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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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泡沫、海中のポンポコタヌー


「それっ!」


 俺の巻き上げた波が、金剛の粒のような煌めきを散らしてレイに降りかかった。彼女は眩しそうに目を細めて両腕で身を庇ったが、抵抗虚しく波は彼女の全身にかかった。彼女はくすりと笑い、腰を入れて波を打ち上げた。倍返しに近い威力のそれを受けて危うく溺れかける。


「ひえーっ、凄い威力!」


 俺はなんとか波の中から生還し、息を吸い込んだ。レイは一瞬焦ったような顔をしたが、俺があまりの愉快さに破顔すると彼女もまた笑った。

 そしてそんな光景をココナッツジュース片手に眺めている男が居る。ダレンだ。


「本当に溺れても知らないよー」

「なんだよ、冷めてるな!」


 俺は挑発的に片眉を上げてダレンを見た。ここは白砂が陽光を照り返すビーチ。館のある小高い丘は、丁度館の裏側にあたる部分が切り立った崖になっていて、その下には小さなビーチが広がっていた。

 ダレンは崖を背後にした、日陰となる場所でデッキチェアに腰掛けていた。せっかくの海を前にしてはしゃぎもせずに観戦だなんて、冷めている以外の何だというのか。


「そうじゃなくて……」


 しかしダレンは二の句を継ぐことなく、眉間に皺を寄せた。なんだ、その「言いたくても言えない」みたいな表情は。いや、「お前の為に言ってやらない、感謝しろ」が近いか? 感謝ってなんだよ。そしてなぜ俺は表情一つでこんなにダレンの気持ちが読み取れるんだ。

 俺はなんだか癪だったので、奴の無言の忠告を無視することにした。

 レイに向き直ると、彼女のすらりとした全身が目に入った。鎖骨からなだらかな雫型を描いて膨らんだ胸、薄い腹にしっかりとした下半身。腰の左右に垂れた腕は俺の腕と同じぐらいの細さだ。なんでだよ。

 そしてそんな彼女の身体は季節外れの秋服に包まれており、水も滴る良い女ながら、厚すぎず薄すぎない生地が見事に濡れ透けを防いでいた。俺達の所持品に水着がなかったのは残念だったが、この服の防御ぶりにはガッツポーズせざるを得ない。なんせこの場には俺だけではなく、どこぞの馬の骨たるダレンが居るのだ。レイの柔肌をそうやすやすと晒してたまるものか。

 そんなことを思いながら、俺はしゃがんで海に浸かった。肩まで浸かり、海の広がる方を向くと、快晴の青空と海の境目が消えるようだ。生温い風とひんやりとした水温が気持ち良い。俺がうっとりと目を閉じかけると、隣でちゃぷりと音が聞こえた。目を開いて隣を見ると、レイが俺の真似をして海に浸かっていた。肩どころか鼻の下まで浸かる姿が可愛らしくて、笑みが溢れる。すると彼女は目を逸らして、頭のてっぺんまで浸かってしまった。


「おーい、やっぱりお前も来いよー」

「だから行かないって。ねえ、ちょっとこっち来てよ」

「はぁーー?」


 なぜ愛しのレイと離れてお前などの元に行かねばならないのか。しかし、何か重要な用事かもしれない。レイに秘密の作戦会議とか? 新しいココナッツに穴を開けろとか? 後者なら聞いてやるつもりはないが。俺はダレンの方へと身体を捻り、立ちあがろうとした。

 その瞬間、砂を踏む足が滑った。


「やっぱり!」


 くぐもった声が聞こえてくる。ばしゃりと海中に沈んだ俺は、突然の痛みに動揺することしかできなかった。足が攣った。天敵の前に躍り出たタヌキのように身体が硬直し、呆然と鼻から息を吐いた。

 そんな俺の身体はすぐにレイによって引き揚げられた。上半身を陸に横たえられて、ここが浅瀬だったことを思い出した。あまりの情けなさに顔が熱くなる。

 駆け寄ってきたダレンが俺の枕元に跪いた。俺の顔を可哀想なものを見る目で見下ろす。


「大丈夫? ほら、徹夜明けに海水浴なんてするから……」

「言えよ!」

「言ったよ、無言で」


 一言で矛盾するな。とはいえ、彼の無言の忠告は確かに俺に届いていた。それを無視したのは俺だ。少し、ほんの少しだけ反省してやる。

 俺は静かにふてくされた。そんな俺の目元をレイが何やら注視している。そういえば朝に鏡で顔を見たとき、目の下にクマができていたな。


「……クラブ、徹夜したの?」

「あ、うん。そりゃあ、一晩中扉の魔法を維持していたから……」

「……そうなの」


 彼女は悲しげに顔を歪めた。あれ? 俺、昨晩、レイに「朝まで魔法をかける」って言ったよな? 「魔法」とは言ってなかったっけ。

 うーん……あっそうか、俺は彼女に魔法を維持する方法を教えていなかった。魔法を維持している間は、術者のたゆまぬ働きかけが必要。つまり俺は朝まで起きている必要があった。しかし彼女はそんなことは知らなかった。だから昨晩の俺の申し出を易々と了承したのだろう。

 そう思うと、なんだか悪いことをしたな。意図せずとはいえ、彼女を騙してしまったのだ。だけど——


「もう私の為に徹夜は、やめてね」

「う、うん。わかった!」


 ——騙したことで、彼女を守る為の申し出を押し通せた。そのことは怪我の功名だと思った。


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