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美しい舞は、地道な練習に支えられている

 その窓辺の遥か下の氷上で、ソフィアとアンゼリカは滑っていた。その手には長いリボンを携えている。ソフィアがくるくると回し、アンゼリカも見様見真似で従う。


「手首を柔らかくして、波を作って下さい。力み過ぎないで」

「こ、こうでしょうか?」

「そうそう、その調子です」


 ひらひらとリボンが踊る。アンゼリカは楽しくなって笑う。互いに時間が空いた時はこうして、リボンの扱い方を教えてもらうことになっていた。


 舞うため、実践で使うためというよりは、交流の一環のような感じだ。今日は氷の上に行く予定もあるので、その準備運動も兼ねていた。


「きゅうううぅ……くーっ♪」


 その側でフィアールカも、つるつる滑らかな機動を見せている。


 脚と重心を駆使して、一切の無駄を省いて複雑な動線を描くことすらこなしてみせる。流石にまだ羽ばたくのは無理だが、羽を優雅に広げて、余裕たっぷりといった感じの動きだ。


「す、すごい……フィアールカ、私より上手い……」

「氷獣はそれが普通ですわ。人間よりずっと、氷と妖精に近しいものたちですから。でも、アンゼリカ殿下もとてもお上手です。ただ少々、足元に意識が向きすぎているところがおありですね」


「うーん……そうですね。それは自分でも分かっていますけど……」


 アンゼリカはおずおずと、


「だって……氷の上でバランスを取るのは、結構大変でしょう?その上手首やリボンに神経を使うと、どちらかがおろそかになってしまって。中々両立が難しいです。どうすれば良いんでしょうか?」


 それにソフィアはにっこりと、それは美しく笑って、端的すぎる答えを返した。


「慣れです」

「そ、そうですか……」


 ……「歩くより先に滑ることを覚える」ヴァイス人にそう言われてしまっては、ぐうの音も出ない。ソフィアはフィアールカを見つめ、穏やかに笑った。


「氷上舞には、氷獣とともに舞うものもありますけれど……フィアールカ様との舞を、是非拝見したいですわ」

「そ、そうですね……!がんばります!」


 現金なもので、そう考えるとやる気が出てきた。少し離れた場所では、フィアールカが相変わらず優雅な軌道を描いている。自分も負けないよう頑張って、上達しなくては。そう思いながら、ふと思い出したことがあった。


「そう言えば……氷上舞の中でも特に格式の高い、特別な舞があるのですよね。氷冠聖舞という」

「氷冠聖舞……」


 ソフィアは厳粛な声で呟いた。そこにはどこか、畏れのようなものがあった。


「……ええ、ええ。そうですわ。あの舞こそ、ヴァイス文化と芸術の最高峰。古の妖精契約に基づいた、皇家にしか許されない舞です」


「たしか、皇家の女性だけが舞う舞なのですよね。皇家に生まれた者だけでなく、婚姻で妃となった者も含まれると……私は外国出身なので、差し当って気にしなくていいと言われましたが……」


「……はい。……皇家の女性であることに加えて、妖精から贈り物を受ける必要があります。現在資格があるのは、エリザヴェータ様、リュドミラ様、アレクサンドラ様の皇女様方のみとなっております」


「妖精の贈り物?それって……」


 アンゼリカは、首に下げた指輪を思い出し、取り出そうと手を伸ばした。だが、ソフィアに身振りでそっと抑えられた。


「どうか。そのことは、暫く内密に……何が火種になるか分かりませんので」


 そう言う真剣な目に押されて、アンゼリカもおずおずと頷いた。美人の真顔は迫力がある。アンゼリカが手を下ろすと、ソフィアは一転して、朗らかな笑みを浮かべた。


「ですが本当にご上達なさいましたわ。これならば明日の儀式も、何の心配も要らないでしょう」


「はい、ソフィアさんのおかげです。いつもありがとうございます」



※毎日、昼に更新します。

面白いと思っていただけたら、リアクション、ブクマをいただけたら嬉しいです!!


アンゼリカ:ラスフィード王国の姫。割と能天気。北のヴァイス帝国に嫁入りすることに…

ユーリス: ヴァイス帝国の皇太子。アンゼリカの夫。

ソフィア:ロスニア辺境伯の妻。ユーリスの従姉妹。アンゼリカに好意的。

皇帝ヴァルラス三世: ヴァイス帝国の宗主。ユーリスの父。

カサンドラ:ヴァイス帝国の皇妃。

エリザヴェート:ユーリスの姉。

ペネロペ:ヴァイス帝国の元皇妃(故人)。ユーリスとエリザベートの母。

リュドミラ、アレクサンドラ:ユーリスの異母姉。

ヴァイス帝国: 遥か北の荒野の覇者。氷と獣と妖精の国。

ラスフィード王国: 大陸南岸の漁業と造船で細々生きる海辺の小国。

フローラス: 古い歴史と格式を持つ宗主国。首都はファルツ。



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