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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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ボサボサ ちゅるちゅる とぅるとぅる


 髪に櫛を入れていく。特に引っかかりもなく解ける俺の髪は、櫛を通しきった瞬間にびよんと跳ねる。俺の髪は癖毛なのだ。水をつける等工夫することもあるのだが、大抵は功を奏さない。心なしか頭の右側に毛量が偏ってる気がするし。俺はもう素敵なヘアスタイルを諦めたのだ。俺は櫛を丁寧にしまい、部屋を出た。


「あ」


 ダレンと鉢合わせてしまった。俺と同じく自室を出てきたばかりの彼は、今日も嫌味ったらしくシルクのようなポニーテールを垂らしている。

 かつて艶の一つもない荒れ放題の髪をしていた彼が、なぜそのような髪になったのかは想像に難くない。レイの影響だろう。俺はそんな彼に、「え〜ダレンくん髪綺麗〜ヘアケアどうやってるの〜?」なんてことを聞いたりしない。俺は彼を無視して、階段の踊り場へと向かおうとした。

 だが、俺はその瞬間に足を止めた。階段の踊り場にクリスティーが居た。彼女は壁に飾られたレリーフを、感情の読み取れない顔で見上げていた。


「クリスティーさん、おはようございます」


 俺は彼女の元に歩み寄って声をかけた。そして彼女の向く方を向くと、レリーフの飾られた壁の両隣にある縦長の窓が目に入った。白い窓明かりが眩しくて、思わず目を細める。


「晴れましたね」

「そうですね」

「今日、ここを出て行こうかと」

「そうですか?」


 彼女は俺を見て、困った風に首を傾げた。


「多分、この快晴は夕方までです。夕方からはまた嵐になるかと」

「えっ……?」


 なぜそんなことがわかるのだろう。俺の疑問を察したのか、クリスティーは再び壁のレリーフへ向くと、目を閉じて祈るようなポーズをした。

 すると、辺りに緑色の光の粒が浮き上がった。蛍のようなそれは、オーロラのような光と共に宙を舞った。そしてそれらは、クリスティーが目を開くと微風と共に消えた。幻のような光景だった。


「このようにして、天気を読んでいるのです」

「なるほど……」


 俺はレリーフを見上げた。野うさぎ達が遊ぶ様子が描かれた木彫りのレリーフ。野うさぎ達の頭上には太陽だろうか、大粒の琥珀が嵌め込まれている。

 俺は自分の杖を思い出した。頭部には琥珀、石突には鉄の覆いがあしらわれた木製の杖。このレリーフは天気読みの魔法を使う為の杖のようなものなのだろうか?


「さて、クラブ様、ダレン様。朝食ですが、まだ完成していないので完成し次第お呼びしますね。八時頃でしょうか。それまで自室でお待ちください」

「あ、はい」


 そうして俺達はとんぼ返り。ものの数歩の冒険を終えて、自室で窓の外を眺めた。が、俺は急にコーヒーが飲みたくなった。レイの部屋の扉をノックし、出てきた彼女に「コーヒーを淹れて」とおねだりした。そして部屋の中に招かれた俺は、ふわりと甘く苦いアロマが漂う中で、至極の一杯を味わった。レイと語らい、穏やかな時間を過ごした。そうしているうちに、扉の向こうから声がかかった。


「失礼します」


 そう言って扉を開いたのはクリスティーだった。彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに軽く頭を下げた。


「朝食の準備が整いました。食堂までお越しください」


 壁に掛かった時計を見ると、針はきっかり八時を指していた。



 朝食は昨晩と変わらない感じだった。先程、踊り場に出たときに既にわかっていたことだが、やはり食堂に向かうまでの道も食堂も蒸し暑く、昨日の氷が空調に使われた様子はなかった。そんな中、テーブルについた俺達の前には昨日と同じステーキとサラダ、パン、最後に水がお出しされた。無味と変な味が鮮やかなコラボレーションを遂げていたが、なんというか、無償のもてなしに心中でケチをつけるのも悪い気がしてきた。

 クリスティーの正体が何であろうが、雨宿りのできる場所とふかふかの寝床、食事を俺達に与えてくれているのは事実なのだ。あまり邪険にすると可哀想だ。俺は彼女に礼を言い、「今日も氷を作るのを手伝います」と申し出た。だが……


「せっかくですし、午前中は海で遊んできてはいかがですか?」


 ……という暖かな返事が返ってきた。あー、なんというか、完全に警戒を解きそうな自分が居る。なんせあれだけ警戒していた昨晩、何も危険なことは起きなかったのだ。そして俺は不器用な好意に弱い。俺はクリスティーに好感を抱き始めていた。

 俺達はクリスティーに礼を言い、食堂を出た。これからどうするか——それはもちろん彼女の厚意に甘えるのである。

 海で遊ぶ。とても甘美な響きだった。


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