森の仲間たちの思い出
話がひと段落してから、ベイルリスが何か合図のようなものを侍女に送る。アンゼリカはそれを目で追った。すぐに侍女が数人やって来て、机の上の整理を始める。
「……アンゼリカ姫は、急に決まった縁談で嫁いできたんだろう?いきなりああいう義父ができて、恐ろしくはないのかな。それでなくても、皇城に出入りする者たちはヴァルラスの勘気をいっとう恐れるものだけど」
「いえ、私はそういう風には思っていません。昨日のことはむしろ、皇后陛下や皇城のことを色々教えてもらえて嬉しかったです!特に皇后陛下のことは、私が直接知りようのないことですし」
更に進み出た侍女たちが、お茶の支度をしてくれた。そこでアンゼリカもやっと察した。休憩にしようということだ。勉強もひと段落したところだし、ありがたく頂くことにする。
(こういう合図とかも、ちゃんとできるようにならないとなあ……)
それはそうと、温かい飲み物が美味しい季節になってきた。ふわりと広がる湯気を目で追いながら、アンゼリカは懐かしい気持ちになる。近寄ってきたフィアールカにお菓子の欠片をあげた。
「……確かに最初の頃は、陛下の噂を聞いて緊張していました。でもいつの間にか恐怖が消えていたというか……いざ陛下御自身と会ってみると、然程恐ろしいとも思いませんでした」
きっと故郷の記憶と響き合うからだろう。アンゼリカはお茶を一口含み、にこにこと笑った。
「陛下は故郷にいたラー君という友達に似ていて……見ているとその子を思い出すんですよね……」
「ラー君?ヴァルラスみたいな人間がそうそういると思えないけど……それはどんな人間だったの?」
「いえ、人間じゃなくてヒグマの男の子です」
休憩がてら故郷のことを話して聞かせると、ベイルリスは沈黙し、それから大笑いした。
「すごいねアンゼリカ姫は。ヴァルラスにそんな感想持った人間見たことがない!」
「え、そうですか?でもここの方々、私から見て親しみやすい人が多くて……故郷の友達を連想するので、怖いとかより懐かしくなるんですよね!」
大陸南端の小国と北端の大国。共通点の方が少ないくらいなのに、不思議なものである。アンゼリカはそれからも、聞かれるがまま故郷のことを話して聞かせた。物凄く受けた。
「エリザヴェータ様はフェンツェさんにそっくりですし、リュドミラ様とアレクサンドラ様は、まだよく知らないのですけど。第一印象で、栗鼠のモカちゃんと鴉のサーシャ君が似ているなあと思って……」
「あはは!ヒグマに孔雀に栗鼠に鴉?面白い皇家もあったものだねえ!じゃあユーリスは?」
「……うーん……それはちょっと分かりません」
首を捻った。ユーリスと重なる子は、今のところ思いつかない。夫で、会ったのは一番早かったにもかかわらずである。アンゼリカにとって一番内面が測りかねるというか、感情の動きが分からない。初対面からずっとそうだった。




