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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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あられもない解明


 その言葉に熱竜の動きが鈍った。観念したのか——そう思った。

 しかし次の瞬間、琥珀にヒビが入り砕け散った。荊の魔法が解け、自由になったヒレが唸りを上げて俺に襲いかかる。


「しまっ——!!」


 俺は来たる衝撃を予想して目を閉じた。……しかし、いつまで経っても衝撃が訪れない。

 俺は恐る恐る目を開けた。薄桃色の大きなヒレが、白く小さな手に受け止められている。

 俺は息を呑んだ。なめらかな細腕の持ち主——花瓶のような身体を真っ白なバスタオルに包んだ少女が、熱竜のヒレを受け止めていた。


「レイ!?」


 振り向いた拍子に、はらりと彼女の胸元からバスタオルが落ちかける。俺は慌てて目を手で覆い、「服を着て!!」と叫んだ。




「……で、君が裸になった訳だ」


 ダレンが本当に見苦しいものを見る顔をして、人聞きの悪いことを言った。断じて裸ではない。俺の尊厳はかろうじて一枚のパンツとバスタオルに守られている。

 ダレンが崖上にやってくる前に、俺は慌ててレイに自分の服を着せた。常におはだけの危機と隣り合わせなバスタオルは、あのキングオブ馬の骨たるダレンの前に立つ装いとして相応しくないと思ったのだ。

 そういう訳で、レイは俺のタンクトップに半パンと上着、俺はパンツとバスタオルのマントのみを纏った。そしてようやく観念した熱竜の前に座り込み、ダレンの到着を待っていたのだ。


「ごめんね、二人共。実はこの村に来てから村長さんの家にお邪魔していて、さっきまでお風呂に入っていたの。お風呂で眠っていて、気がつくのが遅れちゃった」

「お風呂で寝ないで!? 危ないか……ら」


 思わず叫んだその途端、俺はくらりと目眩を起こして倒れた。慌てる二人の声が遠い。視界が真っ黒になり、今にも気を失いそうだった。

 それもその筈。俺は自らの身体をあんなに強力な魔法の中継ぎにしたのだ。全身の血管が膨張し、破裂してもおかしくなかった。

 俺がしたのは言うなれば「回路変更」。熱竜は魔力を蓄積する無生物であり、本来は魔法を使えない存在だった。しかし、熱竜はあの琥珀(木という生物から生み出された樹脂)を通して自分の身体から外に向かって魔法を放っていた。そこで俺は魔力伝導のバームを両手に塗り、右手で熱竜のヒレを掴み、左手で琥珀に触れることによって、放出された魔法が内向きに——つまり、熱竜の胸に向かうように変化させたのだ。↓の向きに流れていた魔力がUターンして↑の向きに返るようにした、と思ってくれたらいい。

 そんな訳で、俺は物凄く疲れていた。レイの膝枕に顔を埋め、サムズアップをするとダレンの軽いため息が聞こえた。


「本当にあなたが熱竜様なのですか?」


 ダレンの問いに熱竜は頷いた。


「ええ、その通りです。クラブ様、どうしてわかったのですか」


 熱竜は異形の姿のまま、俺達の知るクリスティーと寸分違わない声でそう答えた。やはり言葉の通じない怪物のフリをしていたのか。一度知り合った人間に失望される恐怖からだろう。俺は探偵のように咳払いをし、全ての謎を説明することにした。


「まず、村に現れたあなたが竜であるとわかった根拠は、その大きな琥珀です。そんな琥珀を使わないと魔法が使えないのは竜だけです。村人やダレンに成りすませたのも、竜として司るものの記憶があったからでしょう。

 そして竜がクリスティーさんであると分かった根拠は、あなたの自室にあったノートです。失礼ながら一昨日の夜、姿の見えないあなたを見つける為に家中を探させてもらいましたが……あのノートは膨大な量の参考文献から文章を書き写したようでいて、館のどこにも元となったと思しき文献はありませんでした。つまりあのノートは、あなたがあなた自身の記憶を参照して書き出したものだったのです。

 そしてあなたが竜の中でも熱を司る竜であると推測した根拠は、あの異界の天候です。あなたが体調が悪そうにしていたときがありましたね。一昨日の夕方です。あのとき、あなたの体調に連動するように入道雲が発生し、たちまち大雨が降り出した。入道雲は地上付近の空気が温められることによって起こります。つまり、あなたの体調と異界の熱が連動していたのです。

 あなたは恐らく、自分が異界を発生させるほどに慢性的に体調が悪い中で、特に夕方に体調を崩しやすいことをわかっていたのでしょう。だから一昨日の朝、夕方の天気を予想することができた。天気を読む魔法を使ったフリをしてね」


 俺はほぼ裸で膝枕をされたまま、真剣にその推理を語った。


「……全てお見通しなのですね。本当に申し訳ございませんでした。私も琥珀を使えば魔法は使えるのですが……氷を生み出す魔法はどうしても苦手で……館で魔法を使わせる為に、何十人もの人をこの村から攫ってしまいました」


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