氷獣たちの演舞
各氷獣の見た目イメージです!
グレイサー→ほぼもの〇け姫の山犬
モロゾロク→白いトナカイ。角がゴージャス
スノーク→おおむね白鳥、脚はペンギンっぽい
レデラスト→白いセイウチ
そうしている間に、兵と氷獣たちが定位置に着く。それを見たアンゼリカは目を見開いて、隣のユーリスの袖を引いた。
「ユーリス様、あれは昨日ご紹介下さった……モロゾロク、グレイサー、スノーク、それにレデラスト……ですよね」
「……ええ。全て揃っていますね。これは大がかりなものになりそうだ」
一つずつ、こっそりと指さしながら確認した。ユーリスもそれに頷き、じっと表面を見つめる。やがて号令が響き、居並ぶ兵たちが一斉に貴賓席に敬礼して、演習が始まった。
初めに動き出したのは鼓笛隊だった。軍鼓が静寂を破り、それとともに様々な音がうねり、絡み合い、荘厳な旋律となる。
その音に合わせ、氷獣たちが動き出した。
モロゾロク、グレイサー、スノーク、レデラスト。彼らと、彼らに乗った騎手たちが一列に行進し、広がり、交差し、氷河の上に複雑な文様を描く。動く度に氷獣の毛並みが揺れて、光を反射した。
やがて隊は、それぞれの氷獣ごとに分かれて四つになり、連動して動き出した。
モロゾロクは完璧に揃った速度で、一つの壁をなして滑走する。角の結晶がちかちかと光、氷に映り、レースのような模様を描き出した。
その後ろをグレイサーたちが斜めに滑走する。互いの間隔を完璧に保ちながら、魚の鱗のように重なり合う陣形を組む。この間グレイサーたちは、わずかな重心移動だけで互いの位置を調整し、巧みに衝突を避けていた。
その周囲でスノーク、レデラストたちは縦に並び、蛇のようにうねりながら高速で滑走し、飛び上がる。彼らの動きは非常に速く、鼓笛隊の拍子に完璧に同期している。
鼓笛隊の音楽がより速く、力強いものへと変わる。騎手と氷獣たちはそれを受けて、更に大胆な乱舞を始めた。
「あ、飛んだ……!」
思わず小声で叫んだ。ひときわ立派な体格のグレイサーが二匹、騎手とともに同時に跳躍し、回転し、空中ですれ違って着地する。わずかなブレも乱れもない、完璧な制動だ。続いてスノークが二羽飛んだ。目まぐるしく互いの位置が入れ替わり、少しも目を離せない。
四つの隊列が徐々に近づき、互いに交差する。氷獣たちは互いの位置を正確に把握し、一糸乱れぬまま、複雑な陣形を矢継ぎ早に完成させる。
最後に盛大な音を奏でて、鼓笛隊の音楽が止まり、再び静寂が訪れる。兵士たちは、グレイサーを連れて広場の中央に集結し、大きな円陣を組む。
彼らは皆、片手を胸にあて、氷の下を深く覗き込むように見つめた。氷獣も、それに倣うかのように静かに頭を垂れる。
その瞬間、グレイサーの爪が放つ淡い光が、周囲の氷に反射し、幻想的な光の輪を作り出した。真昼の光を浴びて白々と輝く氷河に、それは銀の光を投げかけて、錯覚だろうか、一瞬虹色に輝いたようだった。
アンゼリカはただ、息も忘れてそれに見入ることしかできなかった。
(……これは、ヴァイスの人々と氷獣たちが、妖精との絆を、そして帝国を守ることを誓う、そのための儀式なんだ……)
——これが、ヴァイスの力なのだ。氷上に煌めくそれが美しければ美しいほど、その事実が深く沈む。強く打たれたように、その強さを感じ、圧倒された。
「……いかがでしたでしょうか」
終わってから聞いてきた辺境伯に、アンゼリカは頬を紅潮させ、弾んだ声で、
「とても綺麗で凄みがあって、胸を打たれました。あまりに壮観で、血が燃え立つようで……素晴らしい歓迎をありがとうございますとお伝え下さい」
嬉しそうにそう答えて、丁重に礼を告げた。それに続いての、そのうち氷獣への騎乗や餌やりをしてみるかという誘いにも、アンゼリカは喜んで頷いたのであった。
※毎日、昼に更新します。
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アンゼリカ:ラスフィード王国の姫。割と能天気。北のヴァイス帝国に嫁入りすることに…
ユーリス: ヴァイス帝国の皇太子。アンゼリカの婚約者。
皇帝ヴァルラス三世: ヴァイス帝国の宗主。ユーリスの父。
ヴァイス帝国: 遥か北の荒野の覇者。氷と獣と妖精の国。
ラスフィード王国: 大陸南岸の漁業と造船で細々生きる海辺の小国。
フローラス: 古い歴史と格式を持つ宗主国。首都はファルツ。




