異常なんて言われても
エリザヴェータの懸念は概ね的中していた。アンゼリカを、外国人にも拘らず妖精の贈り物を受けた皇太子妃を、利用しようと他国が動き始めていた。
皇妃カサンドラの母国ラエルや、南方連合の国々。または西方の大商人たち。彼らはアンゼリカに接近して様々な便宜や贈答を持ち掛けた。ここ最近アンゼリカの部屋は、客や贈り物が引きも切らない有様だ。
尚、危ないものは全てソフィアが遮断している。けれどやめさせようとはしていない。ヴァイスにとっても、この状況で他国使節がどういう行動を起こすか、観察し分析することは有用だからだ。各国の思惑や方針を見定める判断材料になりうる。
いわばアンゼリカを餌に様子見している状態だった。本人はそんなことに気づかず、贈り物や交友を無邪気に喜んでいたが。
「こちら、フローラスの伯爵から頂いた薔薇入りの茶葉なんです。私がこの縁談を持ち掛けられた時、父がお土産に持ってきたものと同じです!だから何だか懐かしくて……ほら、こんなに綺麗な茶器もつけてくださったんですよ!」
アンゼリカは全く頓着せず、にこにこと紹介する。ルイーゼは殆ど耳に入っていない様子だったが、やがて小さく呟いた。
「……私の国も、茶の文化が栄えていたわ」
「そうなんですね!確かに、東方のお茶は有名ですしね。私も聞いたことがあります」
ラスフィードは地理的事情から、そこまで貿易が盛んではなかった。それでも海に接しているため、人や物の流入はそこそこ多かった。商人から話を聞く機会もあった。東方帝国の茶と言えば、その名も高き高級品である。
「まあ、それはともかく!あ、お湯ありがとうございます」
お湯を持ってきた侍女に礼を言って、アンゼリカはいそいそと茶器を取り出した。深い青と金で彩色されたそれは、僅かな明りを宿して星のように輝く。
フローラスの工芸は、圧倒的な美で織りなされる芸術品だ。衰えたりと言えども、絢爛華麗な文化の発生地である。こういった工芸品の緻密さに美しさ、何より伝統の重みは他の追随を許さないものがある。それをアンゼリカは、数か月前に体感していた。
「フローラスでのお食事も、綺麗な食器が沢山使われていたんですよ!あそこは本当に華やかで、見るもの聞くもの珍しくて……」
「どうして」
突然ルイーゼの声が罅割れた。
「貴女だって、生贄として嫁いできたのでしょう。ラスフィードもフローラスも、貴女を見捨てて保身を図ろうとしたのよ。この皇城はひたすら冷たく惨い、氷の監獄。それなのに、どうして変わらないの?壊れないの?」
「え……?その……」
正直、何を言われているのか分からなかった。当惑するアンゼリカに、皇妃は吐き捨てた。
「貴女、異常だわ」




