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姫と魔王と守護の龍  作者: ジルコ
第1章 終わった世界から始まる物語

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第19話 因果

 第二王子であるベネディクトがローザを妻に迎えるというニュースは、翌日には市民の耳にも届いており、街はそのうわさ話でもちきりになった。

 とは言え、既に国民にも人気のある第一王子には2人の息子が産まれており、あまり民衆に顔を見せない第二王子の、しかも3人目の妻との婚姻ということもあり祝福ムードという感じではない。

 ローザが冒険者であったことから、また変わり者の王子が妻を迎えたらしいわよ。しかも冒険者の。というのが主な話題であった。


 一般庶民としてはその程度であったが、それを好機ととらえる者もいる。そしてその割合が最も大きいのは、商人たちである。

 商売するうえで後ろ盾というのは非常に大切になる。大きな後ろ盾であればあるほど関係する繋がりは広く多い。

 それを有効活用できれば、一代で富を築くことも夢ではないのだ。


 そして王族と言えばその筆頭格。ベネディクトは王位継承順位1位ではないとはいえ、その影響は大きく、堂々と贈り物を送ることができ、結果しだいでは縁を繋ぐことができる可能性もある。

 野心のある商人であればこの機会を逃すことなど、ありえないことだった。


 だからこそ城下の商人たちは、目まぐるしく動いていた。第二王子が気に入るであろう贈り物を探すだけでなく、他の商店の動きを探り、差別化を図る必要があるのだ。

 しかし時間をかけすぎることはできない。機会を逸することなどあってはならないのだから。


 夜になっても明かりが消えないいくつもの商店を窓越しに眺めながら、テルン商会の商会長はその手に持ったワインを傾けていた。

 王家御用達の工房が醸造した15年物の極上品。それ一杯で普通の家庭が1月楽に暮らせるだけのワインを、その芳醇な香りを楽しむでもなく彼は喉に流し込んでいく。

 空になったワイングラスを丸テーブルに置いた彼の視線の先には、レジーナから渡された薄紫の小石が置かれていた。

 商会長はその小石をしばらく見つめ、そして首を横に振る。


「そんなわけがない。あいつは確かに死んでいたはずだ。生きているはずがない」


 自らを暗示にかけるようにそう呟きながら、彼はワインをグラスに注いでいく。

 漆黒に近いその液体はグラスの中でしばらく波打っていたが、ゆっくりと落ち着きそして静かな湖面のように動きを止めた。

 その水面には月が浮かんでおり、まるでそれを手に入れたかのように思えるこの3階の私室は商会長にとって大切な場所だった。

 彼はいつものようにワイングラスに手を伸ばそうとし、そこに映る月がないことに気づく。


「んっ、なん……」

「ふむ。月を見ながらワインをたしなむとは、出世したものじゃな、ティム」


 グラスを掴もうとした手が震え、その拍子に倒れたグラスが硬質な音を立てる。

 希少なモンスターの毛を編んで作られた高級なカーペットを零れ落ちたワインが染め上げていくが、そんなものは商会長、ティムの目には入っていなかった。

 その視線は、いつの間にか窓辺に腰掛けていた黒髪の少女、レジーナに釘付けになっていたからだ。


「お前は……」

「よもや、名を忘れたなどと言うてくれるなよ。いや忘れておった方がよいのかもしれぬな。お主の記憶に名が刻まれることを我は望まぬ」


 まるで吸い込まれるような黒い瞳に魅入られたティムは息をするのさえ忘れていた。

 自らの心臓の鼓動が、今までにないほどの速度で打つ音を感じながら、これが悪い夢であることを彼は願った。

 そして一刻も早く目覚めることを。


 そんな願いに反して、窓から降りたレジーナはつかつかとティムの元へ近づく。

 その小さな足音が、ティムには死神のもののように聞こえていた。


「別にお主を探していた訳ではないのじゃが、まあ見つけてしまったからには復讐くらいしておいてやらねば、と思ってのぅ」


 レジーナの小さな手が、ゆっくりとティムの頭に伸ばされる。

 ゆっくりと近づく小さな手に視界を奪われていくティムは、ブルブルと唇を震わせながら、なんとか言葉を吐き出す。


「死んだはずだ」

「それは違うな。お主らが殺したのじゃよ」

「ならばお前はなんなのだ! 死体が動くはずがない。そんなこと、昔話の……まさか!?」


 レジーナの手を払いのけようとしたティムだったが、その体は自らの意思に反するようにピクリとも動かなかった。

 恐怖に完全に染まりながら、唯一動く首から上を必死にそらして逃げようとするティムの滑稽な姿にレジーナが薄ら笑う。


「レジーナにしたように、今まで散々お主は人を食い物にしてきたのじゃろう? 今度はお主が食われる番になった、それだけのことじゃよ」

「ま、おう……」


 レジーナに頭を触れられた瞬間、ティムの顔面は青白く染まり、その心臓は鼓動を止めた。

 主を失ったその部屋にしばしレジーナは佇み、棚に並んだワイングラスを1つ取り出すとそこにワインを注ぐ。

 グラスを揺らし、その香りを楽しんだ彼女は、わずかにワインを口に含むと嬉しそうに頬を緩めた。


「手間賃としては十分じゃな。さて、あと3人、いやローザと面識があるのは2人じゃな。まあどちらでもよいか」


 ティムから奪った記憶を探りながらテーブルに残された薄紫の小石を拾い、ワインを片手にレジーナは窓の外に出る。

 風がレジーナの黒髪を揺らし、月明かりを反射させた。


「これ以上、このことでローザの顔を曇らす必要はないしのぅ。まあ暇つぶしがてら、処分しておいてやるわい」


 そう言い残し、ティムには一べつもくれずにレジーナは窓から外に出てその姿を消した。


 最近勢いのあったテルン商会の商会長であるティムの急死は、商人界隈で一時話題になったが、今はそれどころではないと塗り替えられていった。

 そして時と共にその話は風化していき、主を失ったその商会は勢いをなくしていき、やがてはその名さえ忘れ去られたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

よろしければお願いいたします。

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