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王城で事件発生!

 王妃主催のお茶会から早5日。翌日プロレン夫人から注意を受けるのを覚悟していたシルフィアだったが、予想に反して翌朝プロレン夫人から手紙が届いた。

 シルフィアの作法は完璧で教えることは何もないので講義は終わりと書かれていて、正直拍子抜けである。戦う気でいたが、相手が戦線離脱してしまった。そして、一体何をしたかったのかと疑問に思っていたことが昨日判明した。

 ルーラがあちこちから聞き込みをしてきたのだ。議会からの推薦とのことだったが、初めにプロレン夫人を推薦したのはブーリッツ侯爵だったらしい。他からも推薦はあったものの、敢えて陛下はブーリッツ侯爵がどう出るか考え推薦を受けたらしい。

 そしてプロレン伯爵家はブーリッツ侯爵家から援助を受けている為、プロレン夫人はブーリッツ侯爵に言われて嘘の作法を教えたのではないかということだった。もちろん、シルフィアに恥をかかせ、王太子妃に相応しくないと意見する為に。

 プロレン伯爵はまだ10代の頃に後を継いだ為、高位貴族の援助が必要だったのだろう。プロレン夫人は息子の為に従うしかなかったと思えばシルフィアは許せる気がした。幸いにもシルフィアはプロレン夫人の講義を鵜吞みにしなかった為、大勢の前で間違った振る舞いをすることなく無事にお茶会を終えることができたのだし。

 次に会った時は穏やかに話すことができそうだと感じた。


「エメはまた本屋さんですかね?」

 ルーラが問いかけてきた。今日はエメが休みなのだ。前回初めて休みを取った時に、ルーラに一番大きな本屋を聞いたらしい。その時に読書が趣味であるという話をし、ルーラに教えてもらった本屋でたくさんの本を買って来たと楽しそうに話していた。

 そんなルーラは休みの日はカフェ巡りをしているらしい。久々に戻った王都には新しいお店が増えていて、未だに全て回り切れていないとその時話していた。

 それぞれが休日を充実して過ごすことによって仕事の効率が上がるのが一番なので、結婚後に一人専属侍女を増やす予定だ。シルフィアは自分で色々出来る為、多くの侍女は必要ない。充分休日が取れるようにと増やすのだ。

「本屋でしょうね。エメは美味しい食べ物より本を前に置かれる方が喜ぶ性格だし。部屋から本がはみ出さないように言わないとね」

「この前部屋に入れてもらったんですけど、既に備え付けの本棚の周りに積み上がってましたよ。いつあれだけ読んでいるのかと思いました」

「ふふ。読むのが早いのよ。でも気に入った本は繰り返し読むらしいから、実際はもっと読書に時間を割いていそうね」

「本の系統も色々あって、恋愛ものが好きとか、歴史ものが好きとかじゃないんですね。植物図鑑もあって驚きましたよ」

 エメがお茶を淹れながらその時の驚きを面白そうに話している。性格が合うのかシルフィアの側でも二人仲良く話している。

「シルフィア様。新しい専属侍女の件ですけど、王城勤務の侍女の中に私の後輩がいるんです。同じ侍女専門学校を上位で卒業した子なんですけど、その子も商家の出なんですよ。三女だから独立して仕事をしたいと志望して王城勤務になったんですけど、明るいいい子なので一度会っていただけませんか?」

 ルーラには信用できる侍女を探して欲しいと頼んであったので、王城勤務の侍女の中から選んだのだろう。

「そうね、ルーラの推薦なら信用できそう」

「そう言っていただけると嬉しいです。実は幼い頃から知っている子なんです。その子の二番目の姉と私が友人で、家に遊びに行った時に何度も会っているんです。一緒に遊んだりもしましたし。友人は商家に嫁いでますけど、今も連絡を取り合っていて、とても大切な友人なんです」

「私の一存では決められないから、会ってみてお願いしたいと思ったらサイレス様に聞いてみるわ。本人は何て言っているの?」

「王太子宮に転属した後に久しぶりに会ったんですけど、私のことを羨ましいと言っていたので、この話をしたら喜んでいました。今は財務省の担当をしているんですけど、王太子妃専属の方が上位職な上待遇も良くなりますからね。喜ばないわけがないですよ」

 ルーラは開け透けない言葉を使うので、はっきりと意見がわかって好ましい。貴族というのは内面を悟られない様にする人が多いので、人間関係に疲れることもあるだろうから、こういった存在は嬉しいものだ。

「確かにそうね。仕事に支障がないように、次の休みの日に会いに来て欲しいと伝えてくれる?」

「もちろんでございます。良ければさっと伝えに行って来ても良いでしょうか?」

「良いわよ。お茶を飲みながら本を読んでいるわ」

 シルフィアが言うとルーラが出て行った。プロレン夫人の講義がなくなり昼からの時間が空いたので、その時間はクレメンタール王国についての本を読んで過ごしている。

 ある程度勉強をしてきたつもりだが、まだまだ知らないことが多い。それにそろそろピアノの練習もしたい。ある程度弾けるのだが、弾かない期間が長いと腕がなまってしまう。サイレスはバイオリンを弾けるらしいので、一緒に演奏したいという夢もある。

