王太子と初めての公務
クレメンタール王国に来て十日。シルフィアは多忙を極めた。週三回のエイドの講義の他に、自分で足りない面を補強する為に図書室へと通う日々。
そして毎日やってくるプロレン夫人。休むことなく本当に毎日来るのだ。初めてプロレン夫人の講義を受けた翌日から、エメとルーラがこっそり控えるようになったのだが、プロレン夫人はそれに気付くことなく同じ講義を繰り返すので、エメたちは毎日怒り、息まいてサイレスのところに行こうとするのを止めるのがシルフィアの日課になっている。
特にルーラの怒りはエメも驚くほどで、シルフィアを軽んじることはサイレスを軽んじること。そしてその先は王家への忠誠に欠けることと言って、いつの間に持ってきたのか、プロレン夫人が帰った後、扉の向こうに精水を撒いている。
精水とは、聖堂でもらえる清めの水で、毎日聖官が聖堂で祈りを捧げて作っているものだ。川の精霊の力が宿っているとされ、嫌なことがあった時に体やその場所に振りかけると清められると言われているのだ。ちなみに飲むことは禁止されている。小さな小瓶なのだが、それを毎日撒くので、さすがに無料でもらえるものではないからと、シルフィアはやんわり止めるように言っているところだ。中々止めてはくれないのだが。
そして今日。昼から初めての公務が控えている。事前に知らされていたので、プロレン夫人には休むように伝えた。シルフィアが公務であるということに不満そうではあったが、さすがに聞かざるを得ないのか黙ってうなずいていた。
「プロレン夫人の顔を見ないで済むと思うと晴れ晴れします」
ルーラが楽しそうにシルフィアの化粧品を準備している。そしてエメは髪を結ってくれている。
「たまにはプロレン夫人には休んでもらわないと。毎日あれですからね。この部屋で倒れられても寝覚めが悪いですから」
「誰にしても働き過ぎは体に悪いわ。丁度良かったわね」
エメが髪を編み込み下の方で丸めて髪飾りを刺してくれた。そして化粧の手直しをしていく。服は水色のワンピースを選んだ。袖と裾は白色のレースがあしらわれ、清楚さの中に可愛らしさを含んでいるのが気に入っている。クレメンタール王国に向かう前に作ったワンピースで、これを着ている姿をサイレスに見せたかった。水色はサイレスの目の色だ。喜んでくれるだろうか、と目を閉じ思いをはせる。
「さあ、シルフィア様。完璧です。お美しいです」
満足気にエメが言う。
「サイレス殿下がお喜びになられますね」
ウキウキとルーラが笑顔を見せる。
「ありがとう。二人とも」
今日の公務に付いて来る二人にはお揃いの髪飾りを昨日渡した。シルフィアの専属侍女であることを近衛騎士たちにより認識してもらうためだ。侍女が身に着けられる宝飾品は限られる。華美であってはならないし、仕事の邪魔になってもいけない。そうなると小さな髪飾りくらいしかないのだ。
サイレスが事前にシルフィア専属侍女を準備すると連絡してきていたのだが、何人とは聞いてなかった為、シルフィアは念のため6個の色違いの髪飾りを用意した。初めての公務の時からつけてもらおうと、エメに内緒で出掛けリオナたちと一緒に選んだのだ。結局シルフィアの専属侍女はエメとルーラなので、二人に3個ずつ渡し、二人はとても喜んでくれて、渡した時に直ぐに着けていた。
三人で楽しく話しているところにノックが聞こえる。ルーラが扉を開けるとサイレスが立っていた。
「シルフィア。準備は良いか?」
迎えに来てくれたのだ。立ち上がるとサイレスの元へと急いだ。
「はい。丁度準備ができたところです」
「何と言うか、今日の服も似合っている」
一瞬目を反らしたサイレスの頬が赤い。
「シルフィア様はサイレス殿下の目の色に合わせられたんですよ」
「ああ。シルフィア。ありがとう。一緒に出掛けられて嬉しい」
サイレスが微笑んでくれてシルフィアも笑みを浮かべた。サイレスの言葉はいつも直球で、シルフィアの心を舞い上がらせる。
「行こうか」
そっと差し出された腕にシルフィアは腕を絡めた。
