あとがき
この作品は10年ほど前に生まれて初めて書いた物語です。その後は何も書いてないので最後(現時点)の小説でもあります。(なお、サイドストーリーは気が向いたときに随時追加しています)
なんのノウハウも持たない蒼野が、長編の物語を書き始めるという行為自体が無謀でした。そんな作品をよく公表する気になったな!と思われる方、どうぞ、大きな心で見逃してください。この作品で語られるテーマが、蒼野にはとても大事なものなのです。そして、誰かの心に残る作品であればいいな、と思います。
素人の音楽活動をちょっとやっていたことがあって、その時に歌詞を書いていたことがあります。その経験をもとに1篇の叙情詩を一つの章にするような感覚で書き進めました。
そういう事情から、この作品に最も影響を与えたのは、サイモンとガーファンクルの歌ったイングランド民謡「スカボロー・フェア」なんです。象徴的な言葉の繰り返しから深まっていく郷愁、そういったものが表現できていれば嬉しいです。
地名について補足しておきます。
物理的な距離感、あるいはかけがえのない場所と時間を感じてほしいと思う部分はあえて実在名にしています。特定の場所をディスる意図は、もちろんありません。
あと、「西洋乞食」というカフェバーは吉祥寺に実在した店の名前です。内装も概ね描写通りの店でした。多くの思い出が詰まった場所でしたので舞台の一つとさせていただきました。
また、都内でのクリスマス付近の降雪は1990年に実際にありました。12月25日の夜半から降り始め、翌26日には交通にも影響が出るほどでした。武蔵野西部です。この物語はフィクションですので、24日のイブに前倒し設定しています。とはいえ、クリスマス前後の降雪が決して現実味に乏しい設定ではないことを知っほしいと思いここに記載しておきます。
「みお」という名前ですが、この名前に「澪」という漢字が当てられるようになったのは1990年からです。それまでは人名用漢字に記載されていなかったため、戸籍上では「澪」という漢字は使えませんでした。しかし、澪はこの作品のメッセージの体現者であり、「澪標」に由来する名前として、主人公にとっての道しるべとしての意味合いを持たせることを優先しました。
ただ、実態として、保護者の要望に応じ、学校側では名前の表記に対して柔軟な対応を取っていたようです。戸籍上の記載とは別に、家庭で使われている漢字を名札や名簿に記載することは割とありました。友人の例として、戸籍上の漢字が難しすぎるから、家庭で普通に使っていたから、男女の区別がつきにくくからかいの対象になり得るからなどがありましたね。
第10章「白いレンゲ草」に出てくるメリーとは、赤ちゃんのベビーベッドの上に吊るして使うおもちゃのことです。回転しながら音楽が流れるあれで、ベビーメリーと言うほうが一般的かもしれません。オカリナの音域内で演奏ができ、ベビーメリーに使われていて、季節感も5月や6月頃に合う曲というと「揺籃のうた」(作詞者:北原白秋、作曲者:草川信)かなと考えました。美しい詩と曲、幻想的で穏やかな子守唄がぴったりだと思いました。
『使いの者』は「宇宙からの訪問者―偉大な惑星人との会見記」(ユニバース出版社)のジョージ・アダムスキーとコンタクトした宇宙人がモデルになっています。宇宙の意思からの使者として、イメージがそのものズバリだったので。
その他、主な参考文献は以下の通りです。
・「輪廻転生」(J..L.ホイットン、人文書院)
・「走りきたれ、吾娘よー夢紡ぐダウン症児は女子大生」(岩元 甦子, 岩元 昭雄、かもがわ出版)
・「Q&Aダウン症児の療育相談: 専門医からのアドバイス」(飯沼 和三、大月書店)
喪失と再生、非健常の中にあるかけがえのない美しさ。
それがこの作品のテーマです。




