表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/109

アンゼリカ、つまみ出される

「……両、足……?」

 リュドミラはびくりと振り向き、涙交じりの声を張り上げた。

「すみません、私エリザヴェータ様に言われて……」

「貴女……お待ちなさい……」

 命じられたアンゼリカは、リュドミラを見てびっくりした顔をした。


 彼女がその時、エリザヴェータの命令で重たい格好をさせられており、えいとスカートをたくし上げていたのもよくなかった。アンゼリカの足元は、歩く度に微妙に見え隠れしてしまっている。

「へ……?リュドミラ様?何か……?」

「…………まさか……貴女……両足に、靴を、履いている……?」

 空気が、凍った。泣き声も合唱もぴたりと止んで、重い沈黙が落ちる。リュドミラの視線はアンゼリカの足元にひたと据えられていた。信じがたいものを見るように何度も瞬きし、凝視する。


 だが、何度瞬きしてもその光景は変わらない。それを目の当たりにしたリュドミラはわなわなと震えた後、絶叫する勢いで詰問した。

「貴女……どうして靴を両方とも履いているの!?人の心が……あるの……?どうしてそんなに残酷なことができるの……!?」

「え!?靴って普通、両方履くものじゃ!?」


 リュドミラは眼前に垂れ下がる黒ヴェールを、細い指で引き寄せる。そのまま、ヴェールに顔を埋めて嗚咽を漏らした。問い詰められたアンゼリカは何が何だか分からない。

「両方履くわけがないでしょう!?しかも、普通ですって……!?左の子が冷たい土の下に眠ったばかりなのに……!」

「ひ、左の子……?え、えっと……どちら様の話を……?」

「あの子のことよ!私の左靴!あの子はもう帰ってこないの!なのに貴女ときたら……事もあろうに……まるで何事もなかったように両足で歩いて……っ!!なんて残酷、なんて非道……貴女、何も感じないの?左足の孤独を!?右足の傲慢を!?生者の無神経さを!?」

「え、ええっ……!?どういう理屈……!?」


 アンゼリカは目を白黒させた。周りを見ると確かに、騎士も侍女も右足しか靴を履いてない。異様な人々に囲まれて、感覚が狂いそうになる。

 な、何なんだろう。ひょっとして、知らない間に異次元にでも迷い込んだのだろうか。

「今は左の靴の葬式をしているのよ……!!あの子たちはもう歩けない……半身を失ったのに……それに何も感じないの!?」

「すみませんあの子たちって誰ですか!?」

「両足の靴で歩くなんて、死者を踏み躙る行為だわ……!いつからそんなに生に甘えているの!?」

「せ、生に、甘える……!?ごめんなさい、何を仰ってるのかさっぱり、」


 リュドミラは涙を拭いながら、恨みがましい声で言った。

「もう……もういいわ……生者に死者の痛みは分からない……。貴女の両足は、きっと幾億の魂を踏みにじって歩いているのね……」

「そ、そこまで言いますか!?すみませんでもあの、これをエリザヴェータ様から」

「出てお行きなさい!ここから、一刻も早く立ち去りなさい!」

「えええ!?いえ、ちょっと待って下さい!話を聞いて!お願いだから泣き止んで!」

 アンゼリカは声を張り上げた。何が何だか分からないなりに近づこうとしたが、

「――衛兵!つまみだしなさい!」


 リュドミラはこれ以上耐えられないとばかり、金切り声を上げた。すぐに騎士たちが「皇太子妃殿下、ご無礼を」と断りながら、アンゼリカを引っ張っていく。霜雲殿から大分離れても、辺りには泣き声が響いていた。

 何とか預かった書状だけは騎士に預けて――というか押し付けて――アンゼリカはそこを離れるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