 子どもが生まれたら楽器を習わせたい。女の子ならピアノも良いがハープも良いかもしれない。男の子ならビオラを弾ければサイレスと合奏が出来て良い。そんな未来を描いている時だった。慌てた様子でルーラが部屋に飛び込んで来た。

「どうしたの?そんなに慌てて」

「戻って来る途中で人だかりができていたので様子を見に行ったら、王城内に飾られていた置物がなくなっていたそうです」

「まあ!それは大変ね」

「いつなくなったのかわからないらしいのですが、掃除担当のメイドが、昨日はあったと証言しているそうです」

「どんなものがなくなっていたの?」

「三代前の王妃殿下が隣国のインガラン王国に訪問された際に購入したもので、金でできた鳥の置物です。私も見た覚えがありますけど今にも飛び立ちそうでした。国宝とかではなくて、可愛らしいのに羽根などがとても精巧にできているということで、一旦は王宮に飾ったらしいのですが、王城で働く人も見られるようにと王城に移されたそうです。大きさは両手で包めるほどですかね。文官たちが一番通る場所に台を設置して飾ってありました」

「でも、その大きさの金でできた置物ならそこそこ重さはありそうね」

「そうですね。掃除メイドも動かさず埃を落として置物の周りの台を拭くことしかしないそうですよ。人通りがそれなりにある場所なんですけど、大きなものではないので気に留めない人が多いかもしれませんね。初見だと見てしまうかもしれませんが、慣れてしまえば廊下の壁際にある置物が消えていても気づきにくいかもしれないです」

「そう。もう捜査は始まっているの?」

「私が行った時には捜査隊が到着していました。王国軍の中で王城警備をしている部門の捜査隊です。第一発見者の侍女が状況を聞かれていました。

 内務省担当の侍女で、文官に書類を届ける途中に気付いたらしいです。台に由来の書かれた板はあるものの置物がないと」

「それは驚いたでしょうね。でも捜査隊が動いているなら直ぐに見つかるかもしれないわね」

「そうですよね。それでですね、捜査隊の一人がとても素敵な人だったんですよ~」

 ルーラの目がキラキラと輝いている。見た目の話や声質なども話し始め、どうやら事件より素敵な人を見つけた話が本題の様だ。 

 聞いているシルフィアもどんな人か気になり始めた頃、サイレスが部屋訪れた。

「どうしたんだ?扉の前でも笑い声が聞こえていたぞ」

「ルーラが素敵な方を見つけたそうですよ」

「それでそんなに話が盛り上がっていたのか?」

「サイレス殿下。そうおっしゃいますけど、とても素敵なんですよ!!別に、お付き合いしたいとかではないんです。見かけたら幸運だなって感じで、目の保養ですよ。保養」

「はあ?好意はないのか?」

「ありますよ。でも恋愛とかじゃないんですよ。お芝居を観に行って、あの俳優さん素敵だったなあ、みたいな感じなんです」

 サイレスがわからないと言った顔をしている。

「素敵な人を見るたびに恋愛をしている人っていますか?おっ、目の保養って思いません?」

「オレはシルフィア以外に惹かれたことはないからルーラの言っていることがわからん」 

 その言葉にシルフィアは俯いた。シルフィアだって実はそうなのだ。恋をしたのはサイレスが初めてで、だからこそ戸惑うことが多く困っているのだ。

 今だってそう。部屋に入って来たサイレスは、ソファーに座る際にシルフィアを抱き上げそのまま膝に乗せたのだ。シルフィアの部屋でのサイレスは毎日こうで、普通に向き合って話すのは食事の時くらい。それでも一向に慣れる気がしない程毎回心臓が騒がしい。

 それでも、サイレスの腕の中にすっぽり収まったこの感覚は心地よく、サイレスの心音が聞こえる感じも気に入っている。ただ、耳元で聞こえるサイレスの声に中々慣れない。腰から甘い感覚がびりびりと走り、思わず小さな声が出てしまいそうになるのを必死に堪えているのだ。

