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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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ネガティブに勝ああああぁぁぁつ!!!!


 みるみる速度を増しながら落下していく。こんなところでこんな結末を迎えるなんて、やはり俺のせいなのだろうか。俺が浮遊魔法を三つ同時に操れない、弱い魔法使いだから。


(……いや、違う)


 浮遊魔法を同時に三つ操るだなんて、国に仕えているようなエリート魔法使いにしかできないことだ。俺はエリート魔法使いを志して生きてきた訳ではなかった。寝ても覚めても魔法の練習に励んでいるような人間、あるいは魔法の才能に恵まれた人間ではなかった。

 俺はその手の努力の代わりに、レイを幸せにする為の努力をしてきた。間違っていて、粗だらけだったけど、それでもなんとか頑張ってきた。冒険者として日が暮れるまで依頼をこなして、稼いできた。そんな日々の中で魔法の練習をする余裕なんて、なかったのだ。

 俺はここに至るまでの努力を怠った訳ではない。ただ、その道を選ばなかっただけ。


「——『ネガティブに浸る為に認知を捻じ曲げてはいけない』」


 そして、ウジウジと腐って諦めてもいけない。なぜならば俺には、もう一度——いや、何度でも会いたい人が居るのだから。


「ネガティブに勝ああああぁぁぁつ!!!!」


 俺は出し抜けに叫ぶと、少女を放り投げた。そして視線を森に向け、二つの浮遊魔法と一つの風魔法を放った。

 少女とダレンが視界から消える。俺はただ一人とんでもないスピードで森に落下した。そして尖りまくった枝の数々に串刺しにされる直前で風魔法に僅かに打ち上げられ、減速して森の中に埋もれた。

 もちろん減速したといっても、相応の重力は受けている。無数の枝が服を破き、肌を抉った。そこそこ痛いが大丈夫。地面に着地した俺はすかさず杖を構えて目を閉じ、遠い繋がりの感覚だけで大急ぎかつ慎重に二人を上空から確認した拓けた場所に降ろすと、すかさず二人と自分に防護魔法をかけた。

 浮遊魔法や防護魔法に射線は関係ない。一度かけた魔法の繋がりさえ断たれていなければ、被術者の居場所もなんとかわかるし魔法もかけられる。俺はただ過負荷による鼻血を垂らし、枝葉の隙間を抜けて降り注いでは身体を掠めていく熱風に耐えながら、懸命に魔法を維持した。


「はは……」


 筆舌に尽くしがたいほどに苦しい。思わず笑いが漏れてしまう。


(当然のようにダレンも女の子も守ってるよ……)


 フェレト村のときも、過去に遡ったときも、俺は内心ではライアンやダレンを見捨てたかった。だけどレイが助けようとしてたから助けた。それはレイが好きだから? いや……俺はローレアでレイが襲われているのを見たときさえ、助けに行く勇気が中々持てなかったのだ。

 もうとっくに俺は、昔の俺ではなくなってしまった。悪い気はしなかった。


「——お兄さーーん!!」


 俺が目を開くと、同時に熱風が止んだ。俺は駆け寄ってきた少女の無事を確認すると、今にも泣き出しそうな彼女にここに隠れているように言いつけ、走って森を抜けた。


「クラブ!」

「おうお前、この後自力で崖の上来いよ!」

「は? どういう——!」


 俺は無事らしいダレンの脇をすり抜け、再び空へと飛び上がった。そして怪物と相対し、熱風の魔法を放った。


「アアアアアアァァァーーーッッッ!!」

「熱風が怖いか? お互い様だろ?」


 俺は熱風の魔法を放ち続けた。顔を苦悶に歪めた怪物が仕返しの魔法を放ちながら、こちらに近づいてくる。俺は放たれる魔法を避けながら後退し、崖の上まで辿り着いた。

 魔法を使う怪物の胸には、大きな琥珀のペンダントのようなものがぶら下がっている。俺はその琥珀に酷く見覚えがあった。今まで何度も目にしたものだ。その意味も、役割も良く知っている。


 もう俺の脳内では答えが出ていた。おさらいしよう。


 ——怪物はなぜ弱い威力の熱風に悶える? 俺の使う魔法の威力など、あの巨体の前ではたかが知れている。岩の針をこめかみに刺しても、奴は悲鳴なんか上げなかった。なぜ熱風に限って過剰な反応をした?

 また、怪物はダレンに成り済ました。なぜ成り済ますことができた? フルネームも肩書きも、口調……は少しボロが出ていた気がしたが、それにしてもどうしてあそこまで寄せられた?

 今までのことを振り返ろう。暑く風が吹き荒ぶ異界。その中にぽつんと立つ館。クリスティーとしきりに氷を欲しがる「主人」。館から逃げ出したレイ。攫われるアルーヴ村の人々。なぜかダレンの素性を知っていた怪物。熱風に悶える怪物。——導き出される答えは一つだ。

 俺は崖の上に降り立つと背中のザックを下ろし、中からバームの缶を取り出した。固めの油を両手に塗りたくり、杖も持たずに怪物の正面に突っ込んでいく。


「お縄につけ! クリスティー——熱竜!!」


 俺の横っ腹にヒレが襲い来た。俺はそれを右手で掴むと、左手で巨大な琥珀のペンダントに触れた。

 ——その次の瞬間、絶大な出力で荊の魔法が拡散した。無数の荊が熱竜を地面に縛りつける。熱竜は暴れ回り、魔法を放とうとした。しかしフルスロットルで魔法を放ち続けている琥珀にこれ以上割けるリソースはない。魔法は不発を繰り返した。


「もう人を攫って氷を作らせるのはやめろ。こんなことをしても風竜は喜ばない」


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