皇女リュドミラによる終わりなき葬儀
皇城でどんな権謀術数が展開されようと、皇女リュドミラには関係がない。誰が誰に告げ口しようが収賄しようが諂おうが、そんなことに関心の欠片すら持つことは無い。彼女はただ霜雲殿に籠り、来る日も来る日も終わりなき葬儀と落涙を繰り返すのみである。
その朝、リュドミラの哀切の引き金を引いた出来事は、左足の靴が駄目になったことだった。身支度を終え、仕上げに靴を履いたその時、リボンが綻び、装飾の釦が外れたのだ。
靴をよく見ると、あろうことか、左側だけ不自然に劣化していた。表面はくすみ、リボンがほつれ、全体的にみすぼらしくなっている。
ヴァイスでは、こういうことは時折起こる。妖精の悪戯で使っていたものが消えたり、変に古びたりするのだ。ヴァイス人にとっては珍しくもない、取り立てて騒ぐようなことでもなかった。だがリュドミラにとっては大事件であった。
「…………っああああああああああああ!!!」
リュドミラは無事だった右の靴も投げ捨て、盛大に咽び泣いた後、「左の靴の葬式」を催した。靴を買った時についていた箱に黒リボンを結び付け、花を添える。それが終われば棺の出番だ。
涙に咽ながら、途切れ途切れにリュドミラは言った。
「……靴が力尽きて、私の歩みの半分が死んだのよ……もう、戻らないわ……」
お葬式をしましょう、リュドミラは弱弱しい声でそう告げた。
鉛のような沈黙が落ちた後、控えていた者たちは自主的に左の靴を脱いだ。そして、速やかに葬儀の準備を始める。かくして右足にしか靴を履かずに行進する、世にも奇妙な葬列が出現した。
リュドミラも勿論、左の靴を履いていなかった。まるで挫いたように引きずりながら足を進める。
「ああ……私の、靴……みんな死んでしまうのね、みんな……私の両足も、もう骨に……」
宮殿を一巡りした葬列は、とうとう庭へ出た。壮麗な薔薇のアーチの麓には、墓標が立てられている。その周りを、白いスノークが数羽行き交っていた。その足には喪服風の黒リボンが結ばれている。
荘厳な空気の中、左靴がそっと棺に入れられる。黒いヴェールを被ったリュドミラは、もう片方の靴も脱いで棺に納めた後、「靴よ、あなたたちの旅立ちを見送ります……」と泣きながら白薔薇を撒いた。
「もう、歩かなくていいのよ……私の右靴……左に置いていかれるなんて、どんなに孤独だったでしょうね……」
取り巻きの侍女たちもともに泣き、嗚咽の重奏が鳴り響いた。その傍で歌唱が得意な侍従が神妙に合唱を始める。
「ごめんくださーい!」
そんなところにアンゼリカがやって来て、両者が出くわしてしまったのは、双方にとって不幸な偶然というしかなかった。何も知らないアンゼリカの足元には、勿論両の靴が揃っていた。




