宮廷を散歩してみたら…
翌朝アンゼリカは、着替えもそこそこに散歩に出かけた。何だかじっとしていられず、体を動かしたかったのだ。輝月殿の庭には、まだ草花が咲いていた。南国の庭のような華やぎや量はないが、計算された配置のためか侘しい感じはない。冬の冷気に竦んでいるようにも、待ちわびているようにも見える。
庭の片隅に階段を見つけて、何となく足をかけた。
一段ずつ、長い階段を昇っていく。中々いい運動になりそうだと思った。暫くして、小さな踊り場に出た。その先には更に下り階段があって、全体で優雅な半円を描いているようだ。左手の壁には扉がついており、ここから建物内に入れるようだ。それを確認してから反転し、景色を視界に収めた。
輝月殿は元々、立地からして他より少し高いところにある。だから眺望は見事だ。視界を埋め尽くすような城の建物群。少し城下も見える。
高所からの眺めは、少し、故郷にいた頃を思い出させた。それに少しほっとして、気が緩む。風はやたらめったら冷たいけど。
(……あれ?)
何気なく下を見たアンゼリカは瞠目した。何か、視界の端で光った気がした。アンゼリカは目を凝らそうと、気を付けて前のめりになる。
「アンゼリカ姫!」
「え?」
いきなり背後の扉が開いて、びっくりした。驚いたところ、後ろから肩を掴まれる。
「……ユーリス様?」
上を向くと、見知った顔が目に入る。相変わらず怜悧で綺麗で、そして感情の読みにくい顔が、今は微妙に強張っているように見える。手首を掴んだまま、彼らしからぬ早口でまくし立てた。
「どうか早まらないで下さい。昨夜は私も言い過ぎました。話し合いましょう。婚礼を終えた以上、何事も責任は二人で負うべきです」
「は?え、あの……何ですか?」
話についていけず、アンゼリカは瞬きを繰り返す。一体この人は何を言っているのだろう。
「……いえ、その、ここで何をなさっていたいのですか?」
「散歩していたら階段を見つけたから、上ってみたんですけれど……」
アンゼリカは首を傾げた。
「一体どうしたんですか?そんなに慌てて……」
「…………」
……かつて皇妃の一人がここから身投げしようとしたからですとはとても言えない。ユーリスは微妙に目を逸らす。
「いえ……お元気なら良いのです。ここは御覧の通り手すりがありませんから、転落の危険があります。冬場は特に。姫にはあまり近づいてほしくない場所でして」
「はい、元気です!心配して下さったんですね。ありがとうございます」
アンゼリカはぺこりと頭を下げた。やはり自分は恵まれていると、巡り合せの幸運をかみしめた。
舞踏会直後はさすがに落ち込んだが、一晩明けたら気分も持ち直した。今のアンゼリカの頭にあるのは、「どうすれば挽回できそうか」ということである。
「昨日からずっと考えていたんですが……やはり私は、ヴァイスのことを知らなすぎるのだと思います。もっと勉強したいので、教えて欲しいです!」




