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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 異界編
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【挿絵あり】凸の憂鬱をめいいっぱい伸ばして

挿絵(By みてみん)




 さて、かくして仲間を増やした俺達は出立した。すごーく、とてーも、不本意だが、俺とレイの間にダレンが挟まった。朝焼けが雲の立ち込めた空を焼き尽くし、灰と茜のまだら模様を作っている。俺達は身体を真っ黒に染めて、太陽に背を向けて歩き出した。

 馬及び馬車はこの世界において、街の中専用の乗り物である。馬に乗ったまま街を出れば、たちまち獰猛な魔物に襲われ、馬はたやすく騎手や乗客を振り落として散り散りに逃げていってしまう。羊飼いなんかは、魔物の襲撃による羊の減少や自身の死を前提とした危険な仕事だ。

 故に、俺達は徒歩で行軍する。ジョージとその馬達は異質だった。葦毛と鹿毛の二匹が居たが、どちらも忠誠心が高く賢い馬達だった。彼らはどのような調教をされていたのだろう?

 俺達が向かうのは南西のアルーヴ村だ。なんでも村人の失踪事件が多発しているらしく、啓鐘者(アウェイカー)の影響と思われるそうだ。


「いやいや、それってさ。既に瘴気がばら撒かれた後じゃん。啓鐘者(アウェイカー)はとっくに村から居なくなってんじゃねえの?」

「しかし、直近で影響が報告されたのがそこだからね。それに、事件は見過ごせないでしょ?」


 ……とのことだった。まあ、始めの一歩はこんなものだろう。長旅になればなるほど、旅を終わらせたくない俺にとっては有利なのだ。最も、あまりにも長引くと世界が啓鐘者(アウェイカー)によって滅ぼされるかもしれないが……

 ぼんやりとそんなことを思い、俺は落ちていた小石を蹴った。小石が転がる方向、俺達の前方に凸の形の影が伸びている。

 実のところ、俺とレイは同じぐらいの身長だ。互いに男にしては低く、女にしては高い身長をしていた。そしてそんな俺達の間に、俺達よりも頭半個分身長の高いダレンが挟まった。

 さながら双子の間に挟まる義兄。何とも憎たらしいことだ。俺は再び小石を蹴ると、口をつぐんでただもくもくと歩を進めた。



 暑い。異常に暑かった。

 時刻は夕方。夢がうっそりと立ち込めたような、濃いめのカシスオレンジのような紫と橙のグラデーションの空。魔王のような太陽が照らす短草の草原に、一本の砂の道がグネグネと伸び、真っ黒なヤシの木が乱立してざわざわと揺れている。それらの足元には砕けたヤシの実が落ちていて、セロトニンに作用しそうな香りを放っている。


「良い夢なのに悪い夢みたいな光景……」


 レイが言い得て妙なことを言った。確かにそうだ。浮遊感に寝苦しさが伴うような感覚の理由は、やはりこの場所の異常さにあるのだろう。とにかく暑い。

 ダレンも早々に鎧をキャストオフして、冒険者然とした軽装を纏っている。この暑さでは敵襲よりも先に鎧の熱で焼き殺されそうだからな。


「君はこの暑さは平気?」

「いや、全然きつい。本当にきつい」

「そう? でも薄い上着ぐらいは羽織ったらどうかな。直射日光が痛いだろうから」


 訳:ガリガリのタンクトップ姿見苦しいんだよ、隠せ。にこやかに優男然とした笑みを浮かべているが、本音はそんなところだろう。俺は意地でも上着を羽織らないことにした。


「というか、直射日光って感じじゃなくない? 蒸し暑くない?」

「確かにそうだね。空をご覧。こういう空をしているのは、大体天気が悪くなる前の日で——」


 ——轟音。


「あっ」


 ダレンの背後で稲妻が爆ぜた。……豪雨。俺達は弾かれるように走り出した。


「待って待っておかしいおかしい!」

「なんでこんな突然!? 前の日って言ったよね!?」


 そう叫び合っている間にもみるみる空は曇り、雨脚が強まっていく。一面広がる草原の中に、たった一つだけ建物があった。前方左側の小高い丘の上にぽつんと建つ、逆光に包まれた館。

 ……その館は今までずっと、俺達の前方に見えていた。しかし全員が示し合わせたように、口にしないようにしていた。なぜなら異質だったからだ。この異常な環境で、周囲に村も集落もないのになぜか聳える一棟の館。明らかにおかしかった。しかし突然の雷雨に困った俺達は、藁にもすがる思いでそこを目指して駆けていった。

 間近にやってくると、それが想像以上に大きな館だということがわかった。唐草模様のフェンスやライオンの形の錠前がある訳でもなく、嵐の野原に野晒しの館は石造りで、雨だれに汚れていた。


「すみません、誰か居ませんか!」


 俺は声を張り上げて扉を叩いた。ダレンが首を振って割り入ってきて、錆びたドアノッカーを手に取る。その瞬間、「いっ」と声を上げて手を引っ込めた。錆が手に刺さったのだろう。

 するとドアノブが回転した。細い悲鳴のような音を立てて扉が開き、暗闇から真っ白い顔が現れた。

 それは中年ほどの女性だった。三角巾を被った、ふっくらとしているのに生気を感じさせない顔。落ち窪んだ目の下には隈があり、団子鼻には油が浮いている。整えられていない眉は下がり、全体的に不安げな様子が滲んでいた。


「……どなたでしょうか?」

「突然押しかけてしまい申し訳ありません。我々は旅をしている者ですが、雷雨に降られてしまいまして。どうか雨宿りをさせていただけませんか?」


 ダレンのセリフだと思ったか? 俺だよ。俺だって敬語ぐらい使える。

 女性は俺の目をじっと見つめた。なんだかちょっと不気味な女性だ。俺は息を呑んで見つめ返す。


「……どうぞ」


 彼女はそう言うと踵を返した。閉まりゆく扉を慌てて手で止める。

 なんとか滞在が許されたことにほっとしたが、彼女はこの館の使用人と見える。主人の許可なく見ず知らずの人間を招き入れて良いのだろうか? ますます奇妙だ。しかし、この状況下では彼女の厚意に甘える他に選択肢はない。俺はゆっくりと扉を開いた。そして、現れた館の内部の様子に絶句した。

 中には明かりの一つもない、一面の暗闇が広がっていた。


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