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エリザヴェータの殺気

 そしてその数時間後、アンゼリカは舞踏場で立ち尽くしていた。


 そこは白銀舞踏場と呼ばれ、皇城に数ある舞踏場でも随一の格式と絢爛さを誇る場所だった。他のホールと比較して、二回り以上大きい。

 床面積の大部分を占めるのは、巨大な円形の氷だが、それを取り巻くように普通の床も一部ある。そこは階段や観覧席に繋がっており、休憩や社交の場になっているようだった。何人かグラスを持った貴族の姿が見える。それはどことなく、フローラスで訪れた歌劇座を思い出させる眺めだった。


 そして、それらの周りを取り囲んで、大理石の壁と柱が天高く伸びている。磨き抜かれた石の滑らかな光沢と、そこに彫り込まれた複雑な文様が、幻想的な光にゆらゆらと浮かび上がる。氷と相反する人工的な豪華さが何とも不釣り合いだが、そこには不思議な魅力と壮麗さがあった。

 光源は天井から下がる巨大なシャンデリアだ。それはフローラスで見たものとは異なり、モロゾロクの角を何本も組み合わせ、交差させた独特の形だった。モロゾロクは一年に一度角が生え変わり、抜け落ちた角はこんな風に再利用されるとのこと。そこからまるで氷柱のように、水晶の雫が幾つも垂れ下がっている。これらが光を反射し、拡散して、幻想的な光を投げかけていた。その光の中で、着飾った男女が氷の上を滑り、踊っている。


 その氷の美しさときたら。磨き抜かれた銀盤のような、鏡面のような。星屑のような灯りが瞬き、まるで月の上を滑っているかのようだ。非現実的なほどに華麗で、荘厳で、ため息の出るような神秘的な光景だった。初見でこれに驚嘆しない者はいないだろう。

 だがアンゼリカは、それに見とれているどころではなかった。


 森で培った危機感が大音量で警鐘を鳴らす。今下手な動きをしたら死ぬと。誇張ではない、本当に死ぬ。

(ああこれは、本当にすっごく途轍もなく不機嫌な時のフェンツェさんばりの殺気……!いつ暴れ出してもおかしくない……!)


 アンゼリカに死の恐怖を感じさせているのは、彼女を睨むエリザヴェータの姿だった。全身から凄まじい殺気を溢れさせている。さすがは炎帝の娘と思わせる、壮絶なまでの存在感、威圧感だ。彼女が一歩踏み出せば、大理石の床が割れるのではないかと思わせるほどだった。


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