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火山の噴火と徒労

 アンゼリカは昨日のことを思い出す。昨日も彼女はエリザヴェータの言いつけで、城中を走り回っていた。その途中の、昼頃のことだった。

 幅の広い廊下に、高窓からさんさんと光が差し込んでいた。回廊の奥まったところに、小上がりの空間があり、その壁際に見覚えのない肖像画が飾られていた。偶然通りがかったアンゼリカは、それに気を取られて、つい足を止めてしまった。


 回廊と地続きというより、扉のない小部屋と言った感じの場所で、直射日光を遮る構造だった。隅には優雅な彫刻の卓が置かれ、香炉からいい香りが漂っている。

 アンゼリカの身長くらいの大きさがある。恐らく等身大か、それに近い寸法だろう。金髪の美女が描かれており、エリザヴェータに生き写しの姿からそれが亡きペネロペ皇后だということも分かった。

 アンゼリカは覚えのないそれに、足を止めた。不自然に隙間が開いているので、何のための空間なのかと気になっていたが、その肖像画によって疑問は氷解した。


(なるほど……)

 ここは、本来この絵を飾るための空間だったのだろう。アンゼリカは得心し、もっとよく見ようと近づいた。

 後から知ったことだが、点検のため工房に出していた肖像画が戻って来たとのことだった。アンゼリカにとっては、ヴァイスに来て初の皇后との対面だった。


「…………」

 壁にかけられたその絵の前で、アンゼリカは立ち止まった。エリザヴェータにそっくりなたおやかな美貌に、慈母の微笑を浮かべる皇后。その麗姿をまじまじと見つめた。見つめてしまった。「皇后陛下肖像画御前では目を伏せ、息を止め、可能な限り速やかに通り過ぎるべし」という不文律を、不幸にしてアンゼリカは知らなかった。


「貴様にあの香が解ると言うのか!!!」

 絵画鑑賞していたら、いきなり後ろから怒鳴りつけられた。同時に飛んできた杖を、すんでのところで回避する。炎帝は肩を怒らせ、壮絶な眼光で歩み寄ってきた。これも後から聞いたことだが、肖像画が戻ってきたと知らせを受けて、その確認のために炎帝は足を運んだらしい。


「白薔薇の午睡は彼女の残り香だ!彼女の名残をこの世に結び付ける縁だ!貴様如きにその崇高さが分かるとでもいうのか!?」

「えっラー君?今度はどうしたんですか!?」

「黙れこの盗人があああああ!!」

「えっ盗人!?」


 驚愕するアンゼリカに構うでもなく、炎帝は怒鳴り散らす。まさに火山の噴火のような勢いだった。矢継ぎ早に飛んでくる杖の攻撃をアンゼリカは紙一重で交わし、何とか意思疎通をと試みた。徒労に終わった。


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