第24話 お宝さがし
その後、レジーナは残りの獣人たちにつけられていた従属の首輪を次々と外していった。
皆が一様に驚き、そして大げさなくらいの感謝を示す中、レジーナに襲い掛かってしまったミコールだけは、とても気まずそうにしていたのが印象的だった。
そして最後まで残ったピアの首輪を外し、床できた首輪の山にレジーナはそれを放る。
「これで最後じゃな」
「ありがとう」
「ああ、ピア。この首輪いくつかもらってもいいかのぅ?」
「んっ? 別にいいけど。そもそも私たちのものじゃないしね」
何に使うの? と首を傾げるピアに悪い笑顔を浮かべて返し、魔法でいくつかの首輪を浮かべるとそのまま部屋を出ていく。
レジーナは後ろに続く獣人たちを気にすることなくそのまま外に出ると、仲間の死体からなにやら漁っている盗賊たちの姿があった。
扉から現れたレジーナの姿に、顔をひきつらせた盗賊たちは脱兎のごとく逃げ出す。
「それは悪手じゃ」
その場でレジーナが軽く腕を振るうと、浮かんでいた従属の首輪が盗賊たちに向けて飛んでいき、全ての首にそれは装着される。
そしてわずかに笑みを増したレジーナは、短く告げた。
「止まれ」
その一言の効果は絶大だった。
その命令を無視し、逃げようとした者は急速に絞められた首輪のせいで息を止まり、首輪を外そうともがきながらしだいに地面に倒れていく。
残ったのはレジーナの命令を最初から聞き、立ち止まった男1人だけだった。
その男に向けてレジーナはつかつかと近寄っていく。
「よしよし、己が分を知っておるとはなかなかに感心じゃな」
「ひ、ひぃ。化け物」
「おおっと、お主も己が分をわきまえぬ者じゃったか」
「すみません。すみません。すみません。殺さないで」
まるで這いつくばるようにして頭を地面につけ謝罪する男を、レジーナは冷めた目で見つめる。
今はこんな態度をとっているが、この男によって殺された者もいるだろうことをレジーナは見抜いていたからだ。
放っておけば靴でもなめそうな男に、レジーナは淡々と問い詰める。
「お主らのアジトはどこじゃ? ここに来たのは最近じゃろう? 奪った物を全てこちらに持ってきているとは思えんのじゃが」
「は、はい。お頭の命令で、宝は拠点に置いたままです。とりあえずしばらく様子を見て、ここが安全そうなら移すって。拠点は、あっちにあった洞窟を使ってます」
「ふむ」
「アジトに残っているのは5名です。あと先に逃げた奴も向かっているとしたらたぶん合計で8名」
「察しの良い奴は嫌いではないぞ。ではついでにお主にそこまでの道案内を頼むとしよう」
にんまりとした笑みを浮かべるレジーナの姿に、男の顔がさっと青くなっていく。そして何を言ったとしてもその決定は変わらないと察し、がっくりと肩を落とした。
「さて、これから我はこやつらのアジトとやらに行くが、お主らはどうする?」
振り返ってレジーナが獣人たちにそう聞くと、彼らは顔を見合わせながら戸惑ったようにざわざわとし始めた。
その思わぬ反応にレジーナは少し首を傾げ、近くにいたピアを手招きして呼ぶ。
「なに?」
「のぅ、ピア。お主ら、盗賊に対して思うところがあるのではないのかのぅ?」
「うーん、たぶんないかな。この人たちが奴隷商人の馬車を襲ってくれたおかげで私たちは解放されたわけだし、獣人は売れば金になるからって手も出してこなかったしね」
「では余計な気遣いじゃったか」
レジーナがぽりぽりと鼻をかきながら苦笑いする。
盗賊のアジトの制圧など、レジーナ1人でどうとでもなる些末事だ。だがもし盗賊に恨みがあるのであれば、それを晴らす機会があってもよいのではないかと彼女は考えて聞いてみたのだ。
だがふたを開けてみれば盗賊は獣人にとって恨みの対象ではなく、むしろ奴隷商人を殺してくれたことを考えると感謝の対象となっているかもしれなかった。
「ふふっ。そういう優しいところ、変わらないね」
「誰に優しいと言うておるのじゃ」
小さく笑みを浮かべてみてくるピアから顔を背け、レジーナはわずかに赤くなった頬を隠すように盗賊に近づいていったのだった。
結局獣人たちの話し合いの結果、盗賊のアジトに向かうのはレジーナとピア、そしてミコールの3人になった。
人数的にはかなり少なかったが、盗賊程度であれば何人いてもレジーナの敵ではない。
それに現在残っている獣人たちの中で突出した実力を持つピアと、それに次ぐ力を持つミコールがいれば問題ないだろうと獣人たちは判断したのだ。
村に残る獣人たちが、従属の首輪をはめられた盗賊たちと一緒に片づけを始めたのを横目に見ながら、3人は唯一倒れなかった若い盗賊を案内役として歩いていく。
主街道から距離があるため整備などされていないこの辺りは、レジーナの腰のあたりまで高さのある草の生い茂る草原である。
