Side Story:「20分」
桜の季節が終わり、澪が高校1年になって少し経った頃、彼女の父が日出町に出かける用事ができた。親族の3回忌の法要である。親族といっても、澪は会ったこともなかった。
だが、澪がついて来ると言うので、不思議に思いながらも連れて行った。
澪は、中学3年の1周忌にも父について来た。
国東からは車で1時間を少し超えるほどの距離である。日出町は別府市の隣にあって、別府湾の美しい景色を眺めることができる海辺の小さな町だ。
少し、国東と似た田園地帯がある。ちょうどレンゲ草が一面に咲いている頃だった。
彼女の父は、澪が、風を受けながらレンゲ畑に立っているのを見た。
いつもの朗らかな澪とはどこか違う。そう思った。
その日の帰り道。澪は父の車の助手席に座って、左手で頬杖をつきながら、すでに暗くなった夜を見ているようだった。
だが、何も話しかけてこない。澪には珍しいことだ。
「何か、あったか?」心配した父が澪に聞く。
「あった」澪が答える。
「何が?」
「白いレンゲが咲いてた」
「珍しい色だな。お父さんは見たことないかな」
「私は、見た事があるの。とても、美しいと思って」
「美しさに感動したから、物思いに沈んでいたわけじゃないんだろう?」
「また、一緒に見ることができたらいいなって思って」
「誰と?」
「今日、私達がいたところから、別府まではあと何分くらい?」
「20分くらいかな」
「たった、20分なのね」
「そう、たった20分だ」
「いつか、その20分を越えられるのかな」
澪は泣いているようだった。それを隠すために左を向いていたのだなと悟った。
きっと中学3年の時も泣いていたのだろう。同じように顔を隠すように外を見ていたことを思い出した。




