エリザヴェータとカサンドラの過去
「美しい庭を維持するために、草木を蝕む虫は駆除しなければ――他ならぬあの女が、かつて言ったことなのよ。その論理なら、わたくしがあれを排斥するのも正当とされて然るべきよね」
十年前、ラエル王国に嫁いだエリザヴェータは王を篭絡し、国政を思いのままに操った。その結果ラエルは敗北し、ヴァイスの支配に屈した。
エリザヴェータは嫁ぎ先では傾国、毒婦と罵られたが、母国ヴァイスでは英雄扱いだった。東方戦線の勝利に大きく貢献し、強い発言権を得た彼女は、炎帝に王女ルイーゼとの結婚を勧めた。
かくして、義理の母娘は逆転した。エリザヴェータは皇妃に差し出された彼女を貶め、揶揄し、侮辱と嘲弄の限りを尽くして、部屋から出てこれなくなるまで追い込んだ。
以上がカサンドラとエリザヴェータの経緯であり、皇城では語るも憚る特大の爆弾だったわけだが――アンゼリカがあっさりそれに触れてしまったことで、均衡は崩れた。
「疲れてしまったわ。椅子を借りるわね」
エリザヴェータはそう呟き、皇太子席の隣の椅子を占領した。席次を完全に無視した振る舞いだった。ユーリスの隣は本来、アンゼリカが座るべき場所だ。だが扇越しに下を睥睨するエリザヴェータの居住まいには、有無を言わせぬ迫力があった。
それに、遅れてやって来たユーリスは唖然とした顔を見せた。そして事情を知ると丁重に詫びを述べ、宥めて、何とか元の席に戻らせた。




