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氷獣たちとの触れ合い体験

「モロゾロクと、グレイサーと……白鳥のような鳥と……それとあちらの子はもしかして、以前仰っていたセイウチ?でしょうか……?」


「ええ、モロゾロクにグレイサー、鳥がスニェクリノーク、セイウチがレダラスト・モルシュです。レデラストとも言います。……ヴァイス国民の日常を支える主要な氷獣が全て揃っていますね」


「グレイサーに、す、……すにぇ、ク……?」

「呼びにくければスノークで大丈夫ですよ」

「は、はい。スノーク、ですね」


「……少し、見てみますか?お嫌でなければ」

 周囲に視線を配りながら、ユーリスはそう持ちかけた。アンゼリカは嬉しそうな顔をしたが、「でも、ご迷惑でしたら」と言い淀んだ。生まれて初めて見た氷獣にはしゃいでいたが、周りの人間のことを忘れていたわけではない。彼らにも段取りがあるだろう。


「どうぞご遠慮なく。これから移動などで身を預けるのですから、分からぬままではご不安でしょう。良いかな、辺境伯」


「……ええ。皇太子妃殿下が、ヴァイスの氷獣にご興味を持って下さったなら、この上もなく喜ばしいことです。迷惑などと仰らないで下さい」


 アンゼリカは、その反応にぱちぱちと瞬きする。何だろう。一瞬、所謂社交辞令かと思ったが、少し違うような気がする。勿論それも含まれているのだろうが、他にも何かありそうな、そんな気がした。


「……では、お言葉に甘えて。皆さん、申し訳ありません」


 とはいえ、ユーリスがこう言っているのに、自分が頑なに遠慮するのも良くないだろう。辺境伯や護衛たちにぺこりと礼をして、再び氷獣たちを見つめた。ユーリスがその手をさりげなく引いた。


「ほら、先ほどのモロゾロクですよ。良ければ労ってやって下さい」

「はい、勿論です。……車を引いてくれて、ありがとうございます」


 モロゾロクは、グレイサーより毛が短めだ。ややごわついて、ちくちくしている。


 だが、そこが良い。人懐っこいようで、撫でるとすぐにきらきら目を光らせて、身をすり寄せてきた。


 破顔して首の辺りを撫でると、きぃりりりりり……と、不思議な残響を持つ高い音が響く。見ると、角にある結晶が細かく震えて、鳴っている。その微細な振動で、結晶に映った光が繊細に揺れる。


 つられたように、辺りのモロゾロクが一斉に角を鳴らして、ふんふんと首を振った。音は次第に大きくなっていく。


「モロゾロクの角歌です。姫と会えたことを喜んでいるようですね」


 目を丸くするアンゼリカに、ユーリスがそっと教えた。これはモロゾロク特有の習性で、嬉しい時、上機嫌な時にする仕草だ。


 雪の中を大荷物を牽いて進まされることが多いモロゾロクにとって、氷上移動は楽ちん以外の何物でもない。故に、氷の旅路では上機嫌で、乗客に懐くことも多いのだ。それに、元々人懐っこい動物である。そういう裏事情を、極力礼儀正しく歯に衣着せて伝えた。


「姫のお陰で、華々しく有り難い役目を担えたことを分かっているのでしょう。姫にとっても、この移動が実りあるものであったなら幸いです」

「へえ……」


 アンゼリカはそれに目を見開いた。そして近くのモロゾロクの目を見つめ、破顔した。


「驚きました。モロゾロクって、本当に賢いのですね」


 撫でられたモロゾロクは一層角を擦り合わせ、喜ぶようにアンゼリカの方へ体を傾けた。アンゼリカは笑みを深め、自らも頭を擦り寄せた。嬉しそうな笑顔に、周囲の緊張が少しだけ緩む。


「それに、スノークとレデラスト。彼らも氷上交通の要となる生き物です」


 ユーリスに手を引かれ、氷獣たちの輪の中をぐるりと一周する。近くにいる護衛や騎手は例外なく緊張した顔つきだった。紹介された鳥は白鳥に似ていたが、脚がやや変わった形をしている。顔は少し、鶴にも似ている気がした。


「スノークは滑空と滑走を繰り返して移動する氷獣で、最高速度はグレイサーをも上回ります。水中の移動も可能です。


 あまり重いものは運べませんが、緊急時や急報の場合に重宝します。姿が美しいため芸術や儀礼用、羽は装飾にも使われます。そしてこちらがレデラスト」

「わあ……」

 アンゼリカは息をのんだ。知っている動物のどれとも似ていない、魚のような獣のような、それは不思議な生き物だった。


 レデラストは、セイウチの亜種であるというが、そのセイウチ自体を彼女は知らない。だから、近くで見たそれは未知の生き物だった。


 体は大きいが、これでも通常のセイウチより小さめなのだそうだ。銀灰色のずんぐりした体格で、幅広の顔についた髭と牙、それに鰭が特徴的だった。


「レデラストは水面の騎士とも呼ばれ、ヴァイスの漁には欠かせない相棒です。スノークと同じく、水面と氷面を行き来できる氷獣でもあります。我が国では子供が生まれた祝いに、レデラストの像を贈る習慣もあります」

「へえ……なるほど……」


 挟まれるユーリスの解説に頷きながら、アンゼリカは一通りの確認と挨拶を終えた。元の場所に戻り、紹介がひと段落したのを見計らって、ロスニア辺境伯は改めて歓迎の意を述べたのだった。


「改めてお帰りなさいませ、皇太子殿下。そしてようこそおいでくださいました、皇太子妃殿下。両殿下が我が領地をお通り下さるなどこの上ない誉。我が家名にかけて、できうる限りのおもてなしを致したく存じます」



☆各氷獣の見た目イメージです!


グレイサー→ほぼ某ジブリ映画の山犬

モロゾロク→白いトナカイ。角がゴージャス

スノーク→おおむね白鳥、脚はペンギンっぽい

レデラスト→白いセイウチ


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