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アンゼリカ、遂に妖精と出会う

「ベイルリス……!部屋で待っていろと言ったはずだが」


 ユーリスはやや狼狽えた顔で、口早に咎める。しかしベイルリスと呼ばれた妖精は、気にした様子もなかった。


「だって、噂のアンゼリカ姫に会えるとなったら居ても立っても居られないよ。先日の謁見での大立ち回り、最近はどこもその話でもちきりなんだよ?」

「……にしては部屋に押しかけても来なかったな。君にしては大人しいと訝しんでいたんだが」

「君の妃、しかも外国から来たばかりだ。君の許可なく会うのも非礼だと思って我慢していたんだ。これも名付け子への気遣いだよ」

「気遣いは感謝するが、それならそれで段取りというものを考えてくれ。これがヴァイスでは普通なんだと思われたらどうする」


 アンゼリカは目を白黒させた。ヴァイス語に段々慣れてきたとはいえ、こうも早い応酬にはついていけない。


「えと……ユーリス、様……?」


 呼びかけは、少し躊躇いがちになった。ユーリスがはっとしたように振り返り、「失礼しました」と詫びる。そしてそのまま、妖精を示して紹介に移った。


「彼はベイルリス……妖精族の者です。城の客分というか、大使のようなものです。そして、我々の名付け親でもあります」



 ヴァイス皇家は、新生児の名付けを妖精に託す慣習がある。妖精もまた、皇子皇女の誕生を祝福して贈り物をする。そうすることで人と妖精の繋がりを強め、次世代へ伝えていくのだという。その責任者となる妖精は、外交官も兼ねて皇城に滞在する。それがベイルリスであった。


 ユーリスたち兄弟姉妹の名前も、多くがベイルリスによってつけられたものだそうだ。だからこの妖精は、見かけはユーリスと同年代にしか見えないが、実際は炎帝よりも年上なんだとか。アンゼリカは唖然としながらそれを聞いていた。


 更に度肝を抜かれることに、次世代の名付けもその職務の一環らしく、

「いやはや、あんなに小さかったユーリスが結婚なんてねえ。それもこんな可愛らしい花嫁を連れてきて!君たちの子が生まれるのが今から待ち遠しいよ。名前案も祝い品の目録も、もうこんなに考えたんだよ?」


 浮き浮きした声でそう言う妖精の手には、何本もの巻物が携えられていた。目隠しの下に見える顔は、それはもうにこにこと笑っている。とても好意的なのは感じるが、会っていきなりの畳み掛けにぽかんとしてしまった。


「そういうことを言うな、ベイルリス。姫の負担になるし、失礼だろう」

「そうかい?別に大袈裟なことではないと思うけれど。妖精の名付けや贈り物は、大体みんな欲しがるし」

「姫は妖精ではないし、ヴァイス人でもない。それにまだ正式に結婚していない」


 ユーリスは頭が痛そうに顔をしかめた。そして深々とため息をついて、

「まあ良い。君に見て欲しいものがある」


 そうして、アンゼリカに向き直った。

「失礼しました、アンゼリカ姫。これがベイルリスです。この通り妙な奴ですが、害は少ないので……」

「は、はあ……」


 アンゼリカは吃驚した。ユーリスがこういう物言いをするところを見たことがない。ベイルリスといる時のユーリスは、なんだか普段より砕けて見えた。


「こうしてご紹介したのは他でもありません。以前の銀の指輪、今もお持ちでしょう。見せてやって下さい」

「はあ、それは構いませんけれど……」


 言われるがまま、首にかけた指輪を外して手渡した。

 受け取ったベイルリスは——樹氷の部族長の兄は、手にした指輪をじっと見つめて、やがてゆるりと笑みを浮かべた。


「……うん。間違いなく弟が魔法で渡したものだね。気配が残ってる。どうしてだろう、よほど姫を気に入ったのかな」

「君の弟だろう。思い当たる節はないのか?理由があったとしても、こういうことを軽率にされては困るのだが」

「そうは言われても、もう十年以上会ってないし。むしろ直近のことは、アレクサンドラの方が詳しいんじゃないかなあ。彼女に聞いてみれば?」

「アレクサンドラが聞かれて素直に応じると思うか」

「思わないね。まあ、そんなに深く思い悩むことでもないんじゃないかな。理由は見当がつくよ」


 ベイルリスはアンゼリカを一瞥した。会話についてこれず、良く分からないといった顔で首を傾げている。


「妖精は、彼女みたいな人間がとても好きなんだ。君も薄々気づいているだろうけれど」

「…………」

「まあ、いいじゃないか。弟もたまの気まぐれくらい起こすだろう。それよりアンゼリカ姫、会えて嬉しいよ。これからよろしくね」


※毎日、昼に更新します。

面白いと思っていただけたら、リアクション、ブクマをいただけたら嬉しいです!!


アンゼリカ:ラスフィード王国の姫。割と能天気。北のヴァイス帝国に嫁入りすることに…

ユーリス: ヴァイス帝国の皇太子。アンゼリカの夫。

ソフィア:ロスニア辺境伯の妻。ユーリスの従姉妹。アンゼリカに好意的。

皇帝ヴァルラス三世: ヴァイス帝国の宗主。ユーリスの父。

カサンドラ:ヴァイス帝国の皇妃。

エリザヴェート:ユーリスの姉。

ペネロペ:ヴァイス帝国の元皇妃(故人)。ユーリスとエリザベートの母。

リュドミラ:ユーリスの異母姉。なぜか喪服を着ている。

アレクサンドラ:ユーリスの異母姉。

ベイルリス:妖精族。樹氷の部族長の兄


ヴァイス帝国: 遥か北の荒野の覇者。氷と獣と妖精の国。

ラスフィード王国: 大陸南岸の漁業と造船で細々生きる海辺の小国。

フローラス: 古い歴史と格式を持つ宗主国。首都はファルツ。


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