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姫と魔王と守護の龍  作者: ジルコ
第1章 終わった世界から始まる物語

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第15話 いつか帰る場所

「ふむ、まあこんなもんじゃろう」

「えっと、レジーナは器用だね」

「まあ長い間生きておると、色々身に着くもんじゃ」


 ふぅー、と長い息を吐いて体をほぐすように揺らしたレジーナの目の前に出来上がった漆黒の全身鎧を眺め、女が感嘆の声をもらす。

 それは洞窟にあった紫の石を集めて、レジーナが魔法で加工したものだった。

 その反応に少し気を良くしながら、レジーナはその鎧がイメージ通りに出来上がっているのか最終確認を行う。


 レジーナの魔力によって染め上げられたその漆黒の鎧はなめらかな曲線を描き、肘や膝などの可動部はパーツをいくつも重ねることで動きを阻害することがないように工夫されている。

 わずかな歪みさえないその造形は、超一流の鍛冶師が作ったのかと見まがうほどであった。


「長い間って……どのくらい?」

「お主からしてみればおとぎ話の時代じゃよ。それではいくぞ、ローザ」

「いや、えーっと。私はそれをウィルが着るのを待ってるよ」


 先ほど見たなにかを思い出したのか、赤い顔をしながらぶんぶんと首を振る女、ローザの姿に少し笑いながら、レジーナは「それなら」と告げて森を歩いていく。

 魔法によって浮かんだ鎧を連れながらレジーナは森を進んでいき、その先にあった小川で体を清めているウィルに近づいていった。


 ウィルはその鍛え上げられた肉体を小川に浸し、全身をくまなく洗っていた。その理想的な肉体と精悍な顔を水で濡らし、静かに小川を見つめている。

 光を反射する水滴と周囲の森が合わさったその光景は神秘的であり、さながら1枚の絵画のようでもあった。


「ほれ、ウィルの鎧じゃ。昔の物を参考にしてみたんじゃが」

「ああ」

「お主は、本当に……感謝の言葉くらいあってもいいと思うがのぅ」


 不満そうに頬をふくらませるその姿は年相応で幼く見える。

 しかしその見た目が本当に見た目だけであることを知っているウィルは、無視という形でぞんざいに扱うと、小川からあがりその身に残る水滴を手で落としていった。

 レジーナは近くの岩に腰を下ろし、頬杖をつきながらその姿を眺める。


「……なんだ?」

「いや、久々のウィルのその姿を眺めておっただけじゃよ。相変わらず見事な体じゃの」

「仮初めの肉体だ。そこに意味などない」


 ウィルは髪の毛を後ろに撫でつけ、オールバック気味にして水を切る。ぽたぽたと落ちていく水が足元の小石を濡らしていった。


「意味を見出すのは他人じゃ。まあ見てくれが良ければ得をすることは多い。その分トラブルに巻き込まれる可能性も高まるがのぅ」


 どこか実感の伴ったレジーナの言葉を聞き流しながら、ウィルは体が綺麗になっていることを確認すると、用意された鎧を身に着けていく。

 本来であれば素肌に全身鎧を着るなど危険であり、怪我防止のためにも鎧下を身に着けるのが一般的だ。

 だがただの人ではないウィルにはそれは当てはまらない。迷いなく全身鎧を身に着けると、その漆黒の鎧の動きを確かめていく。


「さながら漆黒の騎士というところかのぅ。動きにくい箇所があれば修正するが?」

「いや、いい」


 レジーナの造った全身鎧は、まるで測ったかのようにウィルの体にフィットしていた。

 この鎧であれば違和感を覚えることなく十全の力をふるうことができるだろう。そう思えるほどにレジーナの仕事は完璧だった。

 ウィルは顔を上げ、自分を見つめ続けるレジーナに視線を向ける。


「お前はこれからどうするつもりだ?」

「我の目的は昔から変わらぬ。そして、これからも変えるつもりはない。まあ寄り道、暇つぶし程度はするじゃろうがな。そういうウィルこそどうするつもりじゃ。いつまでローザに付き合う?」

「ローザには恩がある。そして償いもすべきだと考えている。彼女が望むのであればその死を看取るまで付き合うつもりだ。俺からすれば、人の生など、ほんの僅かな時間に過ぎないからな」

「僅かな時間か。まあいい。しかし、まるでプロポーズのようじゃな」


 少しつまらなそうに呟いたレジーナは、さっと立ち上がるとそれ以上何も言わずにローザの待つ洞窟に向かって歩き出す。

 その小さな背中を追って、ウィルもゆっくりと歩き始めたのだった。


 2人が洞窟に戻ると、そこには小さな石の前で両手を合わせて祈っているローザがいた。

 片膝をついて目を閉じた姿勢で彼女は微動だにせず、2人がかなり近くに寄ってやっと足音に気づく。


「誰かの墓か?」

「うん。私を助けて死んじゃったレミ母さんの骨が少しだけ残っていたから埋めておいたんだ。他は動物たちが持って行っちゃったのかも。でもきっと母さんなら、死んだ後のことなんでどうでもいいんだよって言いそうだよね」


 顔を上げたローザはうるんだ眼をごしごしとこすり、ぎこちなく笑みを浮かべる。

 その姿だけで彼女にとってレミがどれだけ大きな存在だったのかわかった。

 レジーナとウィルはわずかに顔を見合わせ、そしてローザの隣に並ぶと同じように膝をつく。


「レミ。短き人の生の中で長年俺に仕え感謝する。そして最後まで子を守ろうとしたその姿、見事であった。貴殿の魂が安らかな眠りにつかんことを」

「思いはレジーナに継がれた。あなたが愛し、育てたこの体、大切に使わせてもらうからのぅ」


 2人の言葉を聞き、ローザの瞳からぽたりと涙が零れ落ちる。

 我慢しきれず、くしゃくしゃになった顔のままローザはレミに語り掛ける。


「ありがとう、レミ母さん。私、母さんに会えて本当に良かった。母さんが母さんでよかった。大好きだよ」


 穏やかな春風がローザの金髪を揺らしていく。

 それは幼き日、泣きじゃくるレジーナを優しく抱きしめてくれたレミの温かさを感じさせるものだった。





「ふむ、こんなもんじゃろう」

「うむ。こんなものだな」

「いや、これはどうかと思うよ。母さんがびっくりしてそう」


 ローザが落ち着きを取り戻し、レミとの別れを告げて去ろうとしたところでレジーナがちゃんとしたお墓を作ろうと言い出し、それをローザも了承した。

 了承はしたのだが、その出来上がったものはローザの予想を軽く超えるものだった。


 魔法で作られた高さ3メートル、横幅2メートルほどの巨大な墓石には、『偉大なる母 レミ ここに眠る』と書かれており、その周囲の地面はまるで大理石のようにつるつるの石で固められている。

 明らかに庶民の墓からは逸脱しており、レジーナとウィルは満足げで、逆にローザのほうが戸惑っていた。


「目立つ方がいいじゃろ。また墓参りするときに草を取るのも面倒だしのぅ」

「またって……」

「何度でも来るといい。きっと彼女もそれを望んでいる」

「そっか、そうだね」


 2人の言葉を受け、ローザが歯を見せて笑う。

 たしかに勇者候補生の死亡率はかなり高い。だが確実に死ぬというわけではないのだ。

 また3人でレミのお墓参りにこよう。そう決めたローザは、晴れやかな顔でレミに告げる。


「じゃあ、行ってきます。レミ母さん!」


 そう言い残して、ローザはレミに別れを告げて歩き出したのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

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