リュドミラの謝礼
「埋葬は日没までよ。夜を超えたら、彼は帰れなくなるわ」
そう時間制限をつけられ、必死に探し回ったが、結局条件に合う手袋は見つからず、リュドミラはそれにさめざめと涙した。
「……良いのよ。これでまたひとつ、お葬式が増えるだけだもの。…………そう、手袋を探しに行かせてしまった私の葬式……」
最初は驚いたが、これがリュドミラの日常であるらしい。そんなことが、それからも続いた。
「今日は婚約者の葬式よ。結婚前に喪われてしまった私の……」
翌日は婚約者(架空)の葬式だった。
「残響が濁ったわ!この音はもう私を愛していないのよ……!」
更に翌日は音楽堂にあった大きなピアノの葬式だった。
「またひとつ、何か、私の起源となるものが消えた気がする……」
そしてその翌日には、リュドミラの曾祖伯父の葬式が行われた。その度にアンゼリカは用事を言いつけられ、あちこち駆け回ることになった。
そんなこんなで三日が経過し、炎帝の命令期限も三日後に迫ったある昼のことだった。例によって唐突だった。
「これ……あげるわ。古いものだけれど。……お姉様から言われているのでしょう」
「え!?あ、ありがとうございます!」
渡されたのは、一冊の本だった。重厚な装丁にアンゼリカは瞬きし、題名を解読しようとしたが、難しくてできなかった。
「たしかに何か謝礼を受け取ってくるようにと言われましたが……リュドミラ様、ご存じだったのですか?」
「冬華殿から知らされたの。……お姉様の意向には逆らえないもの」
「どうもありがとうございます!」
「別に……献身には報いるわ。この数日、ちゃんと付き合ってくれたもの……」
そう言いながらもリュドミラの息はか細く、明らかに弱った様子だった。リュドミラは荒れ狂っている時と落ち着いている時の落差が激しい。その違いは声音や話し方に顕著に表れる。
「貴女は息も足音も騒がしすぎて……ここにそぐわないわ。せっかくの静謐が乱れてしまうもの……」
そんなことをぼそぼそと呟いた後、リュドミラは聞いた。
「……皇后陛下の残り香を探せという、お父様から命令されたのでしょう。それはどうするつもりなの……?」
「それもご存じでしたか……実はこれといった案は浮かんでいないのですが。でもこれを持っていけば、エリザヴェータ様が手がかりを教えてくれると、約束して下さったんです!だから本当にありがとうございます、リュドミラ様」
「…………お姉様の約束は、あまりあてにしない方が良くてよ。でも、まあ、頑張りなさい……」
ヴェールを口元に引き寄せて、リュドミラはぽつりと呟いた。
「……カサンドラは、ここから逃げたがっているのよ。でもその力も自由もないの。……それを使って、貴女がどうするのかは知らないわ」




