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カサンドラの首飾り

「エリザヴェータ様のお言葉にも、一理あります。氷冠聖舞を完璧に舞うこと。その条件を満たさない限りは決して、ヴァイスで本当に受け入れられることはありません。少しずつ頑張っていきましょうね」

 折に触れて、ソフィアはそう言い聞かせた。それこそが皇女たちの最大の武器であり、外国人にとっての最大の障壁であるのだ。

「最近は安定感が出てきましたね。少しずつ、簡単な技の練習も始めてみましょうか」

「はい!頑張ります!」


 それから、ソフィアとの特訓を増やすことになった。正直これは嬉しかった。座学よりもずっと心が浮き立つ。

 更に時間の隙間を縫って、カサンドラの様子を見に行くようにしていた。その日も空き時間ができたのを幸い、その部屋に直行し、声を張り上げた。

「こんにちは、ルイーゼ様!」

 エリザヴェータの使い走りと並行して、カサンドラとの交流も再開したのだ。毎日は難しいが、数日に一度、様子見に行くようにしている。


「…………」

 今日は話したくない気分のようで、相手はだんまりだった。それでも追い出されないのを良いことに、アンゼリカは話したいことを話す。

「ここに来る途中で、樹木に花がついているのを見たんです。名前は分からないけど、小さくて甘い香りの、かわいらしい花でした。皇城はすごいですね!こんなに寒、いえ涼しいのに、花が咲くんですから!」

 その流れで、ソフィアとの特訓のことも話した。

「今夜は氷上舞踏会があって、私も参加することになってます。とても華やかなものだそうです。私はダンスは良く分からないので、最近は特訓したりして……」


「舞踏会」

 反応があった。アンゼリカは口を噤んで、続きがあるかと待った。

「…………舞踏会へ、行くの?」

「はい!」

「……………………」

 アンゼリカ姫、と呼ばれた。その声はどこか、いつもと違うものを秘めているように思えた。

「………………私の命を、本当に思いやって下さる?私が生きることを、あなたは願って下さる?」

「はい、もちろんですよ!私にできることなら何でもしますから、どうぞ頼って下さい」

「……ではこれをつけて、その舞踏会に行って頂戴」


 ルイーゼは一度部屋の奥に引っ込み、宝石箱を持って出てきた。

 促されて蓋を開くと、見事な金剛石の首飾りが現れる。大粒の金剛石をメインに、周りには紫水晶が配されている。その一つ一つの素晴らしさときたら、薄暗い中でもきらきらと輝くほどだった。宝石に詳しくないアンゼリカでも分かる、紛れもない最高級品であった。


「これは……素晴らしいお品ですね!」

「……私がつけてあげるわ。ほら、傍に来て。何なら差し上げるから持って行って」

「え!?いえ、だめです!こんな高そうなものを頂くなんて……!」

「私が良いと言っているのよ。何でもしてくれるというのは嘘だったの……?」

「いえ、それは嘘ではないですけど……!」

 アンゼリカはどう説得したものかと頭を悩ませてる。そうしている内に、問答無用で首にかけられてしまった。


「…………お願いだから、どうかこのまま行ってね。そうでないと、私……死んでしまうわ」

 本当に、命尽きかけているような弱った、濁った声で、皇妃はそう懇願した。そうなっては、もうアンゼリカも何も言えなかった。


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