人がその役目を果たしていたからだ。
もしそんな交流が続いていなければ、例の事件が起きなかったとしてもあの村は自然に消滅していただろう。
というわけで外界との交流を持つことのできる経路が非常に重要になってくるわけだが、その開拓は並大抵のことではない。
この村の周辺はいくつかの森が点在する平野であり、その土地も比較的しっかりとした地盤である。
険しい山岳地帯や、ぬかるんだ湿地でないだけマシといえばそうなのだが、街道までの道を、しかも交易を目的とした道を造るとなれば大事業となることは間違いなかった。
大量の人手を投じ、さらに長い年月をかけて徐々にその距離を伸ばしていくはずの工程を、既にピアの村は終えていた。
ウェムヴァが周辺を炎のブレスで焼き払い、ケレヴァが燃えカスやごみを水のブレスで押し流し、マニヴァが土のブレスで整地する。
そうしてできた街道へと続く道はどこまでも平らであり、馬車の揺れなどみじんも起きない素晴らしい出来のものとなっていた。
街道ができたことで村に来ることも容易になり、その道を通って多くの人々が村へとやってきた。
その多くは獣人であり、彼らはピアと一緒に暮らしていた村人たちだった。なぜそんなことになったかと言えば……
「お疲れ様、ナムヴァ。ゆっくり休んで」
「クッルルル」
ぽんぽんと頭を撫でられ、気持ちよさそうな鳴き声で返したナムヴァに別れを告げ、空の旅から戻ってきたピアが干し草の敷かれたドラゴン舎から出ていく。
防風用のゴーグルを頭にかけ、全身を覆うつなぎのような服を身に着けた彼女は、近づいてくる足音にその丸い耳をピクピクと動かした。
「ピア。仲間は見つかったかのぅ?」
「ううん、今日の収穫は0だよ。正直なところもう限界かなぁって思ってる。いちおう逃げた仲間の6割がたには声をかけられたし、買い出しついでに寄った街で話を広めるようにお願いしておいたから、私が直接話せなくてもやってくる人はいると思う」
そう言いつつも、レジーナの顔には悔しさがにじんでいる。
ナムヴァが仲間になってから、ピアはその機動力を生かして空から仲間の捜索をつづけていたのだ。
幸いなことに、奴隷狩りから逃げた仲間たちの多くは別の場所でキャンプを造って集団生活しており、そこで5割以上の人々に新たな村の位置をピアは教えることができた。
それ以降もピアはぽつぽつと仲間を見つけては声をかけ、倒したグラスドラゴンなどの素材を売り、その代わりとして食料や道具などを街で仕入れるついでに新たな獣人の村の噂を広めるように手配したりと手は尽くしてきた。
各地から集まってきた獣人たちのおかげで村は活気づき、噂を聞いてやってきた商人たちとの交易も始まっている。
なにせドラゴンの素材を売ることができる村なのだ。そこと取引したい商人などごまんといた。
村は順調に発展、安定の道を進んでいる。それ自体は喜ばしいことに違いない。
しかしその裏で、救えなかった命があることをピアは理解している。そして奴隷として捕らえられたピアの父親を含めた仲間は未だ見つけられていない。
忸怩たる思いを抱きながらも、ピアは前進するために捜索を切り上げることを今日決めたのだ。
「で、次はどうするのじゃ?」
「とりあえずは村の安定化と影響力の拡大かなぁ。この前、この辺りを治める領主様に開拓村として申請して受理されたから、公的な立場は手に入った。ちょっと腹に一物抱えてそうなのが気になったけど、まあ貴族なんてそんなものだしね」
「さすがよく知っておるのぅ」
その返しに、ピアの顔には苦笑いが浮かんでいた。
ローザとして王族であったことのあるピアは知っている。王族と貴族は主従関係にあるとされているが、それは必ずしも一方的なものではないと。
貴族、特に自らの領地を持つ者は、その土地における王なのだ。だからこそ彼らは自らの利害に敏感である。それは時として王への忠誠を上回るほどに。
「人間とは面倒だな」
「ウィルは食べて寝るだけじゃから、単純なものじゃな」
「いちおう食料の確保はしている。奴らはそれなりに食べるからな」
レジーナの皮肉に少しむっとした空気を醸しながら、ウィルはドラゴン舎で休んでいるナムヴァを眺める。
空を長時間飛んだため消費した体力を回復させるためか、グラスドラゴンの肉の塊に嬉しそうに食いつく姿には警戒心が一切感じられなかった。
動きを止めたウィルの姿になにかを感じたのか、ピアがパンと手を叩く。
「そ、そういえば、ミコールはどう?」
「グラスドラゴン1匹であれば安定して倒せるようになっている。まだワイバーンは苦手なようだが、じきに倒せるだろう」
「あ奴は向上心が強いからのぅ。お主もうかうかしておれんぞ」
「ふふっ、そうだね」
現状として、村でドラゴンを倒すことができるのはピア、レジーナ、ウィル、そして現在成長中のミコールだけである。
他の者はそもそも実力が足らず、集団で無理にこなそうとすれば大きな犠牲が出る可能性があった。
ドラゴンを従魔としているこの村にとって、魔力の豊富な食料であるドラゴンの肉は必需品だ。
ダンジョンがあるため手に入れる機会はあるが、それを手に入れるにはドラゴンを倒すしかない。
この村にレジーナとウィルがいるのはイレギュラーなことだ。彼女らはピアが死ぬまではここにいてくれるだろうが、死後は元の洞窟に戻ってしまう。
それを考えると村を維持する方策を早めに打ち出す必要があった。
「やっぱりナムヴァたちに手伝ってもらうのが一番かな」
「まあそうじゃろうな。そもそもドラゴンなど下級でも早々に倒せる存在ではないしのぅ。特別なのはミコールのように才と気概、そして装備が整っている者くらいのものじゃ」
「そうだよね。道の整備や村の拡張も一段落したし、今度の集会ではかってみるよ。あとは影響力の増加かぁ。ドラゴンがいるって言うだけでも大きいけど、もう一手欲しいよね。国家の根幹に関わる一部を担えたら最高なんだけど」
「まあ、それはおいおい考えるんじゃな。さて、そろそろ日も暮れるし、ミコールの食事を食べに行くのじゃ」
腕組みして考え始めたピアの体を押し、レジーナが村の中心に向かって歩いていく。
そんな2人の後ろ姿を眺めながら、ウィルは静かにその後をついていったのだった。
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