第20話 魔王闘争史における重要人物一覧より
眠りの魔王との長きに渡る人類の闘争の歴史の中で、最初期の重要人物の1人として挙げられるのが、デリク王国第34代国王ベネディクト・デ・オーサムの第三夫人ローザ・オーサムである。
先に書いたベネディクトは後に人類生存圏の防波堤となったデリク王国の基礎を築いた賢王であり、その重要性を今更説くこともないのだが、その大きな名のせいで一般には知られていない彼女の生涯についてここでは語ろう。
彼女の存在が公式の記録として残っているのは、齢18にして冒険者として名をはせ、デリク王国の勇者候補生に選ばれたのが最初である。
彼女自身がそれ以前のことについて語ったという記録も残っていないため、その出生、生い立ちについては謎に包まれている。
とはいえ、かの時代は魔王出現の混乱期であり、いくつもの国が滅亡しているため多くの流民が産まれている。彼女もそんな1人であったのかもしれない。
デリク王国歴685年。勇者候補生の叙任のため王都マデリクを訪れたローザは、叙任式前に出会ったベネディクト(当時 第二王子)に求婚され、それを承諾。
翌686年末に長男クライブを、688年に長女サディアを、689年に次男レジナルドを出産している。
なおこの子供3人については、現在までデリク王国にて継承される5大将軍の初代将軍を務めるほどの武人に育っている。
ローザを語るうえで欠かせないのが、王国歴695年に起こったカインズウェル逃走戦における活躍である。
この戦について簡単に解説すると、当時まだ第二王子であったベネディクトと共に国境付近の街カインズウェルへ慰問に来ていた彼女たちに向けて、未曽有の数のモンスターが侵攻してきたのだ。
その数は大地を埋め尽くすほどであり、ベネディクトは即座に街を放棄し撤退することを決断。
近隣のテイラー砦に向けて撤退を開始したが、それに追随する民衆を見捨てることができず、その進みは遅々としたものになってしまった。
このままではモンスターに蹂躙されて皆殺しにされる。そんな未来を誰もが描くところで立ち上がったのが、ローザだった。
彼女は近衛騎士10数名、そして冒険者時代の仲間2人のみを連れてカインズウェルに引き返すと、膨大な数のモンスターを相手に防衛戦を開始した。
だがいくら街の防壁があるといえど、モンスターの大群を前にしては意味などほとんどなく、1日も経たずに防壁は突破され、カインズウェルの街はモンスターで埋め尽くされる。
そんな中、彼女たちの部隊は十数日に渡って防衛し続けた。それどころかモンスターの群れに大きな被害を与え、その侵攻を止めてみせたのだ。
昼夜なく襲い掛かるモンスターたちに対し、ローザは先頭に立って戦い続けた。その姿に奮い立った彼女の冒険者仲間や近衛騎士たちも獅子奮迅の活躍をしたという。
このカインズウェル逃走戦において、ローザと共に唯一生き残った騎士の生々しい記録がデリク王国には残されている。
彼の記録から一部を抜粋する。
―――
仲間の騎士は心臓を貫かれても、その頭を欠けさせても剣をふるい、戦い続けた。
ローザ様を生きてベネディクト殿下の元に帰す。我らを率いるこの素晴らしき人の死地はここではない。それが我ら近衛騎士の思いだった。
そうして出来上がったモンスターの死体の山が新たな防壁となり、我々にしばしの休息を与え、それが崩されれば再び戦いが始まる。
私自身は3日目に左腕をねじり切られ、大量出血により気を失ってしまい最後まで戦うことができなかった。
おそらく数日間隔だろうが覚醒したときには、その視界の先でローザ様は常に戦われていた。私は守られていたのだ。守るべき存在に。
戦いが始まって何日経過したのかわからなかったが、ベネディクト殿下が援軍の兵を率い、モンスター共の悲鳴が街に響き渡る声で私は目を覚ました。
ぼんやりとした視線の先で、ローザ様はまっすぐに前を見て立っていた。その体は黒く染まり、返り血のついていない場所などなかった。
その周囲にはローザ様を守るように数人の騎士が立っていたが、徐々に近づくモンスターの悲鳴に安心したかのように次々と崩れ落ちていった。
体中傷だらけでぼろぼろになり、なぜ生きているのかわからないような状態にも関わらず、彼らは戦い続けた。
そして今、自らの役目が終わったことを知り、天へ旅立ったのだろう。
彼らこそ本物の騎士。私など到底及びもつかない高潔な仲間たちだった。
そんな彼らにローザ様はねぎらいの言葉をかけ、そして私に「よく生き残ってくれました」と感謝の言葉をかけてくださった。
私などほとんど役に立ってはいないのに。戦い続けたのは、守り続けたのはローザ様だというのに。
王都に戻った私は、閣下より直々に褒賞を受け、男爵として叙勲された。
これは本来私が受けるべきものではない。だが、それに相応しい仲間たちは既に天へと旅立ってしまっている。
生き残った私ができることは何か、そして何を残せるのか?
再び仲間たちに会えた日に、胸を張れるよう私は生き抜かなければならない。
ルーク・トンプソン著
―――
一部の歴史家の中では、この戦いにおけるモンスターの数はそこまでのものではなく、国民の戦意高揚のために誇張されたものであると解されている。
だが、このルーク・トンプソンの記録や王国の軍記、発見されたカインズウェルの商人の日記などの資料を読み解けば、絶望的な戦いであったのは明らかである。
この戦いにおけるローザの足止めがなければ、ベネディクトが王位につくことはなく、今日のデリク王国はなかった可能性さえある。
言い方はおかしいかもしれないが、ローザがデリク王国を救ったと考えるのも間違いではないだろう。
カインズウェル逃走戦以後、ローザは子供たちの教育、主に戦闘訓練に力を入れ、それは最強と名高いデリク王国の騎士の質を一段上に高める一助となった。
ローザ自身の実力も衰えを見せず、成人を迎えデリク王国内でも指折りの強さとなった子供たち3人を同時に相手にしても、一歩も引かぬ強さを見せつけたという伝説が今もなお語り継がれている。
5大将軍の筆頭に、ローザの称号が与えられる伝統が未だに続いていることからも、彼女の強さがけた違いだったことがうかがえるだろう。
デリク王国歴710年。夫であるベネディクトが病死したことを契機に、彼女は後進に道を譲り一線から身を引く。
それ以後は、王家の相談役としてたびたび表舞台に顔を出したが、穏やかな生活を送っていたという。
年に1度、彼女が亡くなる734年まで毎年鎮魂の旅を行っており、カインズウェルを始め、亡くなった勇壮な王国民の魂の慰撫を続けたという。
ただその旅の詳細については記録に残されていない。
通常護衛の騎士が動くときにはその記録が残されるのだが、旅を護衛する騎士に関する記録がないのだ。
立ち寄った街の記録などは残っているため、旅が行われたことは確実ではあるのだが、その実態は謎に包まれている。
もしかしたら冒険者だったころのように、身分を隠して気の合う仲間と共に旅をしたのかもしれない。
波乱の人生の最後に、そんな穏やかな日々があったことを願い、彼女についての紹介はここで終わろう。
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