表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/87

コーヒーと夜明け

 ここまで読んでくださった方! 心からありがとうございます(*´ω`人)

 よろしければポチッと評価&ブクマをお願いします! 大体週2で更新しています!( •ω- )☆

 よろしくお願いします_|\○_

挿絵(By みてみん)



 朝は、窓からの日差しにうんざりするところから始まる。


「おはよう、クラブ」

「……おはよう」


 隣のベッドから眠たそうな天使の声がする。が、今日の俺はそれに喜べない。足をピンと伸ばしてつま先でシーツを握りこんだまま、動くことができずに放心状態だ。

 なんせ昨日、あんなことがあったのだから。

 さながら死刑を待つ拘置所生活の一日目だ。俺は今日から始まる旅の果てで、死んだ方がマシな想いを味わうことになる。


「元気ないね。コーヒーでも淹れようか? どうしよう、旅にコーヒー豆は持っていこうか……」

「……淹れてほしいかな。コーヒー豆も持っていこう」


 今のうちに彼女の淹れるコーヒーを千杯は飲んでおきたいから。

 俺はそろそろ起きれそうな気がしていたが、あえて放心のフリを続けた。寝ている間、ずっと力を込めていたつま先を開閉させて痛みを追い出そうとする。

 そういえばなんだか、全身が痛い気がするな……


「はい、淹れたよ」


 ついでに、期待していたコーヒーはベッド脇のナイトテーブルに置かれた。いや、いいんだけどね。風邪のときのお粥じゃないんだし。

 ……流石にそろそろ観念するか。俺はバキバキの全身に気を遣いながら、ゆっくりと起床した。

 カップを手に取ると、ココアを思わせる甘くホッとする香りがした。酸味や癖のないこの豆は、一息つく為の一杯に丁度良い。らしい。

 俺にはよくわからない。ただ、このコーヒーだけは、世界で唯一美味しいと感じるものだ。


「……そうだ。あの後、街の人達はどうなったんだろう」


 旅の支度をし終える頃、レイはそんなことを言った。


「外に出てみようか。そうしたらわかるよ」


 俺がザックを背負いながらそう言い、玄関の扉に手をかけると、レイはおろおろと慌てだした。

 扉を開いて漏れ出す光に、レイはぎゅっと目を瞑る。その手を引いて連れ出すと、朝の風が俺達の顔を撫でて、彼女はそっと目を開けた。


「あらぁ、おはようレイちゃん」

「……あ……」


 扉の外には、にこやかに微笑む隣人のお婆さんが居た。足元には例のベラちゃんが居る。


「クゥーン……」

「この子ったら、昨日の夜に玄関の扉を引っ搔いてきたのよ。それで朝起きてから聞いたんだけど、昨日はアンドロイドの騒動があったらしいわね。全くもう、穏やかじゃないんだから……」

「……あ、あの。それでその騒動で、死人は出ましたか……?」

「さあ? あたしゃ足が悪いからねえ。街にも行ってないし、わからないよ」

「……そうですか」


 レイは落ち込んだような焦ったような表情をした。その足元でしょげたベラがお座りをしている。レイはその様子に少し笑うと、しゃがみ込んで頭を撫でた。


「それにしてもあなた達、随分と大荷物ねえ。お兄ちゃんはいつものことだけど」

「あぁ、これから旅に出るんです。長い旅になりますから、いつも通り大家さんに話して、不在の間は宿として使ってもらうようにしますよ」


 「いつも通り」というのは、俺がレイと暮らし始める前の話だ。俺はときどきギルドの仕事で遠征に発つことがあったので、その間は大家さんに部屋を宿として開放してもらっていた。そうすることで、俺の賃借権はそのままに家賃の支払いを免除してもらうという寸法だ。

 冒険者が多いこの街ではよくある話である。俺が不在の間に部屋を使うのもまた、冒険者だった。


「ふぅん……寂しくなるねえ。まあ、帰ってくるならいいんだよ。元気でね、レイちゃん」

「うん、お婆さんも元気で」


 そう言って二人は微笑みあったが、俺は全くの蚊帳の外だ。今に始まったことではない。そうしてお婆さんに別れを告げると、俺達は大家さんの部屋へと向かった。



 無事に大家さんとの話を終え、次の目的地である冒険者ギルドへと向かう。その間、俺達は街を歩くわけだ。必然的に惨劇から一夜明けた街の様子を見ることになる。そして、その様子は……


「……えっ?」


 ガラガラと弾みながら通り過ぎていく馬車。花売りの呼び声。噴水の傍で「やぁねぇ」と顔を顰めあう婦人たち。

 多少、街全体が疲れたような雰囲気はあった。それでも活気のある声や笑顔が飛び交い、太陽は東の空で胸を張るように輝いており、残虐な事件が起きた後とは思えなかった。


「どういうこと……?」

「まあ、見ての通りかな。きっとあの後、死人は出なかったんだ」


 歩きながらその理由をレイに説明する。


「──だってあのガス、地面に滞留してたでしょ。濃い紫色のガスが、せいぜい人間の腰ぐらいの高さを漂っていただけだ。だから普通の人間はあれを吸わずに済んだ筈だよ」

「じゃああれは……」


 一体なんの為に。レイはそう言いたいのだろう。だが、結果と動機は無関係。きっと彼らの目的は、「レイを殺しつつ人々を殺す」で間違いなかったのだろう。

 ──アンドロイド達の今まで起こした騒動を思うと、確かに大勢の怪我人は出ている。が、死人は出ていない。怪我人の数においても、彼らの人数、戦闘能力、襲撃回数を考えると、相対的に被害は少ないといえる。

 ではなぜそのように「殺戮の効率が悪い」のか。それは不得意な方法をとっているからだろう。

 ガスの重い・軽いすら考慮されていない化学兵器。研究者上がりのインテリテロリストが撒き散らすものより程度が低い。

 明らかにあの並外れた身体能力と武器を使って殺し回る方が効率が良いだろう。つまり、彼らは……


(……いや、そんなことを言ったらレイを傷つけるかもしれない)


 ここで彼女を傷つける必要もないだろう。俺は「なんでだろうね」と言い、適当にはぐらかした。

 そうこうしている間に、冒険者ギルドに着いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