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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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ミステリーのエピローグ


 その後のことは、ダレンが素晴らしい手際でなんか良い感じに済ませてくれた。

 そうとしか言いようがなかった。ダレンはシマコを呼び寄せると、ウルフェンの代わりに話手となったハンクスと内々の会話で計画を立て、それでいてとんでもない規模感で物事を動かした。具体的には、村人達を村まで護送する一団をどこからともなく召喚した。騎士団所属の騎士ならざる者達、平民身分の歩兵の一団だ。

 その一団は数日かけて往復して帰ってきた。そしてそれから更に数日後、今度は先程の一団より一層厳つく、物々しい鎧をジャラジャラと身に纏った一団が姿を現した。騎士団及び冒険者ギルドの精鋭達の連合軍だ。彼らは歩兵の一団と合流すると、あれよあれよと言う間に風竜を、イカダを継ぎ合わせたような間に合わせの荷車の上に載せた。そして大仰な陣形を組み、氷の粒を降らせる魔法を使いながらガタゴトと去っていった。風竜はノースゴッズの領地内の、人里離れた寒冷な山に運び込まれるそうだった。数名の守り人という名の学者や医者が近くに住み、世話と治療をするのだとか。

 館には熱竜と俺達だけが残された。風竜と同じく熱竜もまた、この後よりノースゴッズに近く、治療に適した環境に護送されるらしい。その前に俺達は、彼女にある質問をすることにした。この度見事にアテが外れた、啓鐘者(アウェイカー)のことだ。


啓鐘者(アウェイカー)をご存知ですか? 頭を変なものに覆われた、ボロボロのシスターなのですが」

「はい、知っています。最近、この星のあちこちを巡っていますね。彼女がどこからやってきたかまでは覚えていないのですが……」

「覚えていない?」


 熱竜は頷いた。俺はてっきり、竜は司るものの全ての記憶を持っていると思っていたのだが、忘れることもあるのか。それもそうか。魔法学的には無生物に分類される竜だが、そういう便宜上の分類を抜きに考えれば竜はフツーに生物だ。魔物だって生物だしアンドロイドだって……うーん。まあ、自我を持ち思考をするのだ。生物といって良いだろう。ともかく。


「竜も生き物ですし、忘れることはありますよね」

「あ……いいえ。私のこれは単純な物忘れではありません。辛いことが多く、あまり物事を覚えていられないのです」

「ストレスによる健忘ですか」


 「お恥ずかしながら」と熱竜は俯いた。何も恥ずかしいことではない。しかし、ということは……


「ということは、千年前にラボで起きたことも覚えてないの?」

「ラボ……? 人間の建造物のことでしょうか。そうですね。物忘れ以前に、千年前は全ての熱が荒れ狂っていましたから、何も……」


 ——しめた! 俺は後ろ暗い喜びを噛み締めた。実のところ、俺はクリスティーが熱竜だとわかってからヒヤヒヤしていたのだ。竜は司るものの記憶を持つ。もし熱竜がこの星が生まれてからの全ての熱の記憶を忘れることなく、余さず覚えていたのなら、俺は間違いなく千年前の罪を暴かれて終わっていただろう。まさに綱渡り、九死に一生を得た。

 レイがしょげてしまったのが可哀想だが。しかし、小さな手がかりは手に入れることができるだろう。

 俺達はそれから二週間ほど館で過ごした。そしてやがて、風竜を護送した一団が帰還した。長旅だったこともあり、彼らは館で休息を取ってから熱竜の護送をするらしい。あれからというもの、熱竜は肩の荷をようやく下ろせた為か穏やかで、異界も荒れることが少なくなった。まだまだ心配な点はあるが、彼女の護送はおよそ問題なく行えそうだった。その様子を確認した俺達は、彼らの出発より早く館を発つことにした。啓鐘者(アウェイカー)に対して、結構な遅れを取っていた。


「熱竜様、啓鐘者(アウェイカー)の足取りはどのような感じでしょうか」

「そうですね……ブランブル帝国に戻りつつあります。私の一番古い記憶が正しければ、啓鐘者(アウェイカー)は元々ブランブル帝国に居ました。それ以前にどこに居たかは思い出せませんが……彼女はブランブル帝国からフェレト村に向かった後、再びブランブル帝国に戻りつつあります」


 ——ブランブル帝国。ノースゴッズで鷲男が口にしていた言葉だ。『ブランブル帝国が俺達を助けに来る』……あの言葉はどういう意味だったのだろう。もしや啓鐘者(アウェイカー)はブランブル帝国と何かしらの協力関係にあるのか。


「私達が今から帝国に向かうとして、間に合いそうですか」

「ええ、恐らく。アルーヴ村から出ている船に乗り、サンズウェイを経由して帝国に向かえば十分間に合うかと」

「決まりだね」


 熱竜と話していたダレンは振り返り、俺達に向かって頷いた。俺達も頷き返した。そして館の大きな扉を抜け、薄明色の静かな草原へ発とうとした。そのとき、熱竜がダレンを呼び止めた。

 ダレンは再び振り返った。ポニーテールを軽やかに揺らし、熱竜に向けた表情はさぞ気が抜けていたことだろう。そんなダレンのポニーテールを、熱竜はそっと手で掴んだ。


「あなたに熱の加護があらんことを」


 ……その声に、俺達もまた振り返った。熱竜の手からするりと髪がすり抜けていった。しかし、ダレンは口をぽかんと開いたまま呆然としていて、なぜだか動く気配がなかった。


「……ダレン? どうした?」

「あ、え」


 突然にダレンの身体がびくりと跳ねた。俺の身体もまた驚いて跳ねた。どうやら我に帰ったらしいが、素っ頓狂でやたら大きい声まで上げてどうしたというんだ。


「なんでもないよ。熱竜様、ありがとうございます」


 ダレンは熱竜に深くお辞儀をし、お得意の……といっても、今回に限っては本当に清らかな心から来ていそうな、柔らかい感謝の微笑みを浮かべた。

 さて、今度こそ俺達は館を発った。目指すはアルーヴ村の港。ちょっと下衆な期待だが、攫われた村人達を助けたのだから船に乗せてくれるぐらいはしてくれそうだ。してくれる……よな? してくれるといいな。

 長く曲がりくねった道を歩いているうちに、どんどん空に日が昇ってきた。地平線から茜色の光芒が放たれ、空が生と死のサイクルの始まり、希望の色に染まっていく。

 そんな中で、俺はふと心に浮かんだ疑問を呟いてみた。呟いて、しまった。


「そういえば、先代の住民は何の為に隠し部屋を二つも作ったんだろうな?」

「……えっ」

「あ」


 空が染まった気がした。


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