妖精の祝福
結局首飾りをつけたまま、アンゼリカはすごすご退出した。これから、舞踏会に向けて着替えることになっている。部屋に戻ろうと廊下を歩きだした時、覚えのある声がかけられた。
「おや、アンゼリカ姫」
「あ、ベイルリス様」
アンゼリカは紫髪の妖精を見て、軽く会釈する。初対面からそんなに時間は経ってないのだが、どうしてか、久しぶりに会う気がする。
「こんなところでどうしたんだい。しかも、そんな恰好で」
「ルイーゼ様……カサンドラ皇妃のお部屋から帰るところなんです。これから舞踏会の準備をするんですが……」
「そう。それで、その首飾りは?時代と場所によっては国宝とも呼ばれそうな品じゃないか」
「……さっき預かったんです。カサンドラ皇妃の母国のものだそうです。どうしてもこれをつけて欲しいと言われて……」
「ああ、だろうね。ラエルは宝石の産地だったから。しかし、よりによって金剛石と紫水晶か……」
アンゼリカから一部始終を聞いて、ベイルリスは笑った。何とも愉快そうだった。
「へえ……」
そのまま妖精は身を屈めて、アンゼリカの額に……というより前髪に、唇を寄せた。
彼我の距離が近づく。互いの呼吸に合わせて、アンゼリカの顔に、髪に、肩に、鱗粉が降り注ぐ。それは大勢の人間が、大枚を叩いてでも欲しいと望む恩恵だった。
それは、紛れもない妖精の祝福だった。しかしそんな裏事情を知らないアンゼリカは、ただぽかんとなっただけだった。
「……あ、の……何ですか?」
距離を離した妖精は、口元を隠して「ふふ」と含み笑った。
「無事行けるよう、おまじないだよ。気を付けてね」
そのまま、妖精はさっさと立ち去ってしまう。後には、ぽかんとしたままのアンゼリカが残された。




