ソフィアの戸惑い
「……ということがあったんですよ!」
「ま、まあ……」
アンゼリカの報告に、ソフィアは戸惑った声を出す。いつも柔和な笑みを崩さないソフィアだが、若干笑顔が強張っていた。
余所者の皇太子妃よりも、エリザヴェータの方が圧倒的に優秀で素晴らしいという噂が駆け巡っているから、何事かと思えば。その場にいられなかったことが悔やまれた。
「アンゼリカ殿下……エリザヴェータ様の元へ行く時に、やはりわたくしも連れて行って下さいませんか?」
「これは、フィアールカがかけたご迷惑を清算するために始めたことです。それに友人同伴なんて、子どもじゃないんですから。そんな姿勢では謝罪になりません!留守を守って下さるだけで十分ですから!」
それは正論なのだが。やはり、皇城の機微を何も知らないアンゼリカを野放しにするのは危なっかしい。ソフィアはどうも心配になって来た。
「でも……まだヴァイス語に不慣れでしょう?誤解を生まないためにも、通訳としてわたくしがいた方が」
「エリザヴェータ様のところではいつもフロレ語です!エリザヴェータ様も常々気遣って下さいますし!大丈夫ですよ!」
それは途方もなくずれているのだが、そう笑顔で断言されてしまうと反論しづらい。ソフィア自身、この人は大丈夫かもしれないと思ったから、隔離とは違う方向で支えようと思ったのだ。
だが、このままではまずい。とてもまずい。おもむろに咳払いをした。その裏では今後の方針について、目まぐるしく考えていた。
ソフィアは短く懊悩してから、ぱっと顔を上げた。
「アンゼリカ殿下の御心は分かりました。……では、より早くお許しを頂くために、立ち居振る舞いの訓練を更に強化しましょう!最終目標は氷冠聖舞、これを目指して積み重ねていきましょう!」
「はい、お願いします!塵も積もれば山となる、ですね!」
氷上舞は奥深い芸術文化だ。一朝一夕で習得できるものではない。まして、幼い頃から修練を積んでいる貴婦人たちに認められるのは並大抵のことではない。だからまず、基礎の基礎から固めていく。
「早速ですが……十日後に舞踏会があるのはご存じですよね?」
「はい、もちろんです。最近準備もしてましたしね!」
楽しみですと笑うアンゼリカの手をソフィアは握り、じっと目を見つめた。
「……次は氷上舞踏会ですから、これまでのものよりも格式は高く、ある意味特別です。その時までに、作法と立ち居振る舞いを徹底的に浚いましょう!少しでもヴァイスに馴染んだと喧伝するのです!エリザヴェータ様のためにも!」
「そうですね……!私、もっと頑張ります!」
アンゼリカはあっさり乗せられた。
※2026年1月より更新を再開しました!
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アンゼリカ:ラスフィード王国の姫。割と能天気。北のヴァイス帝国に嫁入りすることに…
ユーリス: ヴァイス帝国の皇太子。アンゼリカの夫。
ソフィア:ロスニア辺境伯の妻。ユーリスの従姉妹。アンゼリカに好意的。
皇帝ヴァルラス三世: ヴァイス帝国の宗主。ユーリスの父。
カサンドラ:ヴァイス帝国の皇妃。
エリザヴェータ:ユーリスの姉。
リュドミラ:ユーリスの異母姉。なぜか喪服を着ている。
アレクサンドラ:ユーリスの異母姉。
ペネロペ:ヴァイス帝国の元皇妃(故人)。ユーリスとエリザベートの母。
ベイルリス:妖精族。樹氷の部族長の兄
ヴァイス帝国: 遥か北の荒野の覇者。氷と獣と妖精の国。
ラスフィード王国: 大陸南岸の漁業と造船で細々生きる海辺の小国。
フローラス: 古い歴史と格式を持つ宗主国。首都はファルツ。




