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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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切実な思いは誰の為に


 先程扉を開けて回ったときに、この館のおおよその間取りはわかった。

 一階には調理室と食堂、クリスティーの自室と俺が氷を作った部屋があった。どの部屋もあまり物という物はなく、クリスティーが倒れるなり隠れるなりしていたらすぐに目につきそうだった。

 二階には複数の客室と物置があった。どの部屋も埃はなく清潔に保たれており、家具や物が多く隠れられそうなスペースは多そうだった。また、客室は五室あり、うち三室を俺達が使っている。その三室は探索対象から除外してよさそうだった。


「と、いってもね……」


 ダレンは困ったように眉を下げた。以上の情報から目星をつけるなら二階だろうが、隠れられるスペースがあるといってもその具合はたかが知れているのだ。せいぜい名前を呼びながら踏み入って、一分間探し回れば十分全容を見ることができた。そして先程その通りにし、一切の人影は見つけられなかった。それでも二階に意識がいってしまうのは、やはり現実を受け止められないからだろう。荒唐無稽な考えだが、最早そうとしか考えられない。


 ——クリスティーはこの館の隠された部屋に居る。


 窓がちかりとフラッシュした。数秒遅れ、地響きのような音がやってくる。館の外には帳のような雨が降りしきっている。クリスティーが外に居る可能性は考慮しなくとも良いだろう。もし彼女が雷雨を好んではしゃぎ回るような魔物ならば、それこそ心配の必要がないからだ。

 今はただ、クリスティーが館のどこかで倒れている前提で動くことにしよう。なんせレイの手前なのだ。


「心配いらないよ」


 俺は彼女に微笑んだ。もしクリスティーが何か恐ろしいことを企てていたとしても、俺が阻止してみせる。

 そういえば、館の主人の部屋がないな。やはりこの館に主人など居ないのか。それとも、隠し部屋こそが主人の部屋で、そこにクリスティーも主人も居るのか。

 いずれにせよまずは探索だ。俺達は何かしらの手がかりを得るべく、クリスティーの自室へと向かった。



 クリスティーの部屋の内装はごくシンプルだった。白いシーツのベッドにチェスト、机に壁掛け時計。飾り気のあるものは何一つなく、湿気ったバニラのような香りが充満していた。

 机の上には図鑑のような厚みの本が開かれていた。その側には二冊同じような厚みの本が積まれているが、周囲を見回してもそれらを収納できそうなスペースはない。チェストは順当に考えて服を収納しているのだろうし、もしやこの本達はずっと机に置きっぱなしなのか。俺は開かれた本のページを覗き込んだ。


「……薬草、か?」


 そこには植物の絵と文章が書かれていた。文章は横書きで、数行ごとに余白を以て区切られている。区切られた文章はそれぞれ違う専門書からの引用のようで、どれも描かれた植物の医薬的効能に関する説明のようだった。

 俺はページを捲った。また違う植物の絵と文章が描かれている。数枚捲って、それらの効能が共通していることに気がついた。


「サネブトナツメ、ロンガン、ローズウッド……」


 本の説明には、そのどれもが精神を安定させる作用を持つことが書かれている。恐らくこの本は、クリスティーが複数の専門書を読んで必要なことだけを書き出した記録なのだろう。

 かつて始祖王テオドアは活版印刷の方法を始祖達に教えたとされているが、費用や技術等の問題であまり浸透しなかった。故に現代においても手書きの本は珍しくなく、かつこの本は分厚い図鑑のような体裁なので販売されていたもののようにも思えるが、所々にある誤字と二重線がそうではないことを訴えている。

 だが、しかし。俺は傍に置かれた二冊の本のページを捲った。クリスティーの書いたものらしい絵や文章が書かれている。俺は部屋中をぐるりと見回し、チェストを見てすぐに目を逸らした。

 間違ってもチェストを開けるなどという非紳士的な行いはしないが、それでも、この部屋のどこにもあるべきものがない確信があった。机の上の三冊のノートが全て専門書から抜粋した内容で埋められているならば、それらの専門書はチェストからあぶれていなければならない。なにせ図鑑レベルを三冊分だ、膨大な冊数が情報源となっているのは疑う余地もない。そして三冊のノートからは藁にもすがるような思いが窺える。わざわざ参考文献を手放すとは思えなかった。

 ……とはいえ、これはクリスティーの行き先の手がかりにはならない。多少クリスティーの内面に迫ったのかもしれないが、それとこれとは関係ない。俺は「うーん」と頭を抱えた。するとレイが背後から近づいてきて、俺の服の裾を引いた。


「調理室は?」

「あっ、そうか」


 最もだ。クリスティーは夕食の用意をしていた筈だから、行動の痕跡が残っているとすれば調理室だ。

 なぜこんな簡単なことに気が付かなかったのか。俺はお手柄なレイを褒めちぎると、ダレンにじっとりとした目で見られながら駆け出した。

 俺達はエントランスのレッドカーペットを挟んだ向こう、調理室を目指した。


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