「まあ、それは良いことだと思いますよ。毎日仲睦まじいお二人を見ると自然と笑顔になりますし」

「そうだろ?」

「でも、今日はもう下ろして差し上げてください。毎日だと姿勢もお辛いでしょうから」

「そうなのか?」

 顔を覗き込まれ聞かれると、下ろして欲しいとも言い難い。どもどもとしているシルフィアにルーラが見かねてサイレスを再度促した。

「たまには向き合ってお茶を飲んでください。それではシルフィア様がお茶を飲めません。さっきからお茶を飲んでいるのはサイレス殿下だけですよ」

 なるほどという顔をしたサイレスがシルフィアをソファーにそっと下ろしてくれる。

「すまない。オレとしたことが気づかなかった。確かにそうだ。お茶は飲みにくいよな。悪かった。今日は下ろす、でも明日は乗せる、と交互にしよう」

「何をおっしゃっているんですか!重い、重いですよ。愛情が重いです!サイレス殿下。シルフィア様が疲れてしまいます」

「抱きしめたくなるんだから仕方ないだろ?これでも結構我慢しているんだ」

 ルーラが何とも言えない顔をしている。言っても無駄だと思ったのかもしれない。

「サイレス殿下。膝に乗ったことはありますか?」

 静かに問いかけたのはサイレスに付いて来ていたロベリオだ。

「子どもの頃にあるかな?」

「私もそうです。ですが、大人になってから乗ったことはありませんよね?」

「当たり前だろ。この年で親の膝に乗るやつなんかいるか?」

「私はそのような人は見たことも聞いたこともありません。しかしながら、お二人を見ていると、シルフィア様が大変座りにくそうです。お寛ぎになられないのではありませんか?」

 うっとサイレスが言ったのが聞こえた。

「サイレス殿下。私の膝に乗って確認してみますか?それともシルフィア様を寛げるようにしてさしあげますか?」

 今度ははぁと溜息をついている。

「おまえなあ。例えが極端なんだよ。わかった。とりあえず、人前ではしない。これで良いか?オレ以外いなければシルフィアも人目を気にせずにオレに寄り掛かれるだろ?」

「まあそれで良しとしましょう」

 どうやらシルフィアが困惑していることを二人は気にかけてくれていたようだ。少し寂しいような気もするが、恥ずかしさが減る方が大きい。それに、サイレスと二人きりなら、首に手を回して寄り掛かれば姿勢が安定する。小さな声が漏れても、聞いているのはサイレスだけ。甘い二人きりの時間を想像し、シルフィアは一人で赤面した。

「シルフィアどうした?」

「いいえ、何でもありません。

 そう言えば、サイレス様はご存じですか?王城内で置物がなくなるという事件があったことを」

「報告はあったな。シルフィアは心配しなくても大丈夫だ。捜査隊が犯人を見つけてくれるだろうし、任せておけば安心だ」

「そうですね。でも、間違ってどこか別のところに置かれているとかはありませんか?」

「うーん、それはどうかな。置物の配置を変えるなら、王城の侍従長が知らないわけはないし、知らないならそんな話はないってことになる。誰かが持ち出したと考えるのが妥当だな」

「そうですよね。とても可愛らしい置物だったそうですね」

「可愛いか?どちらかと言えばオレは苦手だな。確かに精巧に作られてはいるけど、何と言うか、そのせいか目が怖い。小鳥ってあんな鋭い目をしているものか?と思った記憶がある」

「サイレス殿下は王妃殿下が作られる可愛らしいぬいぐるみを見すぎなんですよ」

「じゃあロベリオにはあれが可愛く見えるか?」

「それは見えませんね。あの目は猛禽類の目です」

「だろ?あの鳥は小鳥なんかじゃない。猛禽類の幼鳥だ。ふっくらしているのに、目つきが悪い」

 その言葉にシルフィアは笑い声をあげた。

「それは是非見てみたいですね。無事に戻ってこれば良いのですが」

「そのうち戻るだろ。捜査隊の能力は高いからな。それで、ルーラは捜査隊の誰が気に入ったんだ?」

「そんなの秘密ですよ。余計なことを言われたくないですからね。シルフィア様には、今度見かけたらお教えします」

「余計なことってなんだよ。ルーラの男の趣味はどんなのかと思っただけだ」

「どちらにしても名前を知りませんので言えませんけどね」

「知らないのか?」

「知りませんよ。さっき見かけただけですから。だから、目の保養って言っているんです。明日には忘れているかもしれませんしね」

「オレにはサッパリわからない感覚だな。ロベリオわかるか?」

「私は妻一筋です」

「オレと同じだな」

「違いますよ。私は妻の事を10歳の時から愛しているので」

 堂々と言い切るロベリオにルーラが驚いている。生真面目な顔のロベリオからこんな言葉が出て来ると思っていなかったのだろう。

「その時に婚約しただけだろ」

「ですから、その時から愛する存在なのです」

 ルーラが耳元でこそこそと話しかけてきた。

「お二人とも愛が重いのは同じだと思いますけどね」

「そ、そうね。奥様には先日のお茶会で挨拶をさせていただいたけど、とても柔らかな雰囲気の可愛らしい方だったわ。落ち着いたらお茶会をする約束をしたの」

「それは良いですね。どんどん交流を深めていきましょう」

 ルーラの言葉にシルフィアは頷いた。そんな二人を他所に、サイレスとロベリオはどちらがより愛しているかを話している。こういったことは競うものではないと割って入ろうかと思ったが、実は二人はこういった会話を楽しんでいるのだろうと見守ることにした。

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