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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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疑心、雷鳴


 次に俺は側の野菜と白い塊を見た。それらがサラダに使われた野菜と、例のパンもどきであることは間違いなかった。しかし、数種類の野菜と隣の肉を見比べていると、何やら共通することがある気がした。何度も見比べる。そして一つのワードが心に浮き上がってきた。


「牛……牛だ。この野菜、全部ハタケウシの背中に生えるやつだ」


 ハタケウシはローレアの近郊に生息する魔物だ。異常に発達した背中に野菜が生えることが特徴で、根菜や重い野菜は生えない。大抵レタスやプチトマト、ベビーコーンを背中に生やして草原を悠々闊歩している。そしてそれを目当てに襲いかかった冒険者は蹴散らされる。そこそこの実力がないと討伐できない魔物なのだが、クリスティーは見事討伐したらしい。

 納得の声を上げた俺に、ダレンが「ねえ」と呼びかけた。彼を見ると、その手は鈴なりの白い塊に添えられていた。

 

「これってよく見たらオニフスベじゃない?」

「オニフスベ?」


 俺はそのオニフスベとやらをしげしげと見た。丸く膨れて今にも弾けそうなワガママボディ。どことなく好奇心をそそられるフォルムだ。


「薮とかに生えてるキノコだよ。俺の部下達が、よく休日に訓練場で蹴って遊んでるんだけど」

「小学生か」


 十六歳から入団できる聖テオドア騎士団はとんだジャリん子揃いらしい。

 それはさておき、つまり俺達が昨日から今日にかけて食べたものは魔物の肉と魔物の野菜、薮に生えるキノコだったようだ。キノコはともかく、魔物の討伐は危険だった筈だ。クリスティーは俺達の為に危険を冒してそれらを調達したのか? なんと涙ぐましい献身だろう。


(でもハタケウシって、この辺に居るのか?)


 小さな疑問が浮かんだが、考えていても仕方がない。現実逃避的な探索と考察は打ち止めだ。

 俺は改めて周囲をぐるりと見回した。狭い部屋の中には吊るされた食材や氷の入っているであろう木箱、料理が並ぶ棚が置かれているばかりで、俺達以外の人影は……確実になかった。


「行き詰まったなぁ……」


 俺は本日二度目となる詰み宣言をした。ずるずると壁に背を預けて座り込み、次の策を考えようとした。だが、どうせならここじゃない場所で考えたい。俺達はハシゴを上ってレイと合流した。レイ曰く、やはり物置にクリスティーの姿はなかったらしい。俺達は途方に暮れ、トボトボと物置を出た。そして扉の前で協議し、一つの結論に辿り着いた。

 ……大人しく自室で待っていよう。ここまで館中を探してどこにも居なかったということは、やはりクリスティーは雷雨に大はしゃぎして野原に躍り出る珍奇な魔物だったのだろう。ローレアの冒険者大海を知る。全く世界は広かった。

 しかしレイは納得していないようだった。彼女は外に出て、せめて館の周囲だけでも見て回ろうと言った。窓の外には相変わらずの激しい雨が降り続けている。しかし彼女の言う通り、軽く外を見て回るぐらいなら良さそうだと思った。三人がずぶ濡れになろうが一人の命には代えられないのだ。俺達は万が一の可能性を考えることにした。早速俺達が階段へと向かおうとした、そのときだった。


「皆様?」


 ——雷鳴が轟いた。俺達がゆっくりと振り向くと、杖の明かりにぼんやりと照らされた扉の前……俺達が今しがた出てきた部屋の扉の前に、クリスティーが立っていた。


「どうされましたか」

「あ、いや……」


 言葉に詰まる俺を庇うように、さっとダレンが前に出た。柔らかな笑顔を貼り付けているが、それとなく杖を前に構えている。静かな警戒の姿勢をとっていた。


「あなたを探していたんですよ、クリスティーさん。気がついたら八時で、館中の蝋燭が消えていたものですから。どこかで倒れているのかと心配したんですよ。ご無事で何よりです」

「……そうですか。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

「クリスティーさんは、今までどこに?」


 ダレンの問いに、クリスティーはほんの少しだけ目を泳がせた。しかしすぐに瞼を伏すと、俯きがちにこう答えた。


「物置の中で片付けをしていました。皆様がいらっしゃったことに気がつき、声をかけましたが、気づかれなかったようで……」

「えっ?」


 レイが驚きの声を上げた。しかしクリスティーは「なにぶんこの雷雨ですから」と付け加えると、返答の余地も与えず階段の方へと去っていった。そそくさとしたその仕草に、俺は溢れんばかりの怪しさを感じた。だが、この探索でクリスティーの厚意を改めて強く感じたのも事実。俺は見て見ぬふりをすることにした。

 しかしそれでも、今夜の客室の扉だけは死守しようと心に誓った。それとこれとは別なのだ。


「あ、皆様、あの……」


 階段の踊り場でクリスティーが振り向く。弱々しい口調と、下向きの弧を描いた瞼には申し訳なさが滲んでいた。


「夕食……ですよね。長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。すぐに夕食をお持ちしますので、先に食堂でお待ちください」


 彼女はそう言うと、階段の側で足を揃えて立った。俺達が食堂に行くのを待っているのだろう。ダレンは紳士らしく礼を言い、悠然と歩き出した。俺達も黙って彼に続いた。


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