ぽつぽつと生えている木が目印にでもなっているのか、男は迷うことなくまっすぐに進んでいった。
3人は全く息を切らすことなくその後に続いていき、半日ほど進んだところでやっと男の足が止まる。
そして男が指さした先には、道中で話題になっていた盗賊のアジトの洞窟があった。
小山の麓にぽっかりと空いたその洞窟の前には、見張りらしき1人の男が槍を持ち、周囲をきょろきょろと見回している。
「警戒してるね。村から逃げた盗賊が帰ってきているんだろう」
「かものぅ。まあ警戒したところで同じなんじゃがな」
木の陰に隠れながら鋭い目で見張りを見つめるミコールに軽く返し、レジーナはあっさりとその姿を見張りの男の前にさらす。そして堂々と真正面から男に向けて歩き始めた。
そのあまりにも大胆な姿に、見張りの男は本来すべき警戒の声をあげることもなく、レジーナを不思議そうに見つめていた。
街道から外れたこんな場所に、ただの少女がいるはずがない。そう頭ではわかっているのだが、それが違和感と結びつく前にレジーナの唇が動く。
「のぅ、お主。村の開拓に使う男手として働く気はないかのぅ?」
「何を言ってやがる」
意味の分からない言葉を受け、反射的に見張りの男は槍を構えた。
だがその判断は遅すぎた。その時には既に男の首には従属の首輪が巻き付いており、主であるレジーナに武器を向けるという禁忌が男の首を容赦なく締め付ける。
「あっ、ぐっ」
男はかきむしるようにしてなんとか首輪を外そうとするが、従属の首輪は力でどうこうできるものではない。
しばらく抵抗していた男だったが、カヒューという細い息を吐きながら地面に倒れ伏し動かなくなった。
「労働力ゲットじゃな。さてさっさといくぞ。あっ、お主はここでこ奴が逃げないように見張っておくんじゃ。なに悪いようにはせんから安心せい」
ここまで案内してきた盗賊の男にそう言い渡し、レジーナはピアとミコールを連れて洞窟の中に入っていく。
入口こそレジーナが腰をかがめるほどに小さな穴だったが、その中は案外広く、3人が横に並んでも余裕で歩けるくらいの広さがあった。
耳をとがらせ警戒心をあらわに進んでいくミコールとは対照的に、レジーナはまるで散歩でもしているかのように気軽に歩き、そして出会う盗賊たちを片っ端から捕獲していく。
それはもはや戦いとは呼べないものだった。
「なあピア。あいつなんなんだ?」
「うーん、なんなんだろうね」
ついてきたのにも関わらず、全くやることがなくただ歩いているだけの状況に、困惑したミコールがピアに尋ねるが、それにピアは苦笑するだけだった。
そしてそのまま2人はなにもすることなく、盗賊たちはレジーナによってあっさり全員捉えられてしまった。
そして3人は最後の盗賊を捕らえた、盛大に傷のついた扉の前で一息つく。
「さてお待ちかねのお宝部屋じゃな」
「これだけされても壊れないって、かなり頑丈に作ってあるね。よほど大切な物が入れてあるのかな」
「かもね。私が蹴破るから少し離れていてくれ」
扉の前に立ったミコールが、わずかに助走をつけてその扉を蹴りこんでいく。
そのしなやかな足から伝えられた衝撃はあますことなく扉へと伝えられ、扉の中央を大きくひしゃげさせた。
続けてミコールは幾度か蹴りを叩きこみ続け、ついにバキッという崩壊の音と共に扉が外れ、ゆっくりと内側に倒れていく。
「まあ、こんなもんだね」
「うむ、ごくろう」
そう言って胸を張るミコールにねぎらいの言葉をかけながらレジーナはその部屋の中に入る。
3畳ほどの広さのその部屋には、いくつかの布袋が無造作に置かれていた。レジーナが興味本位でそれを見てみると、そこには金貨や宝石などが詰め込まれていた。
「ふむ、かなりやり手の盗賊だったようじゃな」
そう言いながら、レジーナは拾った袋を無造作にピアとミコールに向けて放り投げる。
前世でそういったものに見慣れているピアはわずかに驚きを見せた程度であったが、ずっしりとした金貨の重みと輝きにミコールはピシリと固まってしまった。
そもそも一般人にとって金貨というのは、まず目にしないお金の単位である。
あるとすれば家などの大きなものを買う時であり、金に執着のなかったミコールにとってはさらに縁遠い存在であった。
そんな金貨が袋一杯に詰まっているとなれば、驚きで固まるのも当然だった。
ピアがちょんちょんと突いてミコールを正気に戻させようとする中、レジーナの目は部屋の1番奥にあったこげ茶色の革袋に釘付けになる。
床にペタッと平らに広がる様子から、何も入っていないように見えるのだが……
「ほう。珍しいものがあるではないか」
そう言って、レジーナは面白そうに笑ったのだった。
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