部屋を出ると王城の入口へと向かう。今日はそこから馬車に乗るそうだ。サイレスと共に歩くシルフィアを、もっと王城で働く人々に見せたいらしい。
あちこちから視線を向けられるが、シルフィアは気にせずサイレスと言葉を交わす。何気ない話ばかりだが、時々笑いが生まれて、それを見た人たちが嬉しそうに頭を下げてくれる。
全員は無理かもしれないが、できる限り名前を覚えたい。少しずつになるだろうが、王城で働く人々に認知され、また信頼される存在になる為には、名前を呼んで声をかける。それがシルフィアのやり方だ。マフィージ王国でも王城に行く度に名前を覚えて話しかけるのを繰り返していた。そうすると人々が自然と手助けしてくれるようになるのだ。
シルフィアは婚約白紙の際に両陛下に挨拶に行って以来王城に顔を出すことはなかったが、何通も惜しむ手紙が送られて来た。主に文官で、惜しみながらもクレメンタール王国へ嫁ぐシルフィアを祝福する言葉がつづられていたのを思い出す。きっとクレメンタール王国も同じ。そう思いながらシルフィアは歩みを進めた。
用意されていた馬車にサイレスのエスコートで乗り込むと、横にサイレスが座り馬車が走り出す。
「今日行く場所は建設中の橋だと話しただろ?」
「はい。橋の数を増やしてらっしゃるんですよね?」
「ああ。4本目からは、1本完成する度に次のに取り掛かることになっている。人も予算も無限ではないからな。今の6本目で一応終了になる予定だ」
「そうなんですね。確かに橋の建設以外にも必要なことがありますし、職人さんも橋以外に仕事がありますしね」
「ああ。よく頑張ってくれたと思う。ただ橋の名前がな」
サイレスが苦笑している。
「初めの3本の時に好きに名前を付けて良いと言ったら、職人たちが所属している社名をつけたんだよ。宣伝目的で。オレも良い案だと思って賛成したんだ。ところがだ。3社に頼んでいるんだが、今6本目だろ?各社が王都民に覚えてもらいやすい名前にしようと言い出して、4本目が完成した時にフローラってつけたんだよ」
「まあ!慕われている証拠ではありませんか」
「それで、5本目がベロニカ」
サイレスが顔を覆っている。
「それはまあそうなりますよね」
シルフィアもなるほどと苦笑した。
「今作っている6本目は、サイレス様のお名前なんですね」
「そうなんだよ。フローラの時は、フローラは国民に人気があるからだろうと思っていたんだ。母上と一緒に10歳から公務を始めて、明るい性格でしゃべるのが大好きだから、あちこちからうちにも来て欲しいって次々依頼が来てたんだよ。また来て欲しいってのも多くて、勉強の合間を縫って王都以外も行っていたんだ。今もそれは変わらない。
だけど、次がベロニカだろ?ベロニカは大人しい性格で、公務は一応していたが、フローラ程多くはなかった。ベロニカは絵に専念したくて、公務を最小限にしていたってのもあるけどな。だから、慕われていないわけではないが、次々依頼が来るって程ではなかったんだ。逆に穏やかにしゃべるベロニカが好きだという国民もいるし。
でもな、それで気づいたんだよ。最終的にオレの名前を付ける気なんじゃないかって。元々6本は作ると伝えてあったから。だからオレは母上の名前にして欲しいって頼んだんだがな。もう橋の名前を書いた石板を作ったって言うんだよ」
「それは作り直すようには言えませんね」
サイレスがコクリと頷いた。破格の金額でやってくれているのに石板を作り直せとは言えない。
「それだけサイレス様が慕われているということですよ。私も完成が楽しみです」
「はあ。オレ、恥ずかしい」
サイレスが膝に顔を埋めている。そんな姿は初めて見るもので、可愛いと感じたシルフィアはそっとその頭を撫でた。
「誇ってください。初めての大規模事業を成功させたんですから」
「いや、でもな。恥ずかしいだろう」
「良いじゃありませんか。職人さんたちが決めたのですから」
「はあ。どんな顔で開通式に出席すれば良いんだよ」
「一緒に出席しましょうね」
「マフィージ王国も同じかわからないが、クレメンタール王国では開通式の時に始めに歩く人間は予め決められるんだ。長く使えるようにと、三代で歩くんだよ。親、子、孫って。それももう決まったらしい」
