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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 クローザー・クローバー編
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弱みを見せよう大作戦


 かくして、幸運は訪れた。バケツリレーの開始から間も無くして、船長が声を上げて島を見つけたことを知らせた。

 ガラガラと音を立て、舵がいっぱいに切られる。船員達の頭上で帆がはためき、船の向きが変わった。船は風を受けてぐんぐんと進み始めたが、油断はできない。船員とダレン達は汗水垂らし、身体に鞭打って排水を続けた。

 そして、およそ十分後——


「……生きてる……」


 ——青い空、白い雲。彼らは孤島に上陸していた。


「おい、そろそろ起きろ木偶の坊」

「うぅ〜ん……はっ、生きてる!?」

「おう、お前以外の全員のお陰でな。——走れ! 島を十周してこい!!」

「は、はいいいぃぃ〜〜っっ!!」


 ……などという会話を遠くに聞きながら、ダレンは荷物を運んでいた。幸いにも船は孤島に乗り上げた為、積荷を引き上げることが可能だった。

 船室に積んでいた食料はほとんどが水没していた。しかし、長い船旅に備えて積んでいたのは肉や魚の乾物ばかりで、それらは多少水を含んではいたが、特に問題なく食べられそうだった。

 また、ナナフシの檻も引き上げた。


「ナナー」


 色気たっぷりのダンディボイスがナナフシから放たれる。檻を砂浜に置いたダレンは顔を背け、何も聞かなかったかのように去った。



「しばらくここで救助を待つことになりそう。これはチャンスだと思う」


 レイはダレンを捕まえ、物陰まで引っ張っていくとそう言った。まだ積荷も下ろしきっていないのに、なんだか興奮した様子だ。浮かれているのか焦っているのか、彼女は初めて見る表情をしていた。ダレンは少し面白い感じがした。


「チャンスって、具体的には何をするの」

「まず、投げキッスをする」


 彼女は右手を腰に当て、左手で投げキッスの仕草をした。不器用なその仕草にはときめきよりも面白さが勝り、ダレンは吹き出さないように唇を噛んだ。


「いいんじゃないかな。愉快な女性って魅力的だ」

「それって皮肉?」


 レイはむすっと頬を膨らませた。恋愛テクその一、好きな人を全肯定しない。転がさず、転がされない男こそがモテるのだ。


「本当に魅力的だとは思うけどね。でもそれよりも、弱みを見せるのはどうかな。何かが出来ないとか、何かが苦手だとか」

「それって、ジャムの蓋が開けられないとか?」

「君なら余裕で開けられるでしょ。そうじゃなくて、雷が苦手だとか、一人ぼっちが寂しいとか……」


 そうしてダレンは拙い見解をペラペラと喋り、レイもまた拙い理解でそれに答えた。しばらく案を出し合ううちに、ダレンは気づいた——もしやこれは会話が弾んでいるのか、と。彼女と自分の間には気まずい何かがあると思っていたが、今の彼女を見ているとまるでそんなものなどなかったかのようだ。自分と二人だけで話す彼女は饒舌で、思っていたよりも表情豊かで、感情がわかりやすかった。寡黙なタイプだと思っていたのに。


(もしかして今まで、人見知りをしていたのか)


 そう思った途端、彼女の心理が手に取るようにわかった気がした。三人での旅を始めてから、旅の指揮を取る関係でダレンはクラブと話すことが多かった。その間、人見知りな彼女は話に入れず、誰も話していないときも恥ずかしくて自分から話を切り出せなかったのだろう。思えば、三人で居るときの彼女はクラブにさえ話しかけようとしなかった。それはやはり、自分への人見知りがあったからだろう。ということは、つまり……


(今すっごい心開かれてる……嬉しい!)


 ……数年前に二人きりで喋ったことを忘れた訳ではない。それでもダレンは、好きな人の行動をうっかり都合の良い風に捉えてしまった。あのとき彼女が人見知りをしなかったのは、十五歳の自分が未熟丸出しの子供だったからだろう。そして四年越しの再会のファーストインパクトは、あの黒くて厳つい鎧だったのだから、一転して彼女が恐れてしまったとしてもおかしくはなかった。実際のところ、レイが今まで無口だった理由は、三人以上での会話が得意じゃないから——それだけだったのだが。

 そんな勘違いをしてしまったダレンは、一つの幸運に気が付かなかった。彼のレイが人見知りだという見込みは実は当たっていたのだが、彼女は出会ったときから彼を恐れていなかった。彼女に近づきたいと願う自分が、人見知りの彼女が徹頭徹尾恐れなかった親しみやすい人間であるということに、彼は気が付かなかった。


「よし、よし。オーケー。いいね」

「どうしたの?」

「なんでもないよ。そろそろ作戦は立てられたかな。題して、『弱みを見せよう大作戦』!」


 身も蓋もない作戦名である。しかしレイは真剣に頷き、胸を逸らした。


「任せて。しっかりばっちり、クラブをメロメロにしてくるから」

「あんまり応援したくないけど、頑張って!」


 今になって複雑な気持ちになってきた。もしや今、自分は敵に塩を送っているのではないか。色仕掛けで明かしたクラブの過去が笑い飛ばせるようなものであれば、わだかまりの消えたレイとクラブの距離は大接近してしまうのではないか。

 しかし、最早後戻りはできない。今はただ、クラブの聞くに耐えない過去を明かせることを願おう。ダレンは涙を呑み、レイを見送ることにした。


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