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アンゼリカの充実した日々

「えーっと次はこれをあっちに持って行って……」

 アンゼリカはその日も、荷物を持って動き回っていた。最近は獣舎の手伝いを言いつけられることが多く、飼料を運んだり朝早くから清掃をするのが日課となっていた。


「きゅううっ」

「フィアールカ、今からこっち掃除するから。お友達と遊んでおいで~」


 体力的な問題は、アンゼリカにとって無きに等しい。故郷では、もっと重いものを担いで駆け回ったり、坂道を往復することもよくあった。ここでは氷の力を借りられる分ずっと楽だし、割と楽しい。どんな風に滑れば効率が良いか、考えて試すのはわくわくする。


 フィアールカと手押し車をお供に動き回る日常にも、すっかり馴染んでいた。お陰で皇城の地図も、結構頭に入ったように思う。

 精神的な負荷は、そもそも悪意に鈍いためあまりダメージを受けていない。そんなアンゼリカにとって、皇城暮らしは恐れていたほど辛いものではなかった。色々噂を聞いていたから、どんな目に遭わされるかと思ったが……今のところ衣食住は充分だし、みんな優しい。異国の文化も面白い。客観的な諸々はおいておいて、アンゼリカの主観だけで言えば、かなり充実した日々である。



「ルイーゼ様、失礼します!」

「…………」

 返事がないのはいつものことだ。意気揚々と声掛けして中に入ったアンゼリカだが、床に硬い何かが置いてあって、危うく蹴りそうになった。


 薄暗い中に香が漂い、色々なものが置いてある。そこは以前と同じだ。だが、それぞれの配置に違和感を覚えた。ぱちぱちと瞬きを繰り返し、やっと違和感の正体に気づく。


「……あれ?前と物の配置が違うような。ルイーゼ様、模様替えなさいました……?」

 ぼんやりと虚空を見ていたルイーゼーー皇妃カサンドラが、鈍い動きで振り返った。

「あ、ええ……虫干しの関係で、少し動かす必要ができたの。侍女がうるさくて」

「そうだったんですね!ところで、これは何ですか?」


 アンゼリカは足元の謎の物体を見下ろす。見たところ鍋のような質感だが、用途が良く分からない。

「ここでは使う意味のないものよ。気にする必要はないわ」

「そうですか……」


 その答えは気になったが、いつもよりも調子が良さそうだと感じて、アンゼリカは早速お土産を引っ張り出した。

「ルイーゼ様!こんなものを持って来たんですが、良ければ一緒にお茶しませんか?」

 それは美しく装飾された、茶葉入りの小箱だった。ずいと差し出すと、受け取られた気配がした。短い沈黙の後、ルイーゼは呟いた。


「……これは……フローラスの?」

「はい、最近は色々な方が話しかけて下さるようになりました!お話の内容はちょっと良く分からないんですけど……」


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