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Side Story:「月の模様」

 健一は両親の仕事の都合で5歳から10歳まではロンドン、10歳から15歳まではパリに住んでいた。

 弟が一人いた。

 15歳のとき、すでに彼の身長は185cmあったので、フランス人の中でも背の高い方だった。

 スポーツ部に勧誘されることもあったが、彼自身は見た目に反して運動音痴であった。


 ロンドンでも、パリでもロマの人々をよく見かけた。車で出かけた折には、信号待ちをしているだけでロマの物乞いが声をかけてくる。父が「今日は小銭がなくて」と答えると、思ったより簡単に引き下がり次の車に声をかける。

 中には小さな子供を連れたロマの物乞いもいる。

 教育を受けさせているのだろうか?と心配になる。

「あれが、彼らのビジネスなのさ」父が言う。

「あんな小さな子供を巻き込んで?」

「子供からすれば、家族と一緒に働けることの方が、学校に行くよりよっぽど幸せなのかもな」


 親友が一人いた。

 金髪碧眼のロックスターのような容姿でありながら、その頃にはまだ珍しかった日本漫画オタクだった。

 夏休みに日本に戻った時に、新古書店などで大量のコミックスを買ってお土産として持っていくと、彼は目を輝かせながら、

「日本のバンド・デシネはペーパーバックなのにカバーがついてるの?」

「日本の本は右に開くのかい?」

 などと、まずは本の作りの違いから説明をさせられたものだ。

 そのあと、健一が丁寧に翻訳してやるのだ。

 彼が日本に戻ってきたのは高校入学前だ。英語とフランス語は堪能だったし、日本語も聞く話すといった面では苦労しなかった。だが、漢字だけは猛勉強した。

 フランスを離れる時、親友の家に別れの挨拶に行った。

 親友から、初めてのプレゼントを差し出された。

 紺碧色のベストだった。

「黒髪のケニチには、よく似合うと思うよ」

 彼は健一という名前をうまく発音できずケニチと呼んでいた。

「今はまだ早いけど、君が大人になったら着てほしい」

 

 外に出ると、すでに月は満ちていた。

 健一が、表面の模様がうさぎに見えると言うと、

「日本ではそうなんだね」

「僕には、食事をする女の子に見えるよ」

 親友はがっしりとハグをしながら、そう言った。

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