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霜雲殿に通う日常

「ええと……ユーリス様と結婚したので、一応私はリュドミラ様の義姉ということになるのでしょうか……でも、年齢は多分同じくらいですよね?私は十七ですが、リュドミラ様はおいくつですか?」

「……………………」

 ヴェール越しの、引き攣ったような息遣いが聞こえる。更にすう、と一呼吸の間をおいて。

「……私は……七歳よ……」

「えっ?」


 アンゼリカは目を見開き、まじまじとリュドミラを見つめる。喪服で分かりづらくはあるが、背丈も体格もそう変わらないように見える。声だって、そんなに幼い感じはない。

「え、あの…………え?」

 リュドミラの声は刺々しく、微妙な苛立ちが乗っていた。

「何かおかしくて?」

 おかしいも何も。アンゼリカは二の句に迷ってリュドミラを見つめる。やはり、どう見ても七歳には見えない。けれどリュドミラの声には、何の迷いもない。

「私は七歳。それ以上生きていないわ」

 きっぱりと言ったリュドミラは、次の瞬間手を震わせ、また肩を揺らし始めた。


「――お、お葬式……今からお葬式をしなければならないわ。昨日、私の夫が死んだのだもの……」

「え?お、夫!?リュドミラ様結婚なさっていたんですか!?」

 そんな話は聞いたことが無かったので、アンゼリカは驚いた。リュドミラはハンカチをヴェールの下に差し入れて、涙をぬぐう仕草を見せる。

「優しい人だったわ。背が高かった気がするわ。穏やかだったかもしれない……彼は私に生きろと言わなかったわ。それがどれだけの救いだったか……でも、もういない……私は未亡人になったのよ……」

「というかあの、さっき七歳って言ってませんでした!?」

「七歳で未亡人になったらいけないの?年齢と喪失は関係ないわ、喪う覚悟があるかどうかよ!!」


 いきなり切れられた。言っている意味が分からない。不慣れなヴァイス語ではなく、フロレ語でやり取りしているはずなのだが。リュドミラは息を落ち着けてから、ふうと哀切の息を吐いた。

「だから、お葬式よ……」

(ヴァイスって、やっぱり独特……)

 尚後日確認したことには、リュドミラに結婚歴はなく、それどころか恋の噂ひとつ流れたことはないとのことだった。


 そのままアンゼリカも、何故か葬儀に参列することになった。悲しみに満ちた儀式の末、そして空の棺が埋められようとした、その時だった。リュドミラが、待ちなさいと声を上げた。

「――そうだわ。埋める前に、あの人の手袋を入れてあげないと……」

 ため息のように囁きながら、リュドミラは両手を触れ合わせた。

「今思い出したの。厚手の手袋。冬が近づくといつもそれをつけていた」

「今!?」

「……思い出したと言うことは、あったのよ。探してきて」

「へ、あの……?」

「革じゃないわ。グレイサーとモロゾロクの混紡毛織物。色も暗くはなくて……夜明け前の空のような灰色。いぶし銀のボタンがついていて、その辺りが少しだけくたびれているの…………さがしてきて」

「は、はい!」


 アンゼリカは反射的に答えた。今のリュドミラからはただならぬ気迫を感じる。炎帝やエリザヴェータにも通じる威圧感だ。

(腹違いで複雑なご関係とか聞いた気がするけど、やっぱり血縁なんだなあ……)

 そんなことを思いつつ、アンゼリカは架空の手袋を探しに行ったのだった。

 こうしてアンゼリカの、霜雲殿に通う日常が幕を開けた。


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