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妖精の意向

 皇帝ですら、いや皇帝だからこそ、妖精の意向を無視することはできない。何か異変があれば、即座に注進される。

 妖精の魔法と守護、彼らが齎す資源。何より妖精氷河。これらがヴァイスと言う国の基盤であり、社会のほぼ全てはこの上で成り立っている。これが崩れてはヴァイスという帝国は崩壊するのだ。ゼルナドの後継者、妖精の盟友——皇帝が代々名乗るこれらの称号からも分かる通り、妖精の意向を無視することは、即ち王権の否定を意味する。それは王朝にとって命取りとなる。

 妖精がアンゼリカを気に入ったというなら、皇家はそれを尊重するしかないのだ。


「貴族たちも混乱しているようです。無理からぬことですわ。このようなこと、前例がありませんもの」

 炎帝は粗暴だが、暗愚ではない。すぐに娘の言わんとするところを諒解した。

「妖精郷への問い合わせを望むということか?」

「ええ、その通りです。陛下の御威光を以て、この先あるべき指針を仰ぎとうございます」


 妖精郷と直接やり取りできるのは、皇帝だけに許された特権だ。炎帝としても断る理由はなく、顰め面で頷いて受諾を示す。

「それから……カサンドラとのご関係は、その後お変わりありませんかしら?」

「…………」

 茶器の罅割れる音が小さく、だが確かに響いた。扇の奥で、エリザヴェータは愉快気に目を細める。

「何故それを聞く」

「件の皇太子妃が、カサンドラと交友を持っているのですもの。下手をすれば南方連合のみならず、ラエルの増長をも招きかねません。その点留意して頂ければと思いまして」

「……良かろう。カサンドラや大使には、私から言い聞かせておく。だが皇城内の秩序は貴様が整えよ」

「心得ておりますわ。……ああ、安心致しましたわ」

 エリザヴェータは美しく頬を染め、ご満悦といった様子で笑う。

「ヴァイスの国母はただひとり、お母様だけですもの。カサンドラなど、その端切れにも値しない」

「……あれとの結婚を勧めたのは貴様であったと記憶しているが」

「あくまで政治的な観点からです。ラエルから誇りをはぎ取るために必要だったのですもの。あのようなものをお父様に押し付けてしまったことは、心苦しく思っておりますわ」


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