「マフィージ王国にも同じ風習がありますよ。橋の近くに住んでいる人から選ばれるんです」
「同じだな。今回は近くで食堂を経営している家族が選ばれたんだよ。それもオレが時々城を抜け出して行っていた食堂でさ、橋がオレの名前になるって聞きつけて立候補したらしい」
「まあ。良いじゃないですか。国民に喜ばれるのは素晴らしいことですよ」
「確かにそうなんだが、恥ずかしいんだよなぁ」
「今度そのお店で食事がしたいです」
「ああ。旨いから一緒に行こう」
そんな話をしているうちに橋の建設現場へと着いたようだ。馬車の扉が開くとサイレスのエスコートで馬車を降りる。馬車を止めたところから少し離れたところに人が集まっている。そしてシルフィアたちに手を振っているのがわかった。
「「「サイレス殿下!おめでとうございます!」」」
全員が揃って祝辞を伝えてきて、サイレスが好かれていることをより感じる。
「シルフィア様、ようこそクレメンタール王国へ!」
一人がそう言うと、あちこちからシルフィアを歓迎する声が上がり始めた。集まっている人々の前まで来ると、サイレスが手を上げた。それを見て人々が静まり返る。
「みんな祝辞をありがとう。オレの妻のシルフィアだ。よろしく頼む」
「シルフィアです。皆さんよろしくお願いいたします」
シルフィアが挨拶をするとワッと歓声が上がる。
「どうだ?美しいだろ?」
サイレスが言うと、笑いが起こり、また惚気が始まったとあちこちから声がする。すると、一人の男性が前に出てきた。
「この橋の建設の責任者のエイドンでございます。シルフィア様にお目にかかれて光栄です」
二の腕の筋肉が盛り上がり逞しい体つきの男性で、いかにも建設現場の職人と言った感じである。日焼けした顔には笑みが浮かび、目尻にはしわができ始めている。
「シルフィアです。重要な任務をされていると聞きました。皆さんの素晴らしい仕事に敬意を表します」
「そう堅くならなくても良いですよ。気軽にいつでも遊びに来てください」
シルフィアは笑みを浮かべて頷いた。
「それにしても、確かにお美しいですな。サイレス殿下から何度も惚気話をされましてね、いい加減みんなうんざりしていたんですけど、確かに確かに、これは惚気たくなりますよ」
そう言って笑うエイドンはサイレスの肩を叩いている。
「だから言っただろ?会えばわかるって。追々人柄もわかればもっと好きになる」
「いやあ、そうですな。今後が楽しみですよ。結婚式の後はもちろん、お披露目で王都を馬車で回りますよね?」
「もちろん。シルフィアを見せびらかす絶好の機会だからな」
「わはは!その意気ですよ!いやあ、楽しみだ」
豪快に笑うエイドンは今度は膝を叩いて笑っている。周囲の人々も一緒に笑っているので、自然とシルフィアの顔にも笑みが浮かぶ。
サイレスは少なくとも、王都民に好かれている。じわじわと王太子妃になる実感が湧いて来るのを感じ、自分もこの輪に入ることができるだろうかとサイレスを見上げると、それに気付いたサイレスがシルフィアの肩を抱き寄せてくれた。そして耳元で囁くのだ。
「一緒にこれからみんなを幸せにしような」
そんなサイレスにくすぐったいと言いながらシルフィアは頷いた。
「仲睦まじい姿を見せてくれるのは良いんですがね、そろそろ今の状況の報告をさせてくださいよ」
笑いが残る顔でエイドンが話を始めた。
「今の所、計画通り順調に進んでいます。資材も全て揃いましたし、天気さえ良ければ、三か月後には開通式です。既に開通した橋も、付近の人々に喜ばれているので一安心ですよ」
「そうか。良かった。快適に暮らせるようにしないとな」
「次はどんな事業をするか考えているんですか?」
「案はいくつかあるんだが、どれからにするか悩んでいる。予算を考えると一気にできないしな。橋で結構予算を使ったから、直ぐには行動できないってのもあるが、これからはシルフィアと一緒に進めて行くから、結婚後に次の事業の発表をしようと思っている」
初めて聞く話にシルフィアはサイレスを見た。
「いくつか案を作ってあるから、一緒に考えて欲しい」
嬉しい提案だ。信頼されている証とも言えるだろう。まだクレメンタール王国に来たばかりのシルフィアに、国の事業を一緒にしようと言ってくれているのだ。
「はい。喜んでもらえることをしましょうね」
肩に乗せられているサイレスの手に触ると、ぐっと手に力がこもったのが伝わる。
「いやあ、本当に、初々しいお姿ですな。シルフィア様。サイレス殿下は城下を庭だと思っているんですよ。昔っからあちこちに出没しましてね。自国の王子だって気づかずに接している人間もいましたし。まあ今はそんな人はおりませんがね」
「城下は面白いに違いないって思ったんだよ。部屋にこもっていたら知ることが出来ないことがたくさんあるんじゃないかって」
「ええ、本当に。初めてお会いした時は驚きましたよ。見たことあるなって思いながら中々思い出せなくて。まだサイレス殿下が14歳の頃ですよ。思い出した時には既に話し始めて1時間経っていたんですよ」
「あの場にいた人間は誰も気づいていなかったな」
「そりゃそうですよ。工事現場に王子が来ると思いますか?しかも子どもですよ。その時は王都に入る関所の門の修繕をしていたんですがね、上で仕事をしていたらいつの間にか側に子どもがいるんですよ。
下にいる奴は何をしているんだって思いましたよ。足場に子どもを登らせやがってって。危ないから下りるように言っても絶景だとか言って下りませんしね。それで、いつ修繕が終わるのかとか聞いてくるから、仕方ないんで相手をしていたんですよ。身なりも良いし、裕福な商人の息子かなと思いながら。
門を修繕している間は、普段より厳しく門番が通る人も荷物も確認していましたから、商人の息子なら早く終わって欲しいと思っているのだろうって、簡単に説明していたんですよ。それが結構色々聞いてくるんですよ。あれこれと。もっと詳しくって言いながら。
それでおかしいな、何か見たことある顔だなって思って、被っていた帽子を取ったら赤い髪じゃないですか。それで気づいたんですよ。第二王子だって。そりゃ見たことあるはずですよ。陛下に似てらっしゃるし」
「慌てて跪くから止めてくれって言ったんだよ」
「それはそうでしょう。王子が目の前にいるんですから。跪いた後、事故が起こったら大変だと思って、慌てて抱えて下まで行きましたよ」
「それ以来の付き合いだな。エイドンの話はおもしろいからついつい会いに行ってしまうんだ」
「行きつけの食堂にも何度も一緒に行きましたね。初めて連れて行った時に、代金を払おうとされるから、止めさせたんですよ。いくら王子でも子どもに払わせるのには抵抗があったんで。
それを見ていた人がたくさんいましてね、あちこちでサイレス殿下に奢ったって話を聞けますよ。その辺の屋台でも聞けますし。伝説になっているんですよ」
「伝説ですか?」
「はい。サイレス殿下に奢ったら幸運を授かるって。大口の仕事が入ったり、店が流行ったり。恋が成就したってのもありますね」
「まあ!それは凄いですね」
「ええ、そうなんです。子どもを授かっただの、腰痛が治っただのってのも聞きましたし。ですから、サイレス殿下に奢ろうとみんながその権利を取り合うから、結局サイレス殿下が自分で払われるようになりましたけどね」
そう言ってエイドンが笑う。
「みんなが自分が払うって言い始めるから収拾がつかないだろ?だから自分で払うってことにした。じゃないと城下に来れないって言って」
「まあでも、サイレス殿下が行った店は今も流行ってますからね」
「あれは元々それなりに人気がある店なんだよ。みんな勘違いをしているんだ」
「そういうことにしておきましょう」
「なんだよそれ」
「良いじゃないですか。慕われているってことで。実際そうでしょ?今ではサイレス殿下が城下を歩いていても、誰も気に留めないというか、普通って思っていますしね。当たり前のように声がかかって、旬の果物とかを渡されて齧りながら歩いているじゃないですか。
両手に串焼きを持って歩いているのを見たこともありますよ。それもつい半年ほど前です」
「あれはエイドンのところに行く途中にもらったんだよ。タレの味を変えたから試して欲しいって。一本は甘めで、一本はかなり辛かった。どっちも旨かったけどな」
「シルフィア様。城下で『殿下』と耳にしたら、それはサイレス殿下のことですからね。今日は公式なご予定なのでサイレス殿下とお呼びしていますが」
「よく言うよ。エイドンは時々サイレスって呼んでるじゃないか。『サイレス!そこの箱を持ってこい!』っとか」
「俺は良いんですよ。俺は。それにしても、そんなサイレス殿下がいよいよご結婚ですからね。聞いた時は嬉しかったですよ」
「そうだろ?」
「会う度に惚気話をされるのには辟易していましたけどね」
「良いじゃないか?あちこちで言いたかったんだよ」
「はいはい。人が集まって来ましたからこの辺にしておきましょう」
そう言ったエイドンの顔が急に引き締まった。
「シルフィア様。ようこそクレメンタール王国へ。敬意と感謝を捧げます。サイレス殿下と共に、この国を導いてください」
その言葉に合わせて跪き頭を下げる。そして追随するかのように、わっと広がった人々の光景にシルフィアは言葉を失った。隣のサイレスも驚いたようで、慌てて顔を上げるように皆を促している。
「堅苦しいのは嫌いだって知っているだろ?みんな立ってくれ」
「いいえ。サイレス殿下に忠誠を誓うと俺たちは決めたんです。この国にはサイレス殿下が必要です。いずれ国王になるサイレス殿下を一緒に見ることにしたんです。そして、サイレス殿下が選んだ王太子妃殿下、シルフィア様にも同様の思いです」
「止めろって。なあ、シルフィアも言ってくれ」
サイレスが慌ててシルフィアを振り返ったが、シルフィアは逆に、エイドンと同じようにサイレスに跪いた。
「サイレス様のお側にあり続けると誓います」
「シルフィアまで!とにかく、シルフィアもみんなも立ってくれ。困るんだよ」
ふと近くを見やると、ルーラとエメ、一緒に来ていた近衛騎士たちも跪いている。
「だから、止めろって。シルフィア!頼むからみんな立ってくれ!」
それでも誰も立つものはいない。
「わかった。わかったから。全員立て!」
サイレスが仕方ないとばかりに叫ぶと人々が立ち上がった。
「はあ。なんなんだよ。オレはこんなこと望んじゃいないのに」
立ち上がったシルフィアはそんなサイレスの手を取った。
「サイレス様と共にありたいと思った結果ですよ」
「そうですよ。サイレス殿下が国民のことを考えているのがわかるから、みんながそれに応えたいんです。愛されている証拠だと思ってください。
さあみんな、サイレス殿下とシルフィア様に盛大な拍手を!!」
エイドンの声が響くと歓声と共に拍手が聞こえてきた。見渡す限り笑顔の人々で、手を真上に上げて拍手している人もいる。
サイレスがまた頭を抱え始めたのに、シルフィアはそっと肩に手を当て顔を上げさせる。
「サイレス様。みなさんにお言葉を」
「シルフィア・・・」
「待ってますよ。ほら。ご覧になってください。こんなにたくさんの方たちが、サイレス様に期待しているのです。私もお側でお支えできるように努めます」
サイレスがしょうがないなと頭を掻いている。そして思い切ったように手を上げた。
「みんな、ありがとう!これからもよろしく頼む!良い国になるように一緒にやって行こう!」
また歓声が上がり、手を大きく振る人、拍手をする人、様々な人たちがサイレスを見ている。
改めて、素晴らしい人と結婚をするのだと思うと同時に、気を引き締めなければならないと、隣に立つサイレスを見た。
隣に立ち続ける為には、目の前に広がる光景を目に焼き付けなければならい。国民と共にある。国民の期待に応える。一つずつ明確に形にしなければならない。それがサイレスの隣に立つということ。
好きだとか、信頼しているとか、そう言ったことはもちろんだが、隣に立つという認識がまだ欠けていたのではないかとシルフィアは感じた。サイレスの隣に立つ為にはもっとやらなければならないことがある。学び足りない。
止まない歓声の中、シルフィアはこれからやらなければならないことを数え始めた。




