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冒険者クラブのヘタレ的純愛  作者: ボルスキ
第三章 ダレン編
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選択肢

「ダレンがウルフェンの女王様だったり、蹴られたと思ったらぶたれてたり、イカれたホモソーシャルみたいですよ」

「あながち間違いではないだろうね。国の征服という最も『男らしい』行為を経て生まれた団体だから、仕方がないよ」


 俺は立ち上がって服の埃を払うと、ハンクスと共にレイのところへと戻った。一人取り残され、右往左往していた彼女の口に戦利品のラズベリーを差し入れて落ち着かせる。そうして俺達は、満杯になった皿を持って歩き出した。


「先ほどの教え……倣い方が間違っていませんか? あれ、教典だかなんだかと一言一句同じ言葉ですか?」

「同じだとも。——汝、欲に従いなさい。ただし己が支配を受けたなら、天を仰ぎなさい」

「俺には、『一度あえて欲のままに振る舞って、挫折を知ることで成長しなさい』という意味に聞こえるんですが」

「……そうだね。団長殿も、よくそうおっしゃるよ」


 俺は石像の前のテーブルに着くと、椅子を引いて腰掛けた。



「——で、その通りなのか」


 俺の目の前にはダレンが腰掛けている。時刻は午後一時半。他の騎士達とずらした昼食の時間、他に誰も居ない食堂で、俺とレイは「団長殿」と向き合っていた。


「うん。その通りだよ。なんならハンクスさんも同じことを思っていると思う。だけどこう、難しいんだよ。根付いてしまった習慣を変えるのは……」

「変わったら困るからだろ?」


 俺はフォークでダレンの顔を指した。


「少し前のテオドア教では、先の教えは『挫折を知れ』と解釈されていて、清貧が持て囃されていたらしいな。しかしゴッズランドと聖テオドア騎士団は、それを都合の良い風に解釈し直した。支配こそが正義と捉えたんだ。だから騎士団は——お前の前任の騎士団長は、修道会的な活動の一貫として、寄進された領土を騎士達に分配し、支配させるようになった。そして今、その制度が変わったら困るのはお前だよ。ダレン」


 つらつらと語った俺の考察に、ダレンは困ったような笑みを浮かべた。


「う〜〜〜ん……」


 しばらく彼は言葉を探した。貼り付けたような綺麗な顔で。しかし、やがて。


「そうだね」


 ……と首肯した。


「家の赤字はどうなった?」

「半分は借金を返済したよ。増やす人が居なくなってね。そう、母が亡くなった。父の後を追うように、病気になって亡くなったよ。

 そして商会の経営権は俺の弟に移ったんだけど、まだ幼くて経営のさせようがないから、父の旧いご友人に教育を任せてる。だから商会の収入はゼロだし、ついでに弟は母の遺言で大学に行かせることになっていてね。まだまだお金が必要なんだ」


 よその家ながら中々酷い母親だ。その遺言によりダレンが感じた惨めさは察するに余りある。しかし、その遺言を愚直に守ろうとしているダレンもまた、なんというか。「正義」というよりもその次のカードが相応しいな。

 さて、最初に聞きたいことは聞けたが、聞きたいことはまだまだある。どれから聞こう……?


・ジョージの死のこと→次のページへ

・騎士団長になった理由→次の次のページへ

・女王様なの?→次の次の次のページへ

・ウルフェンについて→次の次の次の次の……


—————————————————————————


 という冗談はさておき。今は最低限必要なことだけを絞って聞くとしよう。数ある疑問の中でも一番重要な疑問は、やはり……


「変なシスターに覚えはない?」


 これに尽きるだろう。

 質問をしたのはレイだった。背筋を伸ばし、真っ直ぐにダレンを見つめる彼女に淀みはない。澄んだ眼差しには、探究する者の覚悟があった。

 ダレンはぱちりと瞬きをした。驚いたような、ほっとしたような顔をした——その様子に、俺は嫌な予感がした。なんだか、大きなパズルの最後のピースを与えてしまったような。


「……うん、君達も彼女を追っているんだね。それならとても丁度良い。うん、本当に丁度良かった」


 嫌な言葉を繰り返すな。ダレンは若い顔つきに優美さを湛え、こう言った。


啓鐘者(アウェイカー)について話をしようか」


 それは途方もない何かを背負った言葉だった。


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