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リュドミラからの使者

 ところが何と。翌朝一番に、何故か霜雲殿から使者が来たのである。

「リュドミラ様がお呼びでございます。皇太子妃殿下におかれましては、至急お支度をお願い致します」

 淡々とそう告げる侍女は、立ち居振る舞いや口調こそ優雅だったが、ごく地味な装いだった。暗い色が基調で装飾もほぼなく、それこそ喪服のようだった。所作も極めて静かで、足音どころか衣擦れすら聞こえない。

 同じ侍女でもエリザヴェータの侍女とは全く雰囲気が違う。アンゼリカは戸惑って瞬きをした。


「ええと……どこかでお会いしましたか?……そうだ、確か昨日リュドミラ様と一緒にいらした……」

「至急、お支度をお願い致します」

 取り付く島もない。アンゼリカは困った笑顔を浮かべた。

「失礼致します。もうお目覚めでしょうか」

 その時、新たな声がかかる。最近ですっかり顔見知りになった、冬華殿の侍女である。

「皇太子妃殿下、エリザヴェータ様がお呼びで……」

「…………」

 こうしてエリザヴェータとリュドミラの侍女が、アンゼリカの部屋で鉢合わせすることになった。


「あ、あ、あのですね……!せっかくのお招きに恐縮ですが、今日は先約がありまして……!」

 エリザヴェータとの約束はまだ続いている。ここで欠勤などしたら約束がふいになってしまうかもしれない。そういった事情を説明すると、侍女は目を伏せて言った。

「……では私もそれに同行し、エリザヴェータ様よりご許可を賜ります」


「……一から説明しなさい」

 アンゼリカとリュドミラの侍女。連れ立ってやってきた二人に、エリザヴェータは半眼でそう命じた。各自の説明を聞きながら、面倒なことになったとエリザヴェータは考える。


 リュドミラやアレクサンドラには、およそ野心というものがない。双方権力に色気を出したことがなく、エリザヴェータの邪魔をすることもなかった。だからこそ、強いて排斥する必要がなかった。


 だがあれらはその分、一度こだわりを持ったものについては執念深いのだ。決意すれば一切譲らない。梃子でも動かない。不本意ながら長い付き合いなのでそこは熟知している。

「――……でも、そうね。わたくしも忙しくなってきたことだし……」

 扇に吸わせるように、小さな声でエリザヴェータは呟いた。義妹いびりも手ごたえがなさ過ぎて飽きてきた。そろそろ小休止を入れても良い頃だ。


「……良いわ。霜雲殿に行き、リュドミラの相手をしてやるように。……リュドミラを満足させることが、新たに課す役目よ。励みなさい」

「え、エリザヴェータ様!?ですがその、六日後の期限のこともありますし……」

「これからは、リュドミラの言葉がわたくしの指示と思いなさい。リュドミラから何らかの謝礼を受け取り、それをここに持ってこられたなら、約束を果たしてあげるわ」

 エリザヴェータはリュドミラに恩を着せつつ、義妹いびりも押し付けることにした